secret 71 お家でランチを♪

「へぇ。そうなんだ! いいな、年上! いくつ上? 大学生?」
「え?」
ゆーにーちゃんは私とは一回り違う。だから、いま28歳。
大学生!?、と興奮気味な七香ちゃんに社会人で28歳だなんて言えない。
「えと、えと……にじゅう……」
「二十歳?!」
「………」
「いやーん! いいな〜、オトナ!」
二十歳で大人なら、28歳だと……すごく大人になっちゃうんだろうか。
本当のことを言えなくて苦笑することしかできない自分がいやになる。
ゆーにーちゃんに対して罪悪感さえ覚えてしまう。
ゆーにーちゃんのこと、もっともっと自慢したいのに。
そんなことを思いながら―――ふと、気づく。
ゆーにーちゃんと私は″今″はもうただの甥と姪なんだってことに。
そっか……。私も片思いだったんだよね、今は、また。
「そういう七ちゃんこそ、年上の彼氏がいるでしょう?」
羽純ちゃんがおかしそうに笑いながら言うと、七香ちゃんはちょっと口を尖らせた。
「えー、二個上なんて年上にならないよー!」
いやいやいや、なります。
七香ちゃんのカレシさんは他校の高校三年生。いまは受験であまり会えないから七香ちゃんは最近拗ねてるのだ。
「でもラブラブだよね? 新しいプリクラ、ちゅーしてたでしょ?」
にっこりな羽純ちゃんに顔を赤くする七香ちゃんが可愛い。
それから恋愛話は七香ちゃんへと移って、最終的には羽純ちゃんの好みのタイプで終わった。
ちなみに羽純ちゃんの好みは天然でドジな男の子らしい。
………どんな子だろう?


そしておしゃべりしながらゆっくり作ったせいもあって、料理がすべて出来上がったのはキッチンにたって1時間半くらい経った頃だった。
「遅い。長い」
拗ねた顔でぶつぶつ呟いてる捺くん。
「なんか女って……」
騒がしいな、と言いかけて七香ちゃんのにらみに口を閉じた和くん。
「ごめんね、お待たせして」
苦笑しながら私と七香ちゃんたちはテーブルに料理を並べていった。
「「「「「いただきまーす」」」」」ってみんなで手を合わせて。
「美味しい!」
「うまい」
一口食べた捺くんと和くんがすぐに反応してくれて、ほっとした。
自分でも食べてみて、なかなか美味しくできてるってことを実感。
七香ちゃんは「美味しい。さすが私」なんてご満悦で食べてる。
なんだか学校じゃなくって、こうして私の家でみんなでご飯食べてるのが不思議な感覚。
あんまりというかほとんど家に友達を呼ぶとかしたことがなかったから、今が新鮮で、それに嬉しい。
他愛のない話をしながら食べ進めていった。
「実優ちゃん、あーん」
突然捺くんがピザを私の口元にもってきて、にっこり笑う。
「「「………」」」
みんなの視線が痛い……。
和くんはすっごくにらんでるし、七香ちゃんはニヤニヤしてるし、羽純ちゃんはにこにことパスタを食べてる。
「……捺くん、一人で食べれるよ?」
こんな人前でそんな恥ずかしいことできない!
だからピザを受け取って、もぐもぐ食べた。
捺くんは口を尖らせてる。
「えー? いいじゃん、別に」
相変わらず積極的だなぁ、捺くん。
「実優が嫌がってるだろ」
低い声で言ったのは和くんで―――。捺くんと視線を合わせて、バチバチ火花が飛び散ってるような雰囲気。
「あんたたちってほんと、実優にらぶらぶね〜。でも実優には好きなひといるんだからねー!」
「………七香ちゃん!!?」
まさかこの場で言われるなんて思ってなかったから、すごく焦る。
「えっ? ほんと?」
捺くんが身を乗り出して、いまにも泣きそうな表情で見つめてくる。
「俺はそんなの関係ねーし」
和くんが言って、ジュースを飲んだ。
あ……。そうか、和くんは私に好きな人がいるって気づいてたんだった。
「なに、和。知ってたのか?」
捺くんの問いには答えない和くん。
なんとなく気まずい……のは私だけで、やっぱり七香ちゃんはニヤニヤしてて、羽純ちゃんもやっぱりにこにこしてた。
「………別に。オレだって、他に好きな人がいても関係ないもん!」
ないもん、って頬を膨らませて私を見つめる捺くん。
……絶対その表情わざとでしょ、捺くん!
もう可愛すぎる!
いいなぁ、男の子でこんなに可愛いなんて……。
「実優ちゃん、ちゃんと話し聞いてる!?」
捺くんの可愛さを半分でもいいからわけてくれないかな、なんて思ってたら捺くんから軽くにらまれた。
「あ、うん」
「修羅場も楽しいわね〜」
「……七香ちゃん!」
のんきに笑う七香ちゃんを恨めしく見ると、「ほんとね」なんて羽純ちゃんまでもが微笑んだ。
「………」
「それで、どんな男? ……別に気にしちゃないけど、参考までに」
気にしてないと言ってるけど、ものすごく気にして様子な捺くんに、私は言葉を詰まらせる。
傷つけちゃわないか、なんて思うけど―――、でもそんな気持ちが……最終的には傷つけちゃうことになるのかな?
「………年上の人」
だから、正直に言った。
「優しくて真面目で―――、強くて、素敵な人。大好きなの」
でも捺くんの目を正面からは見ることができなくって、視線を揺らしてると、和くんと目が合った。
和くんは少し眉を寄せて、なにか言いたげにしてた。
「……そっかぁ。まぁほんとは誰かいるのかなとは思ってたけど……。でもつきあってはいないんだよね?」
ちょっと落ち込んだ表情で、だけどすぐに笑顔にもどって捺くんが訊いてくる。
「……う、うん」
「じゃ、気にしない。オレを好きになってもらえるように今まで通り頑張るだけだし」
ニッと笑う捺くんに、ちょっとスゴイなって思った。
ゆーにーちゃんと付き合うようになったとき、ただひたすら頑張ったけど―――。
距離を置こうって言われてからは、怖くて不安で、頑張ることもできなくなったから。
距離を置いて―――、その離れてしまった距離感が広がらないようにって、祈ることしかできなくなったから。
だから純粋に気持ちをぶつけてくる捺くんが眩しく感じる。
ときどき……かなり強引なときもあるけど……。
「あんたってタフだねぇ」
七香ちゃんが苦笑しながら捺くんを見てる。
「だって実優ちゃんが好きだからね」
私を見つめて可愛らしい笑顔を浮かべる捺くんに私はぎこちない笑顔を返すことしかできなかった。
和くんはもう捺くんと火花を散らす様子もなくって、なにか考えてるように少しの間ぼーっとしてた。
それから話は優しい羽純ちゃんが路線変更してくれて。
新年二日にみんなで初詣に行こうってことになった。
羽純ちゃんは30日から元旦まで旅行で、捺くんは元旦におじいちゃんちに行くのが新年の行事らしくってみんなが揃うのが二日だった。
初詣のあとは遊ぼうね、どこに行く?、なんて話から、ゲームをして遊ぶんだりして、時間はあっという間に過ぎていった。
「それじゃあ二日ね」
「お邪魔しました」
「実優ちゃん、またメールするね」
七香ちゃん、羽純ちゃん、捺くんが手を振りながらエントランスを抜けていく。
「………実優」
和くんは―――。
「………どうしたの?」
なにか言いたそうにしてて。
でも、一瞬視線を揺らすと、ふっと笑って首を振った。
「なんでもない。じゃあな。メシ、うまかった」
「うん。またね」
ばいばいって手を振って皆と別れ、楽しかった一日は終わったのだった。