secret 95  愛する人  

目が覚めると、優しく私を見下ろすゆーにーちゃんが隣にいて、一瞬夢かと思った。
でもすぐに昨日帰ってきたことやいろいろ思い出す。
「おはよう」
「……おはよう」
微笑むゆーにーちゃんに微笑み返しながら半身を起した瞬間、腰から下肢部に鈍い痛みが走って眉を寄せた。
「大丈夫?」
顔を曇らせたゆーにーちゃんが腰をそっと撫でてくれる。
「ごめん。無理させて」
その言葉に昨夜の激しすぎる行為を思い出して顔が熱くなった。
「う、ううん」
首を横に振ると、ふわっと抱きしめられる。
暖かいゆーにーちゃんの腕にほっとした。
「実優、愛してる」
「私も。ゆーにーちゃん」
ふふっと笑いあって、ちゅっと触れるだけのキスを交わす。
「起きる? もう少し寝ててもいいよ?」
「うーん。いま何時?」
「10時」
「10時かぁー……って、10時!? え? ゆ、ゆーにーちゃん仕事は!? あ、私学校!!」
予想外の時間にパニクってしまう。
だけどゆーにーちゃんは穏やかに笑いながらぽんぽんと私の頭を撫でた。
「俺は今日は休み。明日から出勤すればいいんだ。それと学校には休むって電話しておいたよ」
「えっ」
「だめだった?」
優しいけどズル休みとかを容認するゆーにーちゃんじゃなかったから意外だった。
でも「今日は一日一緒にいたかったから、特別に」って言うゆーにーちゃんに胸がきゅんきゅんした。
「だめじゃない。私も一緒にいたいし」
ゆーにーちゃんにぎゅっと抱きつく。
「うん。じゃあ朝ごはん食べてお昼ぐらいに出かけようか」
「どこに行くの?」
「姉さんと義兄さんのところに行こうかと思うんだけど」
ゆーにーちゃんにとっての姉と義兄は私にとっての両親。
2人でお墓参りに行くのは、ゆーにーちゃんが海外赴任する直前に行ったのが最後だった。
「……うんっ」
パパとママに久しぶりに会いに行ける嬉しさに、笑顔で答えてゆーにーちゃんに抱きつく力を強めた。



それからまずシャワーを浴びてから朝食の準備をした。
ゆーにーちゃんと二人でキッチンに立って、お味噌汁にごはんに卵焼きにウィンナーに、って質素だけど久しぶりに2人で食べる朝ごはんはとっても美味しかった。
そして―――お昼頃ゆーにーちゃんの車でお墓参りに向かった。
パパとママのお墓は車で1時間半くらいかかる場所にある。
パパとママが事故で死んで、でもパパは実家と絶縁してたからお墓はゆーにーちゃんが新しく建てた。
保険金や慰謝料なんかがあったからお墓を建てても、当時学生だったゆーにーちゃんや私たちが2人で生活するのにも困らないだけは残ってた。
百合の花と、お寺へのお土産を買って行った。
住職さんに挨拶して、お墓に行ってお掃除をしてお花を飾る。お線香を立ててゆーにーちゃんと2人並んで目を閉じた。
パパとママが事故で死んだ時、2人はまだ30歳だった。
まだ若いって思う。生きてた頃のパパとママはとっても明るくっていつでもどんなことでも楽しんでいるような人たちだった。
そういえばゆーにーちゃんだってあと2年もすれば30歳になっちゃう。
そう、だ。もうすぐ三十路になっちゃうんだよ。
って、パパとママに心の中で話しかけた。
ゆーにーちゃんを私の傍にいさせてくれてありがとう。
それだけをいつだって思う。
パパ、ママ、ずっと私たちを見守っててね?
私のことをずっと支えて守ってくれてるゆーにーちゃんを―――私はずっと愛してるから。
だから、ずっとずっと傍にいられるように、祈ってて?
私が……―――″ないように。
「………」
目を開けると、ゆーにーちゃんはまだ目を閉じていた。
真剣な横顔をじっと見つめる。
ゆーにーちゃんは何を考えてるのかな。なにを話しているのかな。
そしてふと、思う。
もしパパとママが生きてたら私たちの関係はどうなっていたのだろうって。
ううん。きっと生きてたとしても私はゆーにーちゃんに惹かれてた。
ゆーにーちゃんだってきっと私を愛してくれてた。
ただ……私たちのことを許してくれたかはわかんないけど。
ぼうっとそんなことを考えていると、ゆっくりゆーにーちゃんがまぶたを上げた。
「………なにを話してたの?」
「ん?」
ふっとゆーにーちゃんは笑って、私の頬を撫でる。
「これからも実優のそばにいさせてほしいってお願いしてた」
「………」
同じことを、ゆーにーちゃんも考えてたのかな?
それが嬉しくって、ゆーにーちゃんに抱きついた。
「どうしたの?」
「私も、同じようなことを考えてたよ。ずっと傍にいられるように、って」
「………そう」
優しい声で優しく頭を撫でられる。
その心地よさにゆーにーちゃんの胸で目を閉じた私は―――気づいてなかった。
ゆーにーちゃんの想いも、その愛も、その苦しさも。
ただ傍にいれることが幸せだった。
それで、いいんだって。
一度離れたけど、私たちは2人でいるべきなんだって思えて、嬉しくてしかたなかった。


そんな私は、結局なにもわかってないただの子供だった。
バカな、子供だった。