secret 70 お家でランチを♪

長かったクリスマスが終わって、もう大みそかまであと3日。
その間には前の学校のともだちと遊んだりして過ごしてた。
そして今日は―――七香ちゃんともう一人仲良くなってる羽純(はずみ)ちゃんがうちに遊びにくることになってた。
お昼は三人で作って食べようって話になってるから、楽しみでわくわくして待ってた。
そして七香ちゃんたちがやってきたんだけど―――。
「実優ちゃんクリスマスぶり!」
「久しぶり、実優」
「…………久しぶり?」
ため息をつく七香ちゃんと苦笑いをする羽純ちゃんの横にはなぜか捺くんと和くんがいた。
「ごめん、実優! 来る途中でさぁ、ばったり2人に会っちゃって。実優んちに行くっていったらついてくるってうるさくってさー!」
「ごめんねぇ、実優ちゃん」
七香ちゃんと羽純ちゃんが謝ってくるから、
「ごめんね、急に」
って上目遣いで捺くんが、
「迷惑だったよな……」
って和くんがちょっと心配そうに言うから、
「ぜんぜん! 大歓迎だよ!?」
って笑うしかないよね?
でもまぁ2人きりとかじゃないし―――みんなで合うほうが気も楽だからいいかなって思いながらリビングに通した。
「ひろーい!」
「3LDK?」
「うん」
「キレイだな」
「適当に座ってね。えっと飲み物はなにがいいかな? とりあえずジュースでもいい?」
「「「うん」」」
「ああ」
部屋を見回してる四人にオレンジジュースをついでテーブルにもっていった。
「いいなー、こんな綺麗なマンションで一人暮らしなんて」
七香ちゃんがジュースをさっそく飲みながら、うらやましそうに私を見てくる。
「……一人暮らしなのか?」
和くんが少し驚いたように訊いてきた。
「え。あ、うん」
笑顔がぎこちなくならないように気をつけながら、説明する。
「半年前から海外赴任に行ってて、一人暮らしなの。もう高校生だしね!」
″誰が″海外赴任しているかってことはいわないで。
「そっかぁ。寂しくない? いつでも言ってね!? オレいつでも飛んでくるから!」
「捺なんかが来たら、大変!」
「なんだよ、七香!」
みんな″両親が″って勝手に思ってくれて、ホッとする。そして本当のことを言えないことに罪悪感を覚える。
でも、なんで一人暮らししてるかなんてこと。今言ったら絶対気まずくなっちゃうし……。
いろいろ心配させたり、気を使ってもらったりしたくないから。
だからたいていこうして″誤魔化″してる―――。
「捺じゃねーけど……。ほんとなんか困ったことあったら言えよ?」
ソファーに座った和くんが、床に座ってる私を見下ろして、心配そうに微笑む。
「……うん。ありがとう、和くん」
「………みゆーちゃん! オレは?」
「え? あ、あー……、ありがとう、捺くん!」
にこっと笑顔を向けると、捺くんも笑顔をくれてホッと一安心。
そんな私たちの様子を眺めてたらしい七香ちゃんが、
「あーもう、ほんっとにこいつら、うざい!」
って、和くんと捺くんにむかってうんざりとした顔をしてる。
「ねー! もうお昼の準備しようよ! 女子だけでさ」
七香ちゃんは立ちあがって私と羽純ちゃんに提案してきた。
「俺も手伝う」
「オレも!!」
私と羽純ちゃんが頷く前に、和くんと捺が言ったら―――。
「うっさい! あんたらはおとなしくテレビでも見てろ! 今日は女子の親睦を深める会なんだからね! 邪魔しないで!!」
って2人を怒鳴りつけると、私と羽純ちゃんの腕を引っ張ってキッチンへと向かった。
……つ、つよいです。七香ちゃん!
そうして私たちは久しぶりに女の子だけで会話しながらお昼の準備を始めたのだった。


メニューは決まってて、簡単ピザにトマトソースのパスタとサラダを作ろうってことになってた。
トマトソースをまず作った後、羽純ちゃんがお家でよく作っているっていう簡単ピザの生地を三人でそれぞれこねはじめた。
上に乗せる具材はひとりづつ別々にする予定。
生地を広げるのに手間取っていると、七香ちゃんが丸めた生地をぐにぐに押しながら私の顔を覗きこんできた。
「ねぇねぇ、そのピアスってさ、プレゼント? それに香水つけてるよね?」
「え、あ、うん。和くんと捺くんからのクリスマスプレゼント」
「あー、やっぱり!」
私が答えると七香ちゃんは大きな声で笑い出す。
「んっとに、あいつらって実優のこと大好きだね〜! つきあってもないくせに独占欲丸出しだし!!」
「………」
なんて返せばいいのかわかんないから、とりあえず笑って生地を伸ばす。
「そんなこと言わないの、七ちゃん。2人とも一生懸命なんだよ」
おっとりとフォローを入れてくれたのは羽純ちゃん。
羽純ちゃんはちょっと背が低くって、可愛らしい癒し系の女の子。
「それにしてもさぁ、いちいちウザイよねぇ、実優?」
「………そ、そんなことないよ?」
「えー、そう? それとも2人のうちどっちか気にかかってるとか?」
「……えっと……2人ともともだち……だよ」
「「そうだよね」」
元気のよい七香ちゃんの声と、穏やかな羽純ちゃんの声が重なる。
「だって見てれば実優にその気がないのわかるもんねー」
「そうね、2人には悪いけど、実優ちゃんを落とすのは難しそうよね」
「………」
羽純ちゃん、なにげに毒舌なのかな?
「……私、ふたりにそっけなかったりする?」
「ううん。全然。ともだちとして親しくしてるって感じなだけだよ。それ以上は無理っぽいなって思っただけ」
七香ちゃんが生地を伸ばし始めながら、ふっと目を細める。
「実優ちゃんって、ほかに好きな人いそうだよね? 年上の人とか」
「………え」
羽純ちゃんの言葉に手が止まってしまう。
そんな私を見て、七香ちゃんがテンション上げて目を輝かせてる。
「年上? いるの? 好きな人?」
「………えと、その。………あの、羽純ちゃんなんで?」
「うん? 実優ちゃんがしてるネックレスもクリスマスプレゼントでしょう? 終業式前はつけてなかったし。そのネックレスすごくセンスいいし、高そうだし。そんな素敵なの高校生の男の子には無理かなって思って」
………洞察力すごい。
そしてやっぱりさりげなく毒舌なのかな?
まぁ確かにこのネックレス……高そうだし、高校一年せいの男の子が選ぶには難しいかも。
「なるほどー! やーん、どんな人なの!?」
興味津津に訊いてくる七香ちゃん。
なんていえばいいのか躊躇っちゃう。
だって、ゆーにーちゃんは―――“叔父″だから。
ママの弟で、本当なら好きになっちゃいけない人だから。
でも―――。
「優しくって、すごく強い人、だよ」
七香ちゃんや羽純ちゃんがゆーにーちゃんに会うことはないだろうから、私はついそう言ってしまってた。