secret 65 恋、想い

そして到着した部屋は―――。
「ひ、広っ!!!」
ぽかんとしてしまうくらいに広かった。
リビングとベッドルームが分かれてて、ソファとかテーブルとか、すっごい高級です!っていう感じのお部屋。
「せ、先生。もしかして……スイートですか!?」
「あ? あー。まぁでも一番広い部屋ではないぞ」
「ええ? もっと広い部屋あるんですか?」
「会議室付きとかなー」
「すごっ! あ、あのちょっと他のお部屋見てきていいですか!?」
スイートっていうのにドキドキテンションあがって、先生の返事をまたずに部屋中を見て回った。
バスルームも広くってきれいだし、お風呂には一面の窓があって夜景が見渡せて、これまたキレイだし!
ベッドルームも広くって、キングサイズのベッドもふかふかで寝心地よさそうだし―――……。
って、あれ?
ベッドの上で飛び跳ねてて……気付いた。
あれ? あれ?
先生とお泊り……。
ってことは、やっぱり―――エロ教師だし……絶対スルよね。
先週末に先生のうちに泊まったとき、すごく激しかったから、なんかちょっと不安かも。
「………」
私、なに考えてるんだろ!
やっぱりなんか先生に毒されていってる気がする!
ぶんぶん大きく首を振って雑念をとりはらってリビングに戻ると先生はお酒を飲みながらテレビを見てる。
「お前も、飲む?」
私に気付いた先生がグラスを見せてくる。
「い、いいです」
それを遠慮して、ソファに座った。もちろん先生の隣ではなく、斜め向かいに。
「………先生」
「なんだ」
先生が見てたのはお笑い番組。
先生でもこんなの見るんだって、ちょっと不思議。でも、全然笑ってないけど……。
「なんで急に泊まることにしたんですか?」
「ここのフレンチが食いたくなった。飯食って酒飲んで帰るのメンドー」
「………」
「あと、そういやまだクリスマスだったなと思って。実家と家でDVD三昧で終わるのもなーと思ったんだよ」
「―――………」
ごにょごにょと、言ってみたら、小さすぎて先生には聞こえなかった。
は?、みたいな顔で見てくる。
「なんだよ」
「か、カップルが……イチャイチャしてるから……悔しくて?」
「……はぁ?」
「だ、だからー! その、こんなところまでエッチしに来たのかな!?と思ったんです!!」
恥ずかしい!
なんでこんなこと言ってるんだろう、私。
顔を真っ赤にさせてると、先生はニヤッと笑う。
「なに誘ってんのか?」
「違いますっ!! だって、先生いっつもエロいから!!」
「俺は万年発情期かよ」
「違うんですか?」
「違うだろ」
「…………」
「…………」
無言で見つめ合いながら攻防をする私と先生。
先生が万年発情期じゃなかったら、なんだっていうだろ??
「……はぁ。実優、ちょっと来い」
深いため息をついた先生が手招きした。
どうしようかなって迷ったけど、遅かれ早かれ襲われるんだったら、なんて思いながら先生の隣に腰かけた。
「お前さ―――夢、見る?」
どんなふうに仕掛けてくるんだろう?
無茶なことしないよね!?
そんなことを考えてたのに。
先生は私に触れもしないで、そんなことを言ってきた。
「………ゆめ?」
「寝てるときに夢とか見る?」
「………んー……見てないと思います」
「あっそ」
「………先生?」
意味分かんないんですけど。
「大丈夫ですか?」
「なにがだよ」
「だって、いつもガーって襲ってくるじゃないですか!」
「だから俺は万年発情期じゃねーって」
「えええ?」
「なに、そんなにシたいのか?」
ぐいっと引き寄せられた。
先生はソファーに寝転がるように倒れて、私が上にのるような状態になってしまった。
先生と、見つめ合う。
上から見下ろす先生は、やっぱり顔が整っていて、イケメンなんだなぁって実感する。
意外にまつ毛長い。
そんなことを思いながら、先生が全然動かないからちょっと焦る。
えっと……どうすればいいんだろ?
まさか私から動くのを待ってる―――とか??
「お腹が暖かい」
ようやく口を開いたかと思うと、先生はそんなことを言った。
「………は?」
「だから、腹。ぽかぽかする」
ニヤッと笑いながら視線を自分のお腹のあたりへ向ける先生。
それを目で追って………私は顔が熱くなるのを感じて腰を浮かせようとした。
だって、先生のお腹あたりが暖かいのって、私がまたがって座っているから、だよね!?
でも逃げようとした私の腰をがっちり押さえて動けなくされる。
「せんせっ!」
「そんなにエッチしたい?」
目を細めて、先生は掴んだ私の腰をさわさわと撫でる。
「………べ、別にっ! 私は―――」
「ふーん」
「で、でも。別に……我慢しなくても……いいですよ?」
今日がクリスマスで、ここがいつもと違う場所だからか。
今日ずっと一緒にいて、ちょっと気がゆるんじゃってるからか。
まるでシていいですよ、みたいなことを言っちゃった私。
恥ずかしくて、ちょっと顔を伏せる。
でも先生は下から見上げているから、表情なんてまるわかりになっちゃうけど。
「―――へぇ。今日は殊勝な心がけ、だな?」
ふっと先生が口元を歪める。
その笑みが、ちょっと色っぽくってドキっとする。
「んじゃぁ」
先生は私に視線を合わせたまま、ゆっくり上半身を起してきた。
先生の顔が目前に迫る。
「実優、お前今日は――――」
なに言われるんだろう……。
ドキドキせずにはいられない。
「禁欲しろ」
「―――………」
「………」
「………え?」
きんよく?
禁欲?
え? なにそれ?
「………先生? 意味が……? どういったプレイですか?」
全然意味がわからなかったから、真顔で訊いてみる。
そしたら先生は大きな声で笑い出した。
「プレイで言えって?」
げらげら笑いながら言う先生。
「………」
なんかちょっと殺意が芽生えちゃうな……。
「まー、強いて言えば放置プレイだな」
「放置……?」
「そう。プレイじゃなく言えば、お預け」
「……えと、それって」
もしかして……。
「今日はシないってことだよ」
先生はそう言って、私をソファの上に降ろすと、自分は立ちあがった。
「風呂入れてくる」
「……は、はい」
戸惑いながら返事をする私に背を向けて先生はリビングを出て行った。
「………」
先生がシないって言った……!?
どうしたんだろ??
どこか具合でも悪いのかな?
今までが今までだけに、納得なんて全然できなくって。
逆になにか落とし穴があるんじゃないかな、なんてことまで思っちゃう。
先生はすぐに戻ってきて、
「お前先に入っていいぞ。バブルバスにしてきてやったから」
そんな気の効いたことまで言っちゃう。
だから、なんか妙に怖くなってきて―――。
「あ、あの」
「なんだ?」
「いっしょ入ります? お風呂」
って、言ってた。
「あ?」
先生は珍しくポカンとして、また笑いだした。
「お前、どんだけエロいんだよ」
「なっ! ち、違いますよ!! わ、私は先生がどこか悪いんじゃないかって、心配して!! だっていっつも変態エロエロ教師なのにっ」
「………お前」
「先生が手を出してこないなんて、熱でもあるか罠か………」
「………」
「………」
「………」
「ごめんなさい」
無言でギロッとにらまれて、即座に謝った。
「……はぁ。んっとに、お前は……。もういいから風呂入って来い」
なぜか呆れられて、バスルームに投げ込まれた。
本当にどうしたんだろう、先生。
不思議すぎる……。
首を傾げながら、ガラス張りの浴室のドアを開けて、中に入った。
先生が用意してくれたバブルバス。いい感じに泡泡になってる。
バブルバスに入るのがすごく楽しみになりながら、身体を洗った。
高級ホテルだけあってアメニティもすごくいいものみたいで。
シャンプーやボディーソープとかすっごくいいアロマの香りだった。
頭から足先まで隅々洗ってから湯船につかる。
泡に埋もれながら、窓を見ると、宝石箱をひっくり返したようなネオンのきらめきがとっても綺麗でため息が出た。
お風呂にテレビまでついていて、夜景を満喫した後はテレビを見ながら、さんざん長湯してしまった。