secret 85 初詣へ行こう♪

「あ、和くん」
振り返ると、和くんが心配そうな表情を浮かべてた。
「どこに行ってんだよ。はぐれるぞ?」
のんきに返事をした私に、和くんはため息混じり。
「ごめんね? 人が多くって……」
「ぼーっとしてたからだろ?」
苦笑する和くんは私の手を握り締める。
「はぐれないように、ちゃんとつかまってろよ」
ぎゅっと繋がれた手に思わず視線を落とすと、和くんはハッとしたように視線を泳がせた。
「……これは……その」
捺くんに触るなって言ってたから、それを気にしてるんだと思う。
「……はぐれないように、でしょ?」
金髪なのに真面目な和くんだから、ちょっとだけおかしくって笑いながらそう言った。
「あ、うん」
和くんはほんの少し耳のあたりを赤くさせて顔を背ける。
「……あのさ、実優」
「なに?」
ふと真剣な顔になった和くんがぽつり呟いた。
でもそれっきり黙り込んでしまう。
どうしたんだろう?
「―――松原と……」
松原……?
って誰―――……あ……。
「まだ、続いてんのか? それともあのときだけ?」
そう、だ。
私と……先生のことを和くんは知ってるんだった。
でも、なんて答えればいいんだろう。
まだ続いているけど。
だけどセフレなんだよ、なんて言えるはずない。
そんな関係が不純だなんて―――わかってるし。
どうしよう。
黙っていたら、続いているって思われるかもしれない。
言ってしまえば、非難されて……やめろって言われるのかな……?
「―――言いたくないならいい」
血の気が引いてくのを感じてた私に、ため息一つついて和くんが言った。
ちらり和くんの様子をうかがうと和くんは人波を、遠くを、見つめてた。
「ただ……もしまだ続いてるんなら……お前の気持ちはっきり言った方がいいと思う」
「………え?」
私の、気持ち?
「付き合ってはないんだろう? 松原がどういう気持ちかは知らねーけど……。だからお前も、ほんとのこと言うの怖いんだろうって思うけど……。ずっと気持ち隠しておくわけにもいかねーだろ」
「………」
気持ち……ってなんだろう。
なんだかまるで私が先生のことを好きみたいな感じで言ってるけど。
「……和くん? あの……なんで私が先生のこと……」
好きだって勘違いしてるの?、って言いたかったけど。
なんとなく口に出せないで俯いてしまった。
「だって、言ってたじゃねーか。”年上で優しくて真面目で、強くて、素敵な人”って。……まー付き合ってもないのに手を出すやつが真面目かはわかんねーけど……」
「………」
それって、年末にランチしたときに私が″ゆーにーちゃん″のことを想って言ったことだよね。
ていうか……先生のどこに″優しくて真面目で、強くて、素敵な人″が当てはまるんだろう?
まぁイケメンだけど……。意外にいい人ではあるけど……。それにたまに優しいけど……。
でも変態エロ教師だよ?
変態、だよ?
「俺にはわかんねー良さがあるのかもしれねーし。お前が本気で好きなんだったら……」
「………ち……」
「俺は……お前のこと諦めたわけじゃねーけど……。でも、実優にも諦めるようなことしてほしくねーんだ」
何度目かのため息をつきながら、和くんは髪をくしゃっとかきあげる。
「だからちゃんと松原に言ったほうがいいと思う。それで……付き合うようになったら実優にとっては一番いいんだろうし……」
「………」
「もしダメだったら俺が……、あと捺もいるし……」
「………和くん」
「……ん?」
「和くんってすごく優しいんだね」
好きな相手の恋を応援するなんて、なかなかできることじゃない。
「……別に。ただ……実優が哀しい顔するのがイヤなだけだから」
ぼそっと言った和くんは、いっきに顔が赤くなった。
それが妙に可愛くって、ふっと頬が緩んでしまう。
「ありがとう、和くん」
相手は変態エロ教師じゃないけど……。
でも、心配してくれる気持ちがすごく―――嬉しい。
「……いや……別に」
「私の―――」
好きな人はって続けようとしたけど、それは
「実優ちゃん!! おい、和! お前なに実優ちゃん一人占めしてるんだよ!」
っていう捺くんの声に遮られた。
「二人っきりでなにしてんの!?」
手にやきそばを持った捺くんが駆け寄ってくる。後ろに続いてくる七香ちゃんと羽純ちゃんもたこ焼きを買ってきてた。
「あ、あのね。私がはぐれちゃいそうになったのを和くんが助けてくれたの。それで、おしゃべりしてただけだから!」
和くんと捺くんがまたケンカしちゃわないように、急いで説明する。
「……ふーん」
捺くんは納得してくれたみたいだけど、口を尖らせて拗ねちゃってる。
「あああ!」
だけどすぐに目を大きく見開くと手を振り下した。
「離れて離れて!」
捺くんの手がチョップしてきたのは私の手を握る和くんの手。
「和! お前ー!」
「はぐれないように繋いでただけだろ」
「オレにはいつも離れろっていうくせに!」
「お前はセクハラだからだ」
「お前だってそーだろ」
「俺はちげぇ」
「嘘だねー」
「黙れ」
「お前こそ」
例のごとく口げんかに発展しちゃってる2人におろおろしてると、ぽんと肩を叩かれた。
振り返ると七香ちゃんで、にっこり笑顔を向けてくる。
「たこ焼き買ってきたからさ、その辺で食べよ〜。そいつらはほっといて」
「あ! 七香! お前またオレたちを邪魔にしてるなー!」
「実際ちょー邪魔!」
「なにー!?」
和くんと捺くんのバトルは七香ちゃんと捺くんに変わって―――。
「実優ちゃん、あそこに座って食べよう?」
口げんかしてる捺くんたちのことなんてまるで気にした様子もない、笑顔の羽純ちゃんと、戦線離脱した和くんと。
ぎゃーぎゃー言いあってる捺くん達を見ながらたこ焼きを食べて。
それから激しいバトルを疲れたことで終えた2人と合流してカラオケに行って。
なんだかんだあったけど、あっという間に楽しい一日は過ぎてしまった。


そういえば―――。
和くんに好きな人が違うって言いそびれちゃったな……。
帰りついた自分の部屋に入りながら、ふと思い出した。
まぁでも……いっか、べつに。

ただの″勘違い″なんだから―――。