secret 48 クリスマスの贈り物

家に帰りついたのは3時を回った頃だった。
とりあえずシャワーを浴びて、先生からもらったサンドイッチを食べてゆっくりしてるとインターフォンがなった。
出てみると宅急便。
しかも、ニューヨークからの国際便。
私の目は送り主にくぎ付け。
だって、だって―――。
「ゆーにーちゃん……」
から、だった。
箱を持ってリビングに戻る。
箱はちょっと大きめで、でもすごく重いってわけでもない。
なにが入ってるんだろ。
ドキドキする……。
ローテーブルに箱を置いて、カーペットの上に座り込む。
そして箱を開けた。
一番上にクリスマスカードが置かれてる。
可愛い立体的になるサンタさんとクリスマスツリーや街並みが描かれたカードには
『Merry Christmas! for 実優』
と、ゆーにーちゃんの字で書かれてる。
そして、
「………わぁ」
箱を開けた中に、ラッピングされた大きめの長方形の箱があって。
それをほどくと、白いコートと、小さな箱が現れた。
ファーがついた可愛いコート。
「ゆーにーちゃん……覚えててくれたんだ」
去年の冬に可愛いコートを見つけて、すごく欲しかったんだけど、買おうか悩んでる間に売れてしまったコート。
まだ中学生だったし、ちょっと大人っぽいかなて思ったけど、買えなかったらやっぱり欲しかったなって後悔して。
そしたらゆーにーちゃんが、
『来年のクリスマスに、同じような、でもあれより可愛いコートを見つけてプレゼントしてあげるよ』
って、言ってくれた。
覚えててくれてたっていうのが、ものすごく嬉しい……。
コートを抱きしめながら、もう一つの箱を開けてみた。
「…………」
キラキラひかるハートのネックレス。
ホワイトゴールドで、ハートには小さな石が数個ついてて、輝いてる。
高そう……。
これもプレゼントなのかな?
いいのかな……こんなに?
海外赴任が決まった後、ゆーにーちゃんから『距離を置こう』って、言われた。
距離=別れ、かはわからない。
でも、それからゆーにーちゃんはまったく私に触れなくなったし、ゆーにーちゃんの接し方は叔父であり、父であり、兄であり―――『家族』としてのものだけになった。
「ゆーにーちゃん……」
声が聞きたいよ。
―――――♪
着信音が響きだす。それは、
「ゆーにーちゃん?」
ゆーにーちゃん専用の着信音。
私は急いで電話に出た。
「も、もしもし…っ!」
『―――――実優』
声を聞いただけで、ドキンって胸が高鳴って、胸がぎゅーって締めつけられたみたいに苦しくなる。
「ゆーにー……ちゃん」
『うん。いま、大丈夫?』
「だ、だいじょうぶだよ!!」
『仕事忙しくって、なかなか電話できなくてごめんな』
「ううん! ぜんぜん平気―――じゃないけど。でも、大丈夫だよ」
こうして、いま声が聞こえただけで。
ゆーにーちゃんの優しい声が聞けただけで、全部どうでもよくなる。
『そうだな。俺も実優の声が聞けなくって寂しかったけど、でも今、こうして声が聴けたから―――疲れもなにもかも大丈夫になった』
笑って、そう言ったゆーにーちゃんの言葉に涙がこぼれた。
「ゆ、ゆーにーちゃん、プレゼント、ありがと」
『ああ。コート、気に入った?』
「うんっ! めちゃくちゃ可愛い!!」
『そう? よかった』
微かに聞こえてきた、安心したようにこぼれた吐息さえも、愛しい。
「あの……ネックレス」
『ああ。たまたま目について、可愛かったから買ったんだ』
「高かったんじゃない?」
『いや、全然』
コートだって、とっても肌触りよかった。
ネックレスだって、石はダイヤではないかもしれないけど、安くはなさそうな綺麗さで……。
「ゆーにーちゃん……、甘やかしちゃだめだよ……。調子にのっちゃうよ」
『優しくするよ。大切な姪っこだからね』
「…………」
『………実優?』
「ゆーにーちゃん……好き……だよ」
『…………うん』
少しの間、沈黙になった。
うん、って言ってくれたけど。
でも、俺も、って言葉は返ってこない。
叔父としてでもいいから、言ってほしい。
それは、言えないけど。
『――――正月、帰れなくってごめんな』
「ううん。いいんだよ」
嘘。
寂しいけど。
それを誤魔化して、他愛のない話をした。
学校のこと、ゆーにーちゃんのお仕事のことなんかを、話して、聞いた。
切りたくないけど、時間はあっというまに経って、もう30分も話しちゃってて、電話代が気になっちゃう。
だから、
「そろそろ切ろうか?」
って、私から言った。
それに向こうはまだ朝の6時過ぎとかだし……。
『ああ……。また、かけるよ』
「うん」
『―――実優?』
「なに?」
『メリークリスマス、実優。――――大好きだよ』
「…………っ」
『ひとりで寂しいと思うけど、頑張って』
「……っ、……ん……っ」
『ずっと、実優が元気で笑顔でいるように、こっちから祈ってるから』
「………っ…ふ」
涙が溢れすぎて、声が出ない。
『実優』
「……ゆー……にーちゃ…」
『―――――』
受話器越しに、聴こえてきたのは小さなリップ音。
「……あ…りがとう」
それがなによりの、クリスマスプレゼント。
受話器越しなのがもどかしい。
顔が見れないのが哀しい。
でも、声が聞けて、
「私……幸せだよ。ゆーにーちゃん、プレセント……ありがとう」
涙をこらえて、言った。
そしてこれ以上声を聞いたら名残惜しくって、切れなくなりそうだったから、また電話をもらう約束をして切った。
たった30分の電話。
携帯が、ゆーにーちゃんとの距離を少しだけ縮めてくれたから私は携帯を握り締めて、そっとキスした。


ゆーにーちゃん。


ずっと―――大好きだよ?