05 - 12月8日。図書館にご一緒しませんか?
「どうするー?」
2日目の期末考査を終えた下校時。駅前のコンビニでピザまんを買い込んだ美冬はこの後について話している由宇と遥にかけよった。
「図書館行く?」
遥が首を傾げて問う。
「そうだね。家だとだらけちゃうしね」
美冬はピザまんを取り出しながら言って、それに賛同するように由宇も頷いていた。
「美冬ちゃん」
そんな中、不意に声がかかる。聞き覚えのあるようなないような声。美冬が振りかえって確認する前に遥が叫んだ。
「宮笠サンに結城サン!!!!」
そのとおりに美冬に声をかけてきた和人がにこやかに、そしてその後ろに興味なさ気な玲がいる。
「こんにちわ」
和人は美冬だけでなく由宇と遥にも視線を向けて笑いかける。
「「こんにちわ」」
爽やかな笑顔に由宇までもが遥とともにほんの少し頬を染めて挨拶していた。
「どうしたの?」
美冬が和人に話しかけると、「美冬ちゃん見かけたらか話しかけただけだよ。王藍も今期末なんだね」と言ってくる。
(……私この人と友達だったっけ)
そんな失礼なことを一瞬考えながらも、そう言えばこの前ケー番を交換したんだったと思いだす。
「西南も三期制なんだね」
「そうだよ。ところで皆はこれから帰るの?」
「今から図書館に行って勉強するんですよっ。宮笠サンたちもよかったら一緒に行きませんか!?」
勢いよく遥が割って入ってきた。
「いいの?」
和人がぱっと顔を輝かせる。
「もちろん!! ね!! 美冬!、由宇!!」
有無を言わせない遥の満面の笑みに、ただ黙って頷く美冬と由宇。
「おい……」
話が落着しそうだったのを遮ったのは、それまで黙っていた玲だった。
不機嫌丸出しの様子の玲の肩に和人が笑いながら手を置く。
「みんなで勉強しよーよ。今日はどうせ暇だろ?」
「そうですよ! テスト勉強は大事だしっ!」
遥が勢い込むように玲のほうへ身を乗り出す。
だが玲は明らかに不服のようで、いまにも断りそうに口元を歪めた。
「いいじゃん。みんなで一緒に勉強したほうがはかどるし」
ついこの前まで縁もゆかりもなかった玲と和人。はたして現時点でも顔見知りとしか言えないが、わきあいあいと勉強したりするのが美冬は嫌いではなかった。
だから、美冬は手に持ったままだったついさっき買った物を武器に玲の前にたつ。
ほい、とそれを半分にして差し出した。
なに、と玲が不審そうな眼差しをよこしてくる。
「ピザまん。半分上げるからさ。一緒勉強しよーよ」
美冬は笑って言った。
一瞬玲はきょとんとして、そしてふっと冷笑した。
「………お前って、まじで――――食い気しかなさそーな女だな」
ついで出てきた言葉は、あきらかに嘲笑が含まれていて。美冬は一気にこの男を誘ったことを後悔せずにはいられなかった。
むっと睨んでくる美冬をまったく気にもとめる様子のない玲。
そんな二人の横で、残された友人たちは図書館に行こうと話をまとめたのだった。
暖房がよく効いた図書館の学習室。
6人掛けのテーブル席に美冬たちは腰を下ろした。
席順はなぜか由宇、和人、遥。そして向かいに美冬、玲という並びだった。
「きゃー! 結城さんと宮笠さんとお勉強できるなんて、感激ですー!」
遥がハイテンションで目を輝かせて玲や和人に視線を飛ばしている。
「遥ちゃん、さん付けとか敬語とかいいよ。同じ年でしょ?」
「えー、そうですかぁ? じゃー、和くんって呼んでいいですか? 私のことはハルルって呼んでください!」
(なんだよ、ハルルって!)
参考書を開きながら、思わず心の中で突っ込む美冬。
それは隣の玲も同じようで、呆れたようなため息が聞こえてきた。
「うん。いいよ。好きに呼んで? ハルルちゃんね。了解」
遥のテンションの高さに引くこともなく、にっこり和人は笑っている。
「白井さんは、由宇ちゃんでいいかな?」
「いいですよー」
「それじゃあ美冬ちゃんは……、みーちゃんでいいかな?」
「はー………い?」
美冬ちゃんは美冬ちゃんのままだろう、と思っていたから、疑問形での返事となってしまった。
(な、なんでみーちゃんなんだろ?)
それは美冬以外も感じたらしく由宇や遥もきょとんとして和人を見ている。そして玲は一人胡散臭そうなものを見るように和人を一瞥し、ノートに視線を戻していた。
「みーちゃんって響き、可愛くない? 呼んでみたかったんだよね」
「……あ、う……ん。い、いいよ?」
「“みーちゃん”って柄かよ」
ぼそり隣から聞こえてきた声に、美冬は即座ににらみつける。
「結城くんは“あーちゃん”とでも呼んであげよっか?」
わざとらしく嫌がりそうなことを言うと、玲もまた美冬をにらみつけた。
「ほら、ほら、仲良くしようね、君たち」
和人が苦笑しながら仲裁に入る。
美冬と玲は一瞬視線を合わせると、お互い舌うちして顔を背けた。
「二人って仲いいんだね〜」
のんきそうな声で言ったのは遥。
(どこが!?)
心の中で叫ぶ美冬をよそに、向かい側の和人たち三人は気を取り直したように仲良く勉強を始めだした。
美冬と玲の間には氷のような冷たい空間が漂っている。
だがそれもまた図書館を出るころには多少解凍されていたのだった。