secret 67 恋、想い

ぼんやり目を開けると、すぐ隣に先生がいた。
上半身を起こしてお酒を飲んでる先生。
部屋は暗いけどカーテンが閉まってないせいか真っ暗じゃなくて薄暗い。
「……先生…?」
完全に目が覚めたわけじゃない。
だから寝ぼけた状態で声をかけた。
「……悪い、起こしたか?」
私は小さく首を横に振る。
私を見下ろす先生の表情はよくわかんない。
「……眠れない……んですか?」
カラン、とグラスの中の氷が崩れる音がする。
先生は私の髪をすくって、眺めてる。
「なんか夢、見たか?」
私の質問には答えなくて、質問で返される。
「ゆめ?」
それ前も聞かれたような。
「夢、見た? ………怖い夢とか……」
コワイ、ユメ?
「見てないと思うけど……。声だけの夢なら見たような」
「声?」
「……んー…と、誰かが『大丈夫』って言ってたような……。それだけなんですけど」
「…………」
「すごく優しい声で、落ち着いたような」
「…………」
先生の手が私の髪から離れて、お酒を持ってたもう片方の手はサイドボードにグラスを置く。
そしてベッドにもぐりこんできた。
先生は私のほうを向いてるから、目が合う。
至近距離過ぎて、ちょっとドキドキする。
「……せんせ……?」
妙に真面目な顔をしてる。
「お前さ」
「はい……?」
「忘れろ」
「え?」
「寝てるときくらい……忘れてろ」
先生?
なに?
って、言いかけた私の口は一気に塞がれた。
先生の、唇に―――。

でも―――そのキスは触れるだけのものだった。

先生の熱い唇は閉じたままで、いつもみたいに舌は私のナカには入って来ない。
それが……ちょっと寂しくて。
先生の胸元をギュッと握った。
だけど先生の唇は少しして離れてしまう。
「―――せんせい……」
ねだるように、勝手に唇から呟きがこぼれてた。
恥ずかしさに顔が赤くなっちゃうけど、いつもならこんなキスじゃ終わらないのに、どうしたのかなって思わずにはいられないら、じっと先生を見つめる。
先生はふっと笑うと、私の頬を撫でた。
「……難しいな。いろんなもんを埋めるのは」
「………?」
先生の言っていることのほうが難しい。
いつも、いつもなら、エロいことしか考えてないって断言できるのに。
今日の先生は、全然何を考えてるのかわかんない。
なにを言ってるのか―――わかんない。
「まぁ今日は俺が……いてやるよ」
わかんないよ、先生。
ただ、先生は私の後頭部に手をまわしてそっと自分の胸元に引き寄せる。
もう片方の手は腰にまわされて―――ぎゅーって抱きしめられて、身体と身体の隙間がないくらいに密着する。
手のやり場がなくって、先生の背中に手を回す。
でもほんとはさっきのキスが、触れるだけのキスが、なんだか切なかったから抱きついたっていうのが……ほんと。
こんなことなら起きなきゃよかったな……。
朝まで寝てたら、こんなに……って、まるで欲求不満みたい……。
シてほしい、なんて、快感に流されてしまってる時なら言えるけど。
でも、自分から最初から願うなんてことはできない。
だって。
一番はゆーにーちゃんなんだから。
私が自分から望むのは……ゆーにーちゃんだけだから。
だから―――先生がしかけてくれないと、私は動けない。
「余計なこと考えてないで、寝ろ」
先生の胸の中でぐるぐる考えてたのを気付いたみたいに、先生は私の頭を撫でてきた。
先生、ずるい。
ううん。ずるいのは、ひどいのは私なんだろう。
寂しいのを。
不安を。
埋めようと―――………。

『………先生が、さっき言った″埋めるのは″って―――同じ意味?』

心の中で、訊いてみた。
もちろん、答えがかえってくるわけはないけど。
そしてまたキツク抱きしめられる。
早く寝ろっていうように。
先生……苦しくって逆に寝れないよ?
ちょっとだけおかしくて笑えて、私もギュッときつく先生を抱きしめ返して、目を閉じる。
眠りは、思っていたよりも遠くなく、あっさり訪れた。