secret 36 ともだち、だよね?

「俺さ、あの日捺にイライラして、教室飛び出して……屋上で一服してた」
……タバコ吸うんだ、和くん。
「そんで、七香から……お前が俺のことを追いかけて行ったってメールが来て……。それで、俺もお前探しに校舎に戻ったんだ」
ぽつりぽつり思い出すように話していく和くんの眉間にだんだんと深いシワが刻まれる。
「それで……お前が松原と一緒に準備室に入ってくのを見かけて」
そ、そんな最初から見られてたんだ。
あの時のことを思い出して、赤くなるべきなのか青くなるべきなのかわかんなくって私は黙っていることしかできなかった。
「外で、お前が出てくるの待ってたんだけど……出てこなくって。変だなって思って、様子を窺ったら……」
「…………」
最悪……。
今度先生に会ったらもう一度怒っておこう……。
「聞くつもりはなかったけど動けなくてさ。呆然と突っ立ってたら松原が出ていって……それで、そのあと」
入って来ちゃったんだ。
なんか、ある意味和くんって被害者だよね。
人のエッチなとこと見ちゃうなんて……。
やっぱりごめんね、って言いたくなっちゃうよ。
「お前が……松原と付き合ってないって言って、イライラして、気付いたらお前のこと襲ってた」
「………ごめんね」
「……だからお前が謝る必要なんてねーだろ?」
「だって」
「俺が我慢できなかったんだよ。嫉妬して、イライラして、そしてお前が……あんまりにも……」
ぼそぼそって、最後なにか言ったけど聞き取れなかった。
「え?」
聞き返したら、和くんの顔がいきなり真っ赤に染まる。
「和くん?」
「………実優が………エロすぎて」
「は?」
理性がぶっ飛んだ、なんて。
和くんは小声で言って、私から視線を逸らした。
「………」
私まで顔が赤くなっちゃうよ!
は、恥ずかしい。
エッチな声とか聞かれちゃってるし……。
ていうか、和くんとエッチなことしちゃったんだけど……。
「でも、ヤったあと、ものすげー後悔した」
和くんは苦しそうに顔を歪めて、視線を地面に落とした。
「無理やりなんて最低なことをしてしまったって。お前のこと傷つけて……、怖がらせたって……。
お前に顔会わせられないって思って学校に行けなくなった。でもお前に会わないとイライラして、ケンカばっかりして。
そしたらさっき、お前が突然現れて、ずっと嫌われたって思ってたから心配してたって言われたけど、
信じられなくってあの時のこと素直に謝れない自分にイライラして、わけわかんなくなって、またお前のこと無理やり襲おうとして」
溜まっていたものを吐き出すように、一気に喋る和くん。
ずっと悩んでたんだってことが伝わってきて、また泣きそうになった。
だって、やっぱり私のせいだよね。
「俺、最低だろ」
自嘲するようにハッと和くんは笑って、口を閉じた。
「………そんなことないよ? だ、だってもとは私が悪いんだし」
あんまりにも和くんが辛そうでなんとかしなきゃって思うけど考えがまとまらない。
「あの、その……私、押しに弱いっていうか。あの、その。ムードに流されちゃうっていうか。だから……その気にしないでいい……よ?」
何を言ってるんだろう、私……。
結局淫乱です、って自分で言っているようなものだよね。
恥ずかしくて顔を赤くしながら、ちらり和くんを見る。
和くんはちょっと不思議そうにしていて、
「実優って、エッチなこと好きなのか?」
純粋に疑問って感じで訊かれた。
「……………」
でも、なんて答えるの?
そりゃぶっちゃけ嫌いじゃないけど。
大好きだよ!っていうのも変だよね?
えーっと、どうしよう。
「ごめん、変なこと言って。気に障ったらごめんな」
固まる私に、和くんが焦ったように言ってきた。
「う。ううん。大丈夫。あの、その、うん……、気持ちいいことは嫌いじゃないです」
ぼそぼそっと小声で言ってみた。
は……恥ずかしいよー!!!
でも、次の瞬間、ククッって笑い声が聞こえてきた。
和くんが口に拳をあてて、笑ってる。
「あ、ごめん。お前ってほんと天然っていうか、なんていうか」
ぽかんとしちゃった私に気付いた和くんがよくわからないフォローをしてくれる。
天然って前も言われたよね。
自分的にはごく一般的な女の子だと思うんだけど……。
そんなことを思ってると、

「やっぱ、好きだ」

ふわっと笑って、和くんが言った。
「へ?」
好き?
和くんはちょっと眉を下げて苦笑してる。
好き、って今言ったよね?
「和くん……。よかったぁ」
ずっとずっと不安だったことが解決してほっとした。
「私、ずっと嫌われてるって思ってたから」
安心してまた少し涙が出た。
それをぬぐっていると、
「あ?」
意味わからないって感じの和くん。
「だって、私のことでイライラして襲っちゃうくらいだし。その、もう……嫌われちゃったんだろうなって。
もうお友達じゃなくなっちゃったんだろうなって思ってたの」
ずっと心配してたことを言うと、和くんの顔がみるみるうちに強張っていく。
「実優……お前」
そして深い深いため息がこぼれる。
「天然だけでなくって、最強に鈍いんだな……」
「え?」
「はぁ……。お前のこと嫌ってなんかいねーよ。俺がイラついてたのは……結局俺自身に。
カッコつけてばっかりで、なんにもできないヘタレな自分にイライラしてただけ」
「……和くんはいつでもカッコいいよ?」
それにヘタレなんかじゃ全然ないし。
心からそう思って言ったのに和くんはまたため息をついた。
「お前さ。好きなやつっているの?」
「えっ」
「松原は?」
「せ、先生? ないない!!」
「……ふうん。じゃぁ捺は?」
「え、捺くん……は、その、やっぱりお友達って感じかな」
「そっか。……ほかは?」
「………えと」
「………いるの?」
「………あの……元カレって言うのかな……」
「………そうなんだ」
「う、うん」
「俺は、どう?」
「へ?」
「嫌い? お前のこと2回も襲おうとしたし」
「そ、そんなことないよ! さっきも言ったけど、ほんと心配してて! だって、もともとは私が悪いって、やっぱり思うし」
「じゃぁ、怖くないか?」
真剣に和くんが私を見つめて、そっと手を伸ばしてくる。
頬を包むように和くんの掌が触れる。
一瞬身体がビクッて震えてしまった。