secret 64 恋、想い

「あー、腹減った」
私がケーキを食べ終わった頃、煙草をもみ消した先生がため息混じりに言った。
「なぁ。ピザでも取るか?」
ケーキを2切れも食べて満足な私に訊いてくる先生。
「……無理です」
「女子高生だろ」
「……先生……なんか女子高生に偏見持ってます?」
「別に」
そう言いながら先生はキッチンのほうへ行くと、一枚の紙を持って戻ってきた。
どうやらピザのチラシみたい。
「あれば、食べるだろ?」
「無理です!」
ケーキ食べて、これからピザとか無理っていうか、太るよ!!
だから断固として首を横に振ってるのに、先生は電話でピザの注文をし始めた。
しかもLサイズを2枚も頼んでる。
……誰が食べるんですか!?
そんなことをブツブツ言いながら、そして話はどうでもいいような他愛のないことに流れて、20分後ピザが来た。
Lサイズのピザはハーフ&ハーフで、合計4種類の味が楽しめちゃうやつ。
ケーキでお腹いっぱいだったんだけど……。
実際ピザ目の前にして、ばくばくがっついてる先生を見て―――、思わず手を伸ばしちゃった私……。
ピザをもぐもぐ食べてると、にやって先生に笑われたから、つんと顔を背けた。
それからピザを食べながら、先生がレンタルしていたらしい映画を見始めて―――。
「腹減った」
「…………」
気付けば夜も7時になってた。
え、いつのまに!?
3本立て続けにDVD見てたから、そりゃ夜にもなってるよね。
ていうか、私先生のうちでなにくつろいでんだろ。
気付けばっていうか、いつのまにか先生は私の膝枕でテレビ見てるし―――。
見てた映画がどれも最新のやつで観たかったものばかりだったから集中しちゃってたけど、ほんとこんなところで何してるんだ!?
こんな淫行教師と2人きりで―――、まぁいい人だけど……。
なんとなく私の太ももに頭を乗せてる先生に、疑問が沸いて……、ふと先生の背中を押してた。
不意を突かれたらしい先生がソファからゴロンと床に落ちる。
「………どういうつもりだ?」
すぐに鬼のような眼光でにらんでくる先生。
「え。あー、別に……。なんとなく……重くて?」
「おまえなー!!」
ぐっと、強い―――でもそんな痛くない程度の力で先生がソファーに私を押し倒して馬乗りになってくる。
「この俺様を重いだと!?」
「えーっと………」
だってなんとなくつき飛ばしちゃいたくなったんだもん、なんて理由通じるはずないよね。
そう思いながら先生を見上げて―――、もしかしてヤバイ状況かな?って思った。
だって、いま先生が私の上にいる。
エロエロ魔神の先生がこのチャンス?逃すわけない―――よね?
「………」
「………」
だからなんとなく黙って先生を見つめてしまった。
いつ襲われるんだろうって。
でも――――。
先生は一瞬怪訝にして、そしてじっと私を見つめてたけど……。
すっと離れてソファーから降りた。
………え。あれ?
襲わないのかな!?
「おい、飯食いにいくぞ」
立ちあがった先生はちらり私を見て言うと、寝室に去っていった。



なんで襲わなかったのかな?
なんてずっと疑問に思いながらシートベルトを締める。
先生はまた咥えたばこでハンドルを握ると車を発進させた。
「……先生ってヘビースモーカーなんですね?」
今日半日居て、身にしみてわかった。
でも慣れちゃったのか、煙草の匂いがあんまりイヤじゃなくなってる。
「まぁな」
「先生の肺、真っ黒そう……」
「俺はピュアだから真っ白です」
「意味わかんないんですけど……」
「それよりお前、好き嫌いないよな?」
「へ? あ、はい。でも……あんまりお腹空いてないんですけど」
「お前なら大丈夫だ」
「…………」
言い返そうって思ったけど、ケーキだけじゃなくってピザもかなり食べちゃってたから、黙った。
それから車は私でも知ってるような高級ホテルの前に停まった。
先生はさっさと車から降りる。
だから私も慌てて降りようとしたら、ホテルマンがドアを開けてくれて。
ドキドキしながら降りた。
だって、ホテルでご飯なんて食べたことないし。
「早く来い」
先生は短く言って、ずんずん中に入って行く。
私もそれを追いかけた。
そしてレストランについて―――、気付いた。
ここって昨日先生が用意してくれたサンドイッチを作ったお店ってことに。
あの美味しいサンドイッチを食べたのが、ほんの昨日のことだなんて信じられない。
まるでもう何日も前のことみたいな気がする。
お店に入ると、すぐにお店の人が先生に挨拶をしていて……。先生がお得意さまなんだってことがわかった。
それから案内されて個室に。
夜景が見える、おしゃれで高級な雰囲気のお部屋。
イスをウェイターさんが引いてくれて、またドキドキしながら座った。
メニューは先生が適当に注文してた。
それにしても先生って、慣れてるなぁ。
私なんて緊張しっぱなしなのに。先生はやっぱりお金持ちだからなのかな?
「……先生、ここって高いんじゃないんですか?」
お金持ちってことはわかってるけど、いかにも高そうなお店ってわかってるけど、訊いてみた。
先生は煙草を取り出しながら、「別に」と煙草を口に咥える。
「心配しなくても、お前のぶんは頼んでないから。料金発生しないから気にするな」
「え……」
頼んでないの!?
そりゃお腹空いてないっていったけど!!
「嘘だよ」
「………」
「お前さぁ、ほんっとアホだな」
「………変態エロ教師に言われたくありません」
むすっとして言い返すけど、先生は口が悪い割に、その眼がほんのちょっと優しくって。
本当はそんなにムカついたわけじゃなかった。
先生と軽口叩くのそんなにキライじゃないし。
「あー、腹減った」
「先生って……、なんか喋らなかったらカッコいいのに。残念ですね」
「………やっぱりお前何も食うな」
「えー!?」
そんなこんな言いあってるうちにシャンパンと前菜が運ばれてきた。
ウエイターさんが注ごうとしたけど、先生はそれを断って、先生が注いでくれた。
細長いシャンパングラスに琥珀色のシャンパンがゆっくり注がれていく。
キレイ。
……なんだけど、ちょっと気になる。
「先生。あの―――これってお酒ですよね?」
「ああ」
ああ、って……。
私未成年なんだけど、教師がお酒勧めていいのかな?
っていうか、先生車どうするんだろう?
「ほら、乾杯」
先生がグラスを傾けてきて、それにならって私もグラスを合わせる。
カチンって小さい音が響く。
先生が飲むのを見て、私も飲んでみた。
シャンパンって初めて飲むんだけど、意外にフルーティで美味しい。
ついごくごくって飲んじゃってると、
「酔っぱらうなよ」
呆れ気味に先生が視線を向けてきながら前菜を食べている。
やっぱりお坊ちゃんだけあってナイフとフォークの使い方とかがキレイ。
「……の、飲みません」
昨日のお酒での大失敗のことをふっと思いだして、慌ててグラスをテーブルに置いた。
それからちょうどいいペースで料理が順に運ばれてきて、すっごく美味しくって食べまくってしまった。
お腹すいてない……はずだったんだけど、高級フレンチとかなかなか食べられるものじゃないし!
貧乏根性もあってデザートプレートを食べつくしたときには満腹すぎて動けないくらいだった。
先生にはデザートはなくって、コーヒーを飲んで一服してる。
「よく食うな」
って、うんざりしたように呟かれて……。
ちょっと恥ずかしかった。
「――――出るぞ」
私は最後に紅茶を飲んでて、満足感いっぱいでいたら先生が立ちあがった。
え、もう!?
もうちょっとゆっくりしてたいんだけどな……。お腹一杯で動けないから。
でも先生はさっさと個室をで行っちゃう。
仕方なく後を追っていったんだけど、先生はお金も払わずに店を出て行く。
「先生、お金は!?」
「―――あ? あとでだよ」
「あとでって」
チン、ってエレベーターが到着の音を鳴らす。
乗りこむ先生に続いて乗ると、先生は最上階のボタンを押してた。
「……あの帰らないんですか?」
「酒飲んで運転するかよ」
「え、じゃー」
「今日は泊まる」
「え、え? 私―――」
「お前も」
「はぁ?? そんな勝手に!」
「どうせ暇だろ」
「暇じゃ………ありますけど……」
家に帰っても一人だし―――。
先生は私の言葉にふっと笑って、エレベーターが到着すると慣れた足取りで部屋に向かっていった。