secret 37 ともだち、だよね?

和くんの眼が哀しそうに揺れて、焦る。
「こ、怖くないよ! いま、びくってなっちゃったのはね、和くんの手がものすごく冷たくって!!」
頬に触れてた和くんの手を取って、和くんの頬に触れさせる。
とたんに和くんも一瞬ビクッて震えて、吹き出した。
「ほんとだ。冷たいな」
笑う顔が穏やかで、ほんとうにほっとする。
ああ、和くんとまた仲良くなれたんだなって思って嬉しくなる。
「身体はずっとくっついてるから暖かいのにね」
抱きしめられたままの体勢で喋ってたから、寒さ自体はそうでもない。
冷たい風にさらされてる頬や、手が冷え切ってしまってる。
だから思ったことそのまま言っただけなんだけど、和くんの顔が強張った。
「……お前……天然にもほどがあるだろ」
「え? なんで」
「なんでって、ほんとにわかんねーのか?」
「……うん?」
よくわかんないから、頷いた。
そしたらギュって強く抱きしめられた。
「お前の一言で、お前が俺の腕の中にいるって状況再認識させられたんだけど」
「え、えっと?」
たしかに、いま抱きしめられてる。
「はぁ……。お前の友達するのも大変だな。ていうか、あんまり無防備すぎると襲われるぞ……」
ため息混じりの和くんの声。
「おそ……!? え、と、和くんはもう襲わないよね? そ、それにともだち、だよね?」
大変って言われて、ちょっと不安になってしまう。
それに答えるようにぎゅーって抱きしめる力がまたさらに強くなった。
「……ともだち、でいいよ。お前が俺のこと怖くないなら」
「怖くないよ?」
「……あぁ。でも俺、男なんだけど」
「そうだね?」
耳元でまた和くんのため息。
そんなにため息つかれるようなこと言ったかな??
「密着してるとエロい気分になってくるってことだよ」
「あー……え? ええっ!!?」
……そう、言われてみれば。
和くんの脚の間に座り込んでいる状態で抱きしめられてるんだけど。
その……。
腰のあたりになんかちょっと固い異物感が……当たってるような。
「あの和くん……」
「実優」
「うん?」
「俺のこと、ほんとに怖くないか?」
「うん、大丈夫だよ?」
「そっか。でも怖がらせたのは事実だよな」
「………まぁ」
「あのさ」
ちょっと躊躇ったように和くんが目を泳がせながら呟く。
「どうしたの?」
「その……。ちょっと挽回させてくんねーか?」
「挽回って?」
「あーっと、その、実優、気持ちいいこと好きなんだろ?」
「へ?」
「さっき、無理やり指入れて痛がらせたし……、お詫びに気持ち良くさせたい」
…………はぁ!?
ぽかんと女の子なのに大きく口を開けて、呆けてしまった。
言われたことの意味はわかるんだけど、なんて答えたらいいのかわかんなくってただ和くんを見てた。
和くんは少し顔を赤くして、私の肩に額を乗せる。
「ともだちでいい。しばらくは……だから、いまだけ、ちょっとだけ実優を感じさせてくれないか?
優しくするから」
「………っ」
「絶対、最後まではシねーから。お前を気持ちよくさせたいだけだからさ。無理やりヤったっての、ちょっとでも消させて」
ちょっと低く、ちょっと掠れた声で和くんが言った。
ドキドキドキドキ―――。
心臓の音が早く大きくなってる。
それは抱きしめてくる和くんから伝わってくるもの。
そのドキドキが移っちゃうように、私もドキドキしてきてしまう。
和くんが言った言葉にすんなり頷けないけど。
ものすごく緊張してるのがわかるから、無理とも言えない。
肩に乗せられた和くんの額から、ほのかな体温がつたわってきて、すぐそばにある金色の髪に頬がくすぐられて、
ドキドキが加速していく。
「………いや、だよな。外だし、寒いしな」
顔を伏せたまま和くんがため息をついた。
自嘲してる感じがした。
どうしよう。
どうしたらいいんだろ。
「実優」
顔を上げた和くんと目が合う。
すごく近い距離にある顔。
目を逸らせないくらいに真剣な、熱い眼差し。
ドキドキドキ。
どうしよう?
「キス、していいか」
明日から、ともだちでいいから。
だから―――。
って、和くんが切ない眼で見つめてくるから。
どうしよう、って思いながら目を閉じてしまった。