secret 66 恋、想い


「風呂長すぎ……」
髪を乾かしてリビングに戻ると、相変わらずお酒を飲んでいる先生がうんざりした表情で見てくる。
「女の子のお風呂は長いんです」
「全身ふやけてんじゃねーのか」
「いいんです!」
「あっそ。冷蔵庫の中の適当に飲んでいいから。俺も入ってくる」
今度は先生がバスルームに消えて行った。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、喉の渇きをうるおす。
やっぱり先生変だ。
ソファーに座ってテレビのチャンネルを変えながらぼんやり思って―――。
私はふと手を止めた。
なんか……まるで私がシたがってるみたいじゃない!?
改めて考えると、なんか私ってやっぱり先生のいうようにエロいのかな……って思っちゃう。
ため息をついて、ミネラルウォーターを一気に半分くらい飲んだ。
それから先生が戻ってきたのは15分ほどしてからで、私からしてみたら早すぎる。
せっかくキレイなお風呂なんだからゆっくり入ればいいのに。
まぁ先生の家のお風呂も広いんだけど……。
「先生。なにか飲みます?」
「あー、じゃぁビール取って」
「はい」
先生にビールを渡してあげる。
ごくごく一気に飲んでる先生は髪を乾かしてなくって、この前も思ったけど無駄にセクシー。
だから、なんとなく―――。
「先生?」
「ん?」
「あの、私ここにいていいんですか?」
そんなことを訊いてしまった。
「あ?」
「だってせっかくのクリスマスだし。まぁ今日はイブじゃないけど……。それにスイートだし。私みたいな子供じゃなくって、大人の綺麗な女性の……その、セフ……レさんとか呼んだほうが……」
もしかしたら今日先生が手を出さないのは“私”だからかもしれない、って思った。
今日は私の相手をする気分じゃないとか??
先生セフレたくさんいるんだろうし……。
きっとこのスイートに合うようなオトナな女性とか。
「あのな。だから俺は万年発情期かよ、って言ってんだろうが。今日はまったり過ごしたい気分なんだよ。それにお前が子供だからどうのこうの関係ないだろ。俺は邪魔なやつをわざわざ傍にいさせたりしない」
ため息をつきながら先生は煙草に火をつける。
先生の香りが漂ってきて、ちょっと、ホッとした。
「………それならいいですけど」
ぽつり呟くと、先生は返事もせずに大きく欠伸をした。
「そろそろ寝るか」
言われて時計を見れば、11時。
まだ早いけど、たしかに眠い。
今日はなんだかんだすんごく長い一日だったし。
そう思ったら急激に疲れを感じてきちゃうから不思議。
寝る準備をして、一緒にベッドルームに行って、ベッドにもぐりこむ。
シーツの肌触りがよくって気持ちいい。
広いベッドだからどこに寝ようかなって、ちょっと思った。
だってなんかシないのに、傍で寝ていいのかわからなかったから。
なんとなくベッドの端のほうにいたら、
「なんでそんなところにいるんだよ」
呆れたように先生が笑って、私の腰に手をまわして自分のほうへと引き寄せた。
先生の身体に密着するくらいに近づいて、濡れたままの先生の髪からシャンプーの香りがふわっとして、ちょっと頬が緩んだ。
先生と私と同じ匂いがするって思って。
「おやすみなさい」
そっと目を閉じて言うと、「おやすみ」って声が聞こえて、閉じた瞼越しに部屋の灯りが全部消えたのがわかった。

一人じゃない夜。
まるでいつかのように―――抱きしめられて眠る心地よさ。
私は一気に眠りについた。









夢、だと思う。
あたりは真っ暗で。
なにもなくって。
その中で、声がしてた。

『大丈夫―――』

その声が聞き覚えがあるような、ないような。
誰かはわからなくって。

『………大丈夫だ』

そう、囁く声が、とっても優しくて。
夢の中の声に、私はふっと微笑んで―――。

また夢も見ないくらい深い眠りの中に沈んでいった。



そして次に目が覚めたのは、カランって氷が崩れる小さな小さな音だった。