Bitter Sweets
04 - 12月5日、6日。土日は一歩進展?なのはメガネくん。


 ベッドの上に寝転がり、ポテチ片手、もう片方で雑誌をめくる。
 そのベッドに寄りかかるようにして床に座って雑誌を読んでいるのは由宇。
 土曜日の昼下がり、ベッドを占領してくつろいでいるのは美冬だが、由宇の家へ遊びに来ていた。
「もうすぐクリスマスかー」
 見ていた雑誌の特集コーナーがクリスマスのイルミネーション。
 『恋人たちの』だのなんだのカップルをあおりたてるようなキャッチフレーズが躍る紙面。
 美冬はそれらを斜め読みしながら、ため息混じりに呟いた。
「ねー、クリスマス例年どおり?」
 由宇にたずねる。それは確認の意味合いが多い。
 毎年クリスマスは由宇の家で過ごしていた。去年は遥も一緒にささやかなパーティを由宇の部屋でしたが、今年はカレシがいるから来ないだろう。
 美冬と由宇はいつからかもう記憶にないくらい前からクリスマスは一緒だった。
 彼氏いない歴=年齢じゃないが、なぜかこの時期にいたことがない。
「うん。一緒」
「おばさんに、今年はチョコケーキ希望って言っててー」
「あとで直接いいなよ」
「あーい」
 お互い顔を合わせもせず雑誌に視線を落したままのダラダラな会話。
 ちょうどそれが途切れた時、ドアがノックされた。
「姉貴ー」
 そう言って入ってきたのは由宇の弟・太一。
「よぉ、イタチー!」
 起き上がるでもなく、そのままの体勢で手を振る美冬に太一は顔をしかめる。
「美冬……。俺の名前はイタチじゃねー! 太一だって!」
「どっちも一緒じゃん」
「違う!!」
「なに、太一」
 由宇がうるさい二人のやり取りを遮った。
「あー、英和辞典貸して」
 太一の言葉に「本棚」と由宇が短く返す。太一は本棚に行って目当ての辞書を手にする。
「なに勉強してんの!?」
 美冬が驚きの声をあげると、また太一は顔をしかめた。
「当たり前だろ。俺、受験生!」
 太一は由宇と二個下で中学三年生。
「そうだっけ」
「そうだよ!」
「どこ受けるの?」
 美冬はようやく起き上がると座りなおして太一を見た。
「西南」
「……西南ー?」
 思わず嫌そうな声が出てしまったのはピザまん男こと結城玲を思い出したから。
「じゃーな。あんま美冬と喋ってたら馬鹿が移る」
 太一はニヤッと一言残すと辞書を持つ手を軽く振って部屋を出て行った。
 パタンとドアの閉まる音とともに、また美冬はベッドにあおむけに寝転がる。
 雑誌を開きながら、
(まぁ、そんな悪そうなやつじゃなかったけど、あいつ)
 昨日遅刻のときに出会ったことを思い出して、そんなことを考えていた。
 そして縁のなさそうなクリスマスデートプランと書かれてあるページに視線を走らせたのだった。




* * *




 翌日、昨日とは逆に美冬の家に由宇、そして遥が来ていた。
 テーブルに所狭しと広げられたのは教科書、参考書、問題集。
 明日から期末考査が始まる。本当は昨日も由宇の家で勉強するはずだったのが、きづいたらダラダラと雑誌を読んでいた。
 昨日の遅れを取り戻そうと、今日は真面目に勉強中。
「んー、わかんない」
 勉強開始からまだ30分、美冬が無理とでも言うように鉛筆を投げだす。
「「頑張れー」」
 教えるほどの余裕もない友人たちは口を揃えて言った。目は参考書に落とされたまま。
 美冬は軽くため息をついて参考書を見ながらベッドにもたれかかる。なんとか理解しようと必死に読み込む。
 だがやっぱりすぐに限界は来て……。
「コンビニ行ってくる!」
 あっさり勉強を放棄すると、息抜きがてら近所のコンビニへと向かった。







 徒歩5分のとこにあるコンビニに入ろうとしたとき、ちょうど出ようとしていた男と目があった。
「美冬ちゃん?」
 イケメンの男が驚いたように声をかけてくる。
 見覚えはあるが誰だか思いだせずにいると男はポケットからメガネを取り出してかけた。
「あ、あー!」
 和人だった。
「メガネかけてなかったから、わかんなかった」
「学校ない日は外してたりするんだ。それにしても奇遇だねー。家この辺?」
 美冬の格好はスエットにダウンと、恥ずかし気もなく部屋着そのまま。
「……うん」
 さすがに顔見知り、しかもイケメンに見られると恥ずかしさを感じる。
「俺は友達んちに行く途中なんだ」
「へえ。この辺なんだ?」
「うん。もしかしたら一緒の中学とかかもしれないね。松井て言うんだけど」
「んー……知らない」
「そっか、残念。美冬ちゃんはピザまん? チャーシューまん?」
 和人が少しからかうような笑みを浮かべている。
「……そんな毎日肉まん系ばっかり食べてないよ。この前あいつに会った時はチャーシューまんだったけど」
 口を尖らせて言うと、和人はキョトンとした。
「あいつって……、アキ?」
 頷くと、和人は少し驚いたようにして、すぐに楽しそうに目を細めた。
「アキと喋ったんだ?」
「たまたまぶつかって、ちょっと話しただけだけど」
 そう、と和人は言いながらも奇妙なほどニコニコしている。
「ところでさ、ケー番交換しない?」
 唐突に、和人が携帯を取り出して笑いかけてきた。
 一瞬戸惑うも、まあいいかと赤外線通信。
「メールするね」
 爽やかな笑顔を残し、和人はさっさと去っていった。
 まるで流れ作業のように自分の携帯番号をゲットしていった和人に呆気に取られてしまう。  美冬はしばらくその場に立ち尽くしていたが、寒さに我に返ってコンビニに入っていった。