『Sweet Eden』



3





「ああーもうっ、わかんないっ!!」
 今日何度目かわからない大声をあげて中野由比は床に寝転がった。
 テーブルの上には参考書とノートや筆記具が所狭しと広がっている。
 アイスティーを飲みながら、夏希はテーブル越しに由比を見る。
「あのさー、さっきからうるさいんだけど」
 冷たく言うと、由比がムッとしたように半身を起こした。
「なによ、その言い方ー! 夏希が言い出したんでしょー。一緒に宿題しようって」
 夏休みも残り2週間をきった今日この頃。山のようにある宿題にそろそろとりかからないとまずいと2人は集まり夏希の部屋で勉強しているのだ。
「そうだけど」
 嘆息して、頬杖つく。
「いつものことだけど、由比って勉強になると集中力の途切れ方がすごいよね」
「なにそれ、イヤなかんじねー!」
「事実じゃない」
 言いながら、参考書に視線を落とす。
 しばらく床でごろごろと寝返りを打って、由比も再び起き上がり参考書を手にした。
「ねー、今日伊織くんいるんでしょ」
「うん」
「呼んで、一緒に勉強しようって言おうよ」
「伊織はもう宿題終わらせてると思うけど」
「だから! いいのよ」
 いいのよ、って学校違うじゃないか。
 そう夏希が思うも、由比は伊織を仲間に加えることを決めた様子で、テーブルの片隅を整理した。
 夏希の返事も聞かずに部屋を出て行く。
 開け放されたドアから冷気が逃げていき、かわりに廊下の蒸し暑い空気が入り込んできた。
 隣のドアをノックする音と、由比の「伊織くーん」と猫なで声が響く。
 おそらくはこの事態を予測していたような伊織の生返事が聞こえてきた。
 数回のやり取りのあと、由比は戻ってきた。そのあと少しして、伊織が数冊の参考書を片手に入ってくる。
「それでどこが分からないって?」
 由比にかけられた言葉は優しげだ。宿題を手伝わされるにも関わらず、不服そうな様子は微塵もない。逆に夏希のほうが不服そうに、面白くなさそうに宿題をしている。
 だが伊織と楽しげに宿題をする由比に対して嫉妬はわかない。
 由比には一志という彼氏がいることをしっているから。
 夏希は一人もくもくと問題を解いていっていたが、しばらくして手を止めた。じーっと眉間にしわを寄せて問題集を見つめる。
 ふと問題集に影がさす。顔を上げると伊織が覗き込んでいた。シャープペンで問題の文面を軽くたたく。
「ここは―――」と、わかりやすく説明する伊織。小さく頷きながら消しゴムをかけ、そして答えを書き込む。「正解」と言う伊織の声に、ふっと夏希の頬が緩む。だが、すぐに引き締めた。
 それから伊織の助けもあって、夏休みの宿題は順調に片付いていった。
「ねーねー。そういえばさ」
 一時間と少し、まじめに宿題をしていた由比だったが、いい加減疲れたのかシャープペンを放り出して頬杖をついた。氷の解けきってしまった水っぽいアイスティーを飲みながら、ふと思い出したように呟く。
「充、いまめちゃくちゃバイトしまくってるんだって」
 つい最近ふったばかりの名前がでてきて、同じく喉を潤していた夏希は思わず咳き込んだ。
 眉を寄せて由比をにらむが、一向に気にする様子もなくわざとらしいため息をつく由比。
「どっかの誰かさんに振られて寂しい夏休みを働いて過ごすことにしたらしいよ」
 夏希はチクチクと針で刺されるような痛みを感じた。
「あっそ」
 それでもそっけなく言い返すと、由比が冷めた目で見つめる。
「ほんっと罪作りな女」
「ウルサイ」
「だってさぁ、高校入って何人目だよ」
 中学時代からの親友である由比は、夏希の初めての交際からすべて知っている。
 だが夏希の本当の気持ちは知らない。
 だから伊織の前でも平気で彼氏の話をすることが多い。それは仕方のないことなのだが、このときばかりは疎ましく思ってしまう。
 由比に"本当のことを言ってしまえば″少しは楽になるような気もするが、どうしても言うことはできなかった。
 夏希はちらり伊織を盗み見るが、まったく興味なさそうに参考書を眺めている。
「あたしは心配してんのよー。夏希に幸せになってほしいって。ねぇ、伊織くん」
 ん?、と苦笑気味に伊織が顔を上げた。
 一瞬目が合う。なぜか気まずさを感じて、あわてて問題集に視線を落とした。適当な場所を指差して、空気を変えようと大きな声を出す。
「ね! ここ! ここがわかんない、伊織!」
 話をはぐらかされた由比はじろり見るが、夏希の質問した問題を見て「あたしもそこわかんなかった」と呟く。
 伊織も問題を見て、ああ、と視線を本棚へと向けた。
「夏希、古語辞典取って」
「なに辞典?」
 聞き覚えがないといったように夏希は首をかしげる。
「古文で使うやつだよ」
 伊織と由比の視線を浴び、夏希はわざとらしく視線をそらす。
 適当にさした問題は古文だったのか、と考えながら、さらに辞書について考えをめぐらせる。そして「学校」と言った。
「学校? なんでよ」
「え? だから、1学期の終わりに、置きっぱなしにしてきたんじゃないの」
 まるで他人事のような口調に、伊織と由比はため息をつく。
「夏休みなのに、学校に置いてたら宿題できないじゃん」
 呆れ調子の由比に、その通りと自分自身思いつつ、そっぽを向く。
「伊織の借りればいいだけだし、別に問題ないし」
 そう言いつつ、重い腰をあげ、伊織の部屋へと辞書を取りに向かった。
 きちんと縦並べられた本棚から目当ての辞書を探す。分厚い濃い緑の辞書を見つけ、取り出そうとしたとき、小さな音が響いた。
 思わず身をすくませ、着信音、と思い振り向くとすでに音は切れている。ベッドに置きっぱなしにされたケータイに恐る恐るちかづいて覗き込む。メールの受信音だったようだ。
 そのまま、本棚へと戻ろうとしたが、液晶に表示された名前に手が伸びた。
 折りたたみ式のケータイを広げ、受信メールを開く。
『広瀬』
 敬称も何もなく登録された名前が送信者だ。
『今週の金曜日』
 まるで事務連絡のようなタイトル。
 夏希はじっとそれを見つめ、そして壁を見た。仕切られた壁の向こう側では伊織が勉強をしている。
 伊織のケータイなのに、いまそれを手にしている自分。
 だが、どうしても気になり、一呼吸置いて、メールを開いていた。
 内容は金曜日に海に行かないかという誘いだった。綾だけではなくクラスメイト数人も一緒だということがかかれている。
 ギュッと握り締め、ケータイを見つめる。じっと見下ろして数秒。返信ボタンを押すと、手早く入力していく。
『週末は用事があるから無理』
 そう短く返事をつくり、送信ボタンに指をかける。
 そっと息を吐き出し、一瞬後、目を閉じボタンを押す。
 してはいけないことをしてしまった。
 そんな想いに胸が苦しくなる。
 だがすでにケータイはメールを送信し終えたというメッセージを映し出している。
 受信メールと、その返信メールを削除して、ケータイをベッドの上に戻す。
「――――見つからない?」
 怪訝そうな伊織の声が背後からして、ビクッと身を震わせて夏希は振り返った。
 開け放しにしていたドアからちょうど顔を覗かせた伊織がきょとんと夏希を見つめる。
「どうしたんだよ。真っ青だけど」
「え? あ、あぁ……。暑い部屋に入ったらちょっと立ちくらみがしただけ」
 本棚へと視線を流しながらさりげなく答える。辞書を取り出し逃げるように部屋を出た。
 伊織がちらり部屋の中に目を向けたが特になにも言うこともなかった。
「いつも冷房ガンガンにかけてるから弱ってんだよ」
 小さく笑う伊織を軽くにらむようにして、夏希は心の中で深いため息をついた。
(あたしって………ヤな奴……)
 広瀬綾はただの友達。そう分かっていても、なにか不安で夏希についさっきの行動を起こさせた。
 不安と罪悪感を心の奥底に閉じ込めるように深呼吸をひとつして、なにもなかったかのように部屋へと戻った。














 ケータイの着信音に、夏希は身をすくませた。
 茶碗を持ったまま、箸をもったまま、息を止める。だがそれもほんの一瞬で、何事もなかったかのように夏希は食事を再開する。
 食事の席を立ってケータイに出たのは父親。夏希の横に座っている伊織はもくもくと食べている。
 夏希はお味噌汁を飲んで、そっとため息をついた。
 小心といえるほどビクついた自分に内心失笑してしまう。
 由比と宿題をして、もう数日がたっている。あのとき、綾から伊織にきたメールを勝手に見て、あげく返信したうえで削除してしまったことが、心の中にわだかまっていた。
 後悔したわけじゃない。自分の馬鹿げた嫉妬だと自覚もしている。
 ただ、伊織にバレたときのことを考えると少し、怖かったのだ。
 今日まで伊織から何も言われていないから、ばれてはいないのだろう。ばれてしまったときは、軽く冗談っぽく謝ればすむだけだ。そう考えてる。
だが、伊織から非難的な目で見られたら、嫌われたらと思うとバカバカしいほど気弱になってしまっている自分がいた。
 ケータイがなるたびにいちいち反応する心臓に、もう一度ため息をついてごはんを口に運んだ。
「なに、ため息ばっかりついちゃって」
 母親が嫌そうな顔をして夏希を見る。
「別に」
「若い娘がため息なんてついてたら老けちゃうわよ」
「…………」
 うるさい、と言いかけて飲み込む。
「それよりも、明日からよろしくね」
 母親の言葉に夏希は首を傾げると、伊織が言った。
「明日から、温泉旅行にいくだろ」
「ああ。叔父さんたちと」
 夏休みに子供を残して、両親は叔父夫婦と温泉旅行に行くことになっていた。
「お土産忘れないでよね」
 はいはい、と母親の笑い声が食卓に響いた。

















 自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、夏希はうっすら目を開けた。
 顔を上げ時計を見ると、朝の8時。
 もう少し寝てよう、そう思う。
 だが、「夏希ー!!」と母親の呼ぶ声に、しょうがなく起き上がった。
 そしてガチャッ、とノックもなしにドアが開き、顔をのぞかせたのは伊織。
 寝ぼけた眼差しを向ける。
「おい、まだ寝てるのか? もう出かけるぞ、母さんたち」
「………でかける?」
「ほら、三崎叔父さんたちと一緒に温泉行くって」
 ああ、と気の抜けた声で相槌を打つ。
 そういえばきのうの夕食のときに母親が温泉だと言っていたのを思い出した。
「最終チェックするから早く降りて来いって」
「最終……? ったく、きのうも散々、アレコレうるさかったっていうのに……。て、伊織!」
 ぶつぶつ言いながら、部屋から出て行こうとしていた伊織を呼び止める。
「起こして」
 にっこり手を差し出す。
「は? お前って、ほんと」
「ほんと? 可愛いって?」
 伊織は引きつった笑みを浮かべ、ぐいっと夏希の腕をひっぱった。
 ようやくベッドから降り、着替えずに階下におりる。
 玄関には楽しげな笑みを浮かべた母親がいた。
 夏希をみたとたんに、あれこれ大きな声で説明を始める。
 今日の昼食と夕食は冷蔵庫にあるだの、明日の食事はどうのこうの、印鑑や保険証のある場所やら、戸締りはきっちりするように……などなどエトセトラ。
 うんざりと階段に座り込んで聞く夏希。
「ちょっと、夏希聞いてるの?!」
「はいはい。あーもう、わかったから早く行きなよ」
「まったくもう。ほんと大丈夫なのかしらね」
 ぶつぶつ言っている母親に、車に荷物を運んでいた父親が「もう行くぞ」と声をかける。
 母親は心配そうに双子を見比べ、そして伊織に視線を止めた。
「それじゃ、伊織! 家のこと頼んだわよ」
 目の前に夏希がいるというのに、母親は後ろの伊織へ言った。
 ハーイ、と気のない返事を返す伊織。
 そして両親はようやく楽しげな笑みを浮かべて家を出て行った。
 バタンとドアが閉まって、入り込んでいた陽射しが遮断される。
 照明がわずかに暗くなったように感じた。
「ああ、うっるさかった」
 あくびをしながらリビングへ行く。
 テレビをつけてソファに寝転がる。
「伊織、今日の朝ごはんなに?」
「ベーコンエッグ」
「それだけ? さっき用意してるとか言ってたのって、それだけ?」
「それだけ。パン焼くけど」
「私のも」
「はいはい」
 キッチンでため息混じりに朝食の準備をはじめる伊織。
 クッションを抱きしめながらその様子を見る。
 夏休みのだらけた朝。いつもと同じなのに、両親がいないというだけで、まったく空気が違うように思えた。
 2人きりなんだ、夏希はぼんやりと伊織を見た。
 しばらくしてチン、というパンの焼きあがった音。
「牛乳ももってきて」
 キッチンから香ばしいトーストの香りが漂ってくる。トーストにバターを塗る音が微かに聞こえてくる。
「少しは手伝え」
 はいはい、と返事だけを返す。
 テレビを見ていると、週末の運勢、というコーナーが始まった。
 それをみて、そういえばと気づく。明日は土曜日だった。
「今日……海………」
 ポツリこぼす。
 綾が伊織に海へ行こうとさそった日が今日、金曜日だったのだ。
 ふっと複雑な思いが沸きあがる。罪悪感なのかなんなのか胸が小さく痛んだ。
「はい」
 リビングのテーブルにトンと並べられるトーストの乗った皿。夏希の牛乳と、伊織が飲むオレンジジュース。
マーマレードとブルーベリージャム、そして母親の作りおきしていったベーコンエッグが並ぶ。
 ブルーベリージャムをトーストにたっぷりのせながら、伏せ目がちに伊織を見る。
 伊織はうすくマーマレードを塗っていた。
 カリっとしたトーストをかじる音が小さく響く。
「今日…………どこか出かけんの」
 さりげなさを意識して、聞いてみる。
「いや」
「ふーん。ひま人……」
「お前もだろ」
 答えずに牛乳を飲む。
 綾は今頃クラスメイトたちと海へ行っているのだろうか、ふと思った。
 このまま今日が過ぎたとして、あとで海のことが話題にでたら、と不安が湧き上がった。
(ああ、バカみたい。なにウジウジしてんのよ)
 吹っ切るように心の中で自分に言い聞かせる。
 そんな夏希に、不意に伊織が
「どっか出かける?」
と、話しかけた。
「は?」
 トーストをかじったまま、首を傾げる。
「ヒマなんだったらどっか行くかって聞いてるんだよ」
 伊織の言葉に夏希は目をしばたたかせた。
 中学時代の共通の友達と一緒に遊ぶこともあるが、そうそうめったに二人で出かけることもない。それも伊織のほうから提案してくるのも珍しい。いつもなら夏希がショッピングの荷物をもたせるためとかいう理由で連れ出すことが多かった。
「母さんたちから、小遣いもらったし」
「え? ホント? 私もらってないよ」
「お前に渡すとすぐ使い切るから、俺が預かってんの」
 その言葉に思わずムッとするも、すぐに気をとりなおしてマジマジと伊織を見つめる。
「ね、ほんと、出かける?」
「行きたいところでもあるの」
 なかなか切れないベーコンをしかたなく一口で食べながら伊織が言う。
 夏希は目玉焼きの目玉をフォークでつつきながら、うーん、と唸る。
 そして、ぽつり呟いた。
「………海」
 意を得たように、自分の言葉を確認するように伊織に言った。
「ねぇ、海行こうよ」
「もうお盆すぎてるぞ」
「いいよ。海行こうよっ!! 伊東のおばちゃんところ! 泊めてもらおうよ。小学生のときよく行ってたじゃない」
 母親の友人である伊東夫婦が海の家を開いていた。田舎の小さな海水浴場にたった一軒だけある海の家。幼い頃はよく夏休みに泊りがけでいっていたものだが、高校受験の夏からぱったり行かなくなっていた。
「2階の海に面した部屋で蚊帳つってさ、寝たでしょ」
 地元のものしかこないような海水浴場だったから砂浜はとても綺麗だった。小さな砂浜から大きく広がった海。家族でバーベキューをしていると、近所の子供たちが集まったりもしていた。
 遠い昔のような、だが数年前までは夏休みの恒例だった小旅行。思い出してみると、またあの海が見たくなった。
「焼きそばおいしかったなぁ」
 ぼんやりと思い出にひたり呟く。頬杖付いて、伊織をじっと見つめる。
「海、行きたくない?」
 伊織は軽くため息をついて、壁掛け時計を見る。
「電車で3時間はかかるだろう。いまから行っても昼過ぎしか着かないだろうし、突然行っても泊まれるか」
「大丈夫だよ。だってうちらが遊びにいってたときも泊り客なんて他にいなかったし。昼過ぎでも、少し遊んで、バーベキューして、明日朝から遊んで帰ればいいし」
 はじめはほんの冗談だったのに、いまはどうしても行きたい。
「たまには家族サービスも必要じゃない?」
「家族サービス……って……」
「ね、行こうよ。それとも私とは行きたくないってわけ? 伊織から出かけようって言ったのに?」
 憮然とした表情で言うと、
「兄妹で旅行って寂しくないか?」
と、伊織が返す。
 内心少しのショックを受けながら、夏希は立ち上がった。
「たまには気を使わずのびのびと遊びたいの! 付き合ってよ」
 そう言って、返事もまたずに壁際に置かれた子機を取った。母親のケータイにかける。
「ねぇねー、お母さん? あのさ、伊東のおばさんの――――」
 手短に説明すると、母親は驚いたようだった。伊織と二人で行くから連絡しておいてよ、と言い、受話器を伊織に渡す。
「行き方とかちゃんと聞いといて」
 伊織は呆れたような表情をした。そしてしぶしぶと母親に「もしもし? ああ、うん、夏希のワガママ。で、行き方なんだけど……」話し出した。
 それを聞きながら、夏希は食べかけのトーストを押し込むように食べる。牛乳で流し込んで、ベーコンエッグも急いで食べ終える。
 フォークを置いたところで、ちょうど伊織が電話を切った。
「大丈夫?」
「ああ。連絡入れとくって。土産買って行けってさ」
「んじゃ、用意しなきゃ」
 自然とウキウキした口調となる。
「ほら、早く伊織も食べてよっ。片付けなきゃでしょ」
 そう急かすと、伊織はため息をついて、軽く手を振った。
「俺が洗っておくから、お前準備してろ。どうせ時間かかるんだろ」
「あっそう? わかった。じゃ、よろしくね〜」
 思わず笑顔になりながら、伊織に後片付けを頼んで、夏希は自室へと駆け上がっていった。
 部屋へと入ってクローゼットを開け、いそいそと洋服を選び出した。
 思いもかけず楽しい旅行に心はどうしようもなく弾んでいった。