secret 78 Unconsciously

目が覚めると隣に先生はいなかった。
それがちょっと寂しいような気がしないでもない。
いま何時だろう?
ぼんやり身体を起こして、ベッドサイドの置時計を見ると、8時だった。
意外に早い時間にあくびを噛み締めながら、ふと全裸だってことに気づいた。
………ああ。
2回戦のことを思い出すだけで恥ずかしくって顔が熱くなっちゃう。
地味に腰が痛いし……。
とりあえず何か着たいと思ってベッドの周りを見回したけど、そういえばリビングで洋服脱いだんだって思い出した。
それも自分から脱いだよねぇ。
あああ……。
なんか、なんだか。
ため息ばっかりが出ちゃう。
しょうがないからシーツを身体に巻きつけて、寝室のドアからリビングを覗きこんでみた。
でもリビングには先生の姿がない。
あれ? どこに行ったのかな?
ずるずるとシーツを引きずりながらリビングに入ると、ドアの開く音がして先生が現れた。
上半身裸にスエットズボンで、首にタオルをかけた先生は髪が濡れてる。
「起きたか。お前も風呂入れば?」
髪からぽたぽた水滴が落ちるのを全然気にしてない様子の先生。
なんか……やっぱりお風呂上がりの先生ってセクシーで、エロい。
「……なんだよ。朝っぱらから視姦すんなよ」
「……しか! してませんー!!!」
まるで痴漢でも見るかのような眼差しを向けられて、慌てて顔を背けた。
「ほら。風呂行ってこい。べたべただろ? 身体」
今度はニヤニヤして先生が私を見つめてくる。
「……朝っぱらから視姦しないでください」
かるく仕返しのつもりで言ってみた。
でもすぐに後悔。
先生の笑いが黒くなる。
「視姦じゃたりない?」
「………お、お風呂入ってきます!」
身の危険を感じて、急いでリビングを出ていった。




それからゆっくりお風呂に入って、上がると新しい下着が置いてあった。
前みたいなエロすぎるものじゃなくって、すっごく普通の上下ペアの下着。
遠慮なくそれを着て、洋服を着て、髪を乾かしてからリビングに戻る。
リビングに入るといい香りが漂ってた。
先生はキッチンにいて、なにか温めている。
「なに作ってるんですか?」
先生のそばに行って、のぞきこむとお鍋に入ってたのはお雑煮だった。
そういえば家政婦さんがお雑煮とおせちを準備して行ったって言ってたっけ。
「雑煮。モチ何個食う?」
「えと、一個でいいです」
「わかった。二個入れとく」
「………なにか、手伝いましょうか?」
絶対大食いって思われてる気がするけど、お餅2個なら食べれるし、もう突っ込まないことにした。
下手に突っ込んで、食べすぎちゃった時恥ずかしいし……。
「ああ、そこにある重箱テーブルに出してくれ。あと皿と箸はそこの―――」
指示された通りにダイニングテーブルにおせちの準備をする。
そして少ししてお雑煮も出来上がって、先生とテーブルを囲んだ。
「いただきます」
「……いただきます」
ていうか、なんで先生のうちでおせちごちそうになっちゃてるんだろう?
まさか先生と新年を迎えるなんて思ってもみなかった。
不思議すぎる……。
でもだからってイヤな気分ではなくって。
「なにニヤニヤしてんだ? そんなに雑煮好きなのか」
先生の呆れたような声がして、私は大きく首を振った。
「に、にやにやなんてしてませんー! お雑煮は好きだけど……」
「あっそ」
にやにやって、そんな顔するわけない!
必死で顔を引き締めながら、お雑煮を食べる。
「……おいしー!」
昨日食べた料理も美味しかったから期待してたけど、お雑煮もおせちもほんとに美味しい。
それからおせちを夢中で食べてた。
「お前、今日なんか予定あるのか?」
そう先生が訊いてきたのは、食べ始めて20分くらいしたころだった。
「いいえ。明日はともだちと初詣に行くけど、今日はとくに」
「ふーん」
「先生は?」
「俺も今日はヒマ」
「ふーん」
「どこか行くか?」
「え……」
「寝正月でもいいけど」
「………」
「なんだよ。どこか行きたいとこあるのか? またニヤニヤして」
「に! ニヤニヤなんてしてませんて!!」
「あっそ」
「あ、あのじゃぁ初売り! 初売り行きたいです!!」
「初売り?」
「やっぱりイヤですよね……。先生人混みとか嫌いそうだし」
「そうじゃない。ちょっと遠いところにあるショッピングモールとかでもいいか?」
「へ? いいですけど」
「お前アホだから言っておくけど」
「あほ!?」
「俺とお前、教師と生徒。一応見つかったら問題になるんだからな?」
「………」
あ、そうなんだ。
苦笑する先生に、そんな当たり前のことを私は忘れちゃってた。
ほんと、あほだ、私。
「それじゃあ……出かけなくっていいです」
初売りって言っちゃったけど、別に行きたいってわけじゃない。
先生がどこか連れてってくれるって言ってくれたから、つい嬉しく―――……。
「いいよ。初売りで。ま、ドライブついでにな感じでよければ、行くか」
ふっと笑う先生。
「………」
「おい、なんだよ今度は仏頂面して」
「……ぶ……、してません!」
「どうする? 行くか行かないか」
「………行きます」
「じゃあ食べたら用意して出かけるぞ」
「はい」
止まっていた食事を再開して、私は必死で気持ちを沈めてた。
浮き足立っちゃうようなふわふわした心は、先生と出かけれるからじゃないって。
初売りに行けるからだ、って。
そう―――先生なんて、関係ないんだから……。