secret 39 ともだち、だよね?

「っは、ぁ……は……ぁ」
唇が離され、熱く、上がった呼吸を何度も繰り返す。
和くんの手はイッた私の身体の余韻をなだめるように優しく背中を撫でてくれてる。
「大丈夫か?」
和くんにもたれかかって息を整えていると優しく訊かれた。
少し顔を上げてみると和くんが妙に色っぽい目で私を見ている。
「う…ん……。あの……気持ちヨカッタです……」
恥ずかしかったけど言っておかなきゃいけないかなって思って小声で言ってみた。
すこしのあいだ沈黙が落ちて、ふっと和くんが笑った。
「そりゃ、よかった」
「………和くん」
ぎゅっと抱きしめられて、ふと気付いてしまう。
和くんの、こと。
「あの……、和くんは大丈夫?」
腰のあたりにある、固い感触。
訊くのも恥ずかしいけど。
自分だけ気持ちよくなって、いいのかなって思ってしまう。
「あ? あー……大丈夫」
苦笑して、和くんは私の肩に顔をうずめると
「お前、抱きしめてるだけで満足」
そう言った。
ほんとにいいのかな、って思ったし、私なんか抱きしめてて満足するのかな?
抱き心地そんなにいいのかな?
なんて思うけど。
ほんとは……もうちょっと……ほしい。
なんて、はしたないことも思うけど。
ともだち、だからこれ以上はもうしちゃいけない。
だから私も和くんに頬を寄せて、
「ありがとう、和くん」
って、それだけ言った。
それからしばらくの間、そのまま抱きしめられてた。


「送る」
まわりがどんどん暗くなって、寒さも深くなってきたころ和くんが口を開いた。
身体が離れていくかわりに手を繋いで和くんが優しく微笑んで立ちあがる。
「うん」
ぎゅっと繋いだ手を握り締めて、路地裏から大通りに出ると、もう夜の雰囲気で煌びやかなネオンに包まれてた。
「和くん、明日学校来る?」
「ああ。………たぶん遅刻はするけどな」
苦笑する和くんに私も自然と笑ってしまう。
「来てくれればいいよ。またみんなでお昼ご飯食べようね」
「あぁ」
「……あ!!!!」
お昼ごはん、って自分で言って、そこで私は重大なことに気付いた。
和くんが不思議そうに視線を向けてくる。
「和くん! さっき捺くんから連絡なかった? あのね、捺くんもたぶんね和くんのこと追いかけて行ったんだよ?」
「捺が?」
ちょっと驚いたように目をぱちぱちさせながら和くんは携帯を取り出してた。
「電源切ってたんだよな……。……あー、メール入ってる。つーか10件も入ってんだけど。あいつ……」
呆れたように呟いてるけど、でもちょっと嬉しそう。
「捺くん、たぶんすごく心配してるから連絡してあげて?」
「わかった。お前送ったあと、すぐ電話する」
心配するな、って言うように和くんは笑ってくれた。
「仲良くしてね?」
「ああ。ま、譲れない部分は……無理だけどな」
途中ぼそぼそっと小声で言われて、なんて言ったのかよくわからなかった。
でも和くんの顔が穏やかなままだったから、きっと大丈夫だろうって思う。
「じゃぁ、また明日」
和くんは、私のマンションまで送ってくれた。
「うん。また明日ね!」
明日、会えるって約束が嬉しい。
にこにこしてると、急に和くんが顔を近づけてきて―――。
ちゅ、と軽くキスしてきた。
「………」
「……明日からともだち、で。でも………」
和くんは少し顔を赤くして照れくさそうに笑うと軽く手を上げて、去って行った。
私はしばらくそこでボーっと立ち尽くしてた。

『でも、ともだち以上になりたいから。またいつかキスさせて?』

和くんが最後に言った言葉の意味をパニックになりながら、考えてた。
………えっと。

まさか、だよね?