secret 85 初詣へ行こう♪

「大きなあくびだねー。寝不足?」
ついつい欠伸が出ちゃったら、隣を歩いていた捺くんが顔を覗きこんできた。
「え、あ。うん、あのーお正月の特番見てたら夜更かししちゃった」
へらっと笑顔をつくる。
ひきつってないかな?
本当はきのう先生のマンションに泊まって、そこから朝までが長かった。
長すぎた!
帰りの車の中で寝ちゃってた私はついても寝たまんまで、起きた時には夜の12時になってて。
先生はひとりお酒を飲んでたんだけど、私に夜食を作ってくれて、お風呂に入って。
そして―――あっさり寝れるわけがなくって……。
無理っていってるのに、あんなことやこんなことや……。
あー! もう、思い出すだけで……先生がただの変態エロ教師だってことがしみじみ実感しちゃう。
だって、なんで着物があるの?
昼に着せてくれるならともかく、なんで夜中に着せて、っていうかなんで先生着付けできるんだろ?
お坊ちゃんだから?
でもほんと、先生バカなんじゃないかな?
帯がどーのこーの。
悪代官がどーのこーの。
ほんと先生ちょっと―――……。
「大丈夫か? 無理するなよ」
昨日の夜のことを思い出してた私に和くんがぽんと頭を撫でて心配そうに見つめてきた。
「……う、う、うん。ありがとう」
我に返って、恥ずかしくって顔が赤くなっちゃう。
「ほんと! 無理しないでね? 眠たくなったらオレの胸貸すから」
和くんを一瞬ちらっとにらんだ捺くんがにっこり可愛い笑顔で私の手をぎゅっと握る。
さりげなくなんとかその手を離そうとするけど、びくともしない捺くんの手。
「おい、手を離せ」
和くんが捺くんに言ってくれてホッとした。
だけどすんなり離してくれるはずもなくって、逆に捺くんは和くんをにらんで。
「和には関係ないだろ?」
「関係あるだろ。彼氏でもないくせに繋ぐな」
「手ぐらい彼氏じゃなくったっていいんだよ。友達だって繋ぐだろ!」
「お前の場合下心があるからダメだ」
「ダメって、なんで和に命令されなきゃいけないわけ?」
「目ざわりだから」
「はぁ? 和のが目ざわりなんだけど」
「あ?」
「頭撫でてさ。そういうのセクハラっていうんだよ?」
「……手を繋ぐのは違うのかよ」
「手はだから友達でも繋ぐからいいんだよ」
「お前のがセクハラだろうが。さっきも言ったが下心あるやつは離れろ」
「うるさいなー。ていうか、和だって実優ちゃんと手を繋ぎたいだけだろ?」
「俺は実優が……イヤがることはしない」
「実優ちゃん、手繋ぐのいや?」
見えないけどバチバチ火花が散ってるのが見える気がする。
捺くんと和くんの言いあいに、ぼうっとそれを見てることしかできなかった私は突然訊かれて視線を泳がす。
友達と手を繋ぐ……のは別にいいと思うけど……。
うーん、確かに下心というか、まぁ好きって言われてるから”友達”としてってだけじゃないだろうし。
あんまり気を持たせるようなことはしたくないし。
イヤって言ったら落ち込みそうだけど、断るべき、だよね。
「………えっと……イヤっていうか」
「ていうか?」
立ち止った捺くんがぎゅーっと私の手を握り締めて上目遣いで首を傾げる。
う…っ、か、可愛い!
ダメなんて言えないよー! ど、どうしよう!
「困る。無理。妊娠しちゃいそう」
「………」
「………」
「………」
えと、私じゃない。
「新年早々あんたらマジうざい! 実優が困ってるんでしょ! 手を繋ぐなら私たちとに決まってんじゃない! ほら、行こう! 実優〜」
「実優ちゃん、行こう?」
颯爽と現れたのは前を歩いてた七香ちゃんと羽純ちゃん。
七香ちゃんは捺くんの手を引き剥がすと代わりに手を繋いできて、そして逆の手は羽純ちゃんが繋いできた。
「あんたら2人で手繋げば?」
にっこりとした、でも冷ややかな笑顔で七香ちゃんは和くんと捺くんに言った。
「「………」」
ムッとした表情で七香ちゃんを見る2人。
「さ、行くわよ〜。しっかし人多いわね」
和くんと捺くんのにらみなんてまったく気にする様子もなく、七香ちゃんはさっさと私をひっぱって初詣でにぎわう神社へと向かったのだった。






結構大きい神社だったから、賽銭箱のとろこに着くまでにも時間がかかって大変だった。
みんなで一列に並んでお賽銭を投げて―――お参りした。
「ねぇ。実優はなにお祈りしたの?」
私の両隣りは七香ちゃんと羽純ちゃん。和くんと捺くんは後ろを歩いてる。
「えーっと……」
「もしかして恋愛関係?」
「……ううん。えっと健康祈願?」
「えー?」
「ほんとに? 恋愛じゃないよね? 捺くんと付き合いたいな、とかならいいけど」
七香ちゃんの不満そうな声にわりこむように捺くんが私の肩に手を置いてくる。
「おい、捺。どけろ」
すかさず和くんが突っ込んでくれる。
「和はいちいちうっさいなー! 訊くくらいいいだろー!」
なんだかまたもめちゃいそうだったから、慌てて遮った。
「ほんとうに、健康祈願!! 今年も一年怪我や病気がなくって健やかにすごせますように!!って!」
「「「「ふーん」」」」
私の剣幕に納得してくれたのか皆はあっさり頷いてくれた。
実際健康祈願だし。
ただ―――ゆーにーちゃんの、だけど。
プラスして『ゆーにーちゃんに会いたいな』とか考えちゃったけど。
それとなぜか……。
『変態教師が変態じゃなくなりますように』
なんて、考えちゃったけど―――。
「ねーねー! たこ焼き食べたい!」
「美味しそうね」
ぼうっとしてる間に七香ちゃんは露店のほうに興味津津で、羽純ちゃんと行ってしまって。
私もハッとして後を追いかけようとしたんだけど、人混みに遮られて押されて、端に端に追いやられちゃってて。
みんなとはぐれちゃう!
焦った瞬間―――。
「実優!」
ぐいっと腕を引っ張られて、和くんの声がした。