secret 34 ともだち、だよね?

どこかに視線を向けて、ぽつり呟いた捺くんの言葉に、私も視線の先に目を向けてみた。
見えたのはガラが悪そうな男たちの集団。
なにか揉めてるようにも見える。
「実優ちゃん。ごめん、あのさ急用思い出しちゃってさ。ほんとーに悪いんだけど、一人で帰れる?」
「え? ……うん、大丈夫だよ! だってまだ6時前だし、ぜんぜん平気」
ちょっと焦って、顔を強張らせてる捺くんに笑顔で答える。
さっきの人たち、知り合いなのかな?
「ほんとごめんね。すぐ暗くなるから、まっすぐ帰ってね。なにかあったら電話して?」
まるで小さい子に言うみたいに念を押してくる捺くん。
思わず苦笑してしまう。
「大丈夫だよ! 捺くんこそ、気をつけてね?」
なんとなく気にかかってそう言うと、捺くんは小さく笑って頷いた。
「じゃぁまた明日ね、実優ちゃん」
「うん」
ばいばい、と手を振って、捺くんと別れた。
私はその場で、走っていく捺くんを見送る。
なんとなく心配になってしまう。
やっぱり捺くんは遠のいていくさっきの集団を追いかけていってるみたいで。
それを目で追ってて……。
金色の髪が目に入った。
「…………和くん?」
金髪の人なんて、多くもないけど、でもすっごく珍しいってわけでもない。
でもでも、捺くんが心配して追いかけて行くってことは。
和くんかもしれない。
『喧嘩ばっかりしてる』って言ってたのを思い出して、胸が痛くなった。
和くんだったらどうしよう?
もしかして、さっきの集団にいて、
もしかして、これからケンカとか?
そう考えたら怖くなってきた。
和くんが怪我しちゃったら、追いかけた捺くんも怪我しちゃったらどうしようって。
大丈夫なのかな?
怖くって、心配で、不安で。
『まっすぐ帰ってね』
そう捺くんに言われてたのに、気付いたら私はさっきの集団を探すように走り出してた。




私の足が遅いからかガラの悪い集団も、さっき別れたばっかりの捺くんも見つけることができない。
うろうろするばっかりで、無駄に時間が過ぎていってる。
路地裏なんかを覗き込みながら走ってるとちょっと大人なお店が立ち並ぶ一角に入り込んじゃってた。
制服の私はちょっと目立ってる。
慌てて、引き返さなきゃって元来た道を戻ろうとしたとき、金色の髪が目に映った。
驚いて見ると、細い裏道に入っていく男の人。
一瞬横顔がちょっとだけ見えて―――。
「和くん……」
見間違えかもしれない。
でも黒のダウンにも見おぼえがあったから、ちょっと迷ったけど、すぐにあとを追って行った。
しんとした路地裏。
あまりいいとは言えない、なんとなく辛気臭い空気が漂ってる。
もうあたりはどっぷり暗くなってきてて、ちょっと怖い。
でもすぐにさっきの人の後ろ姿を見つけて。
「和くん!!」
確認もしてないのに、呼びかけてた。
和くんっぽい人の足が止まる。
走っていたのを歩みに変えて、近づいていくとその人が振り返った。
「和くん……」
やっぱり、和くんだった。
和くんは驚いたように私を見つめてる。
その顔や身体は、やっぱりケンカしてたのか青あざや擦り傷だらけだった。
「……なんで」
ぽつり和くんが呟いた。
「見かけて……。もしかして和くんかなって思って追いかけてきたの」
和くんの目の前で足を止める。
久しぶりに会う和くん。
あの日以来、正直どう対応していいのかわからないけど、とりあえずいまは笑顔を向けた。
「あっ、そうだ!」
唇の端から血が出てる。
ハンカチを取り出して、差し出した。
でも和くんは受け取ってくれない。
「なんで追いかけてくるんだよ」
そう言った声は……とっても冷たかった。
そして目も。
さっきまで驚いていたのが嘘みたいに冷めきった眼差しが私に向けられてる。
それは初めて見る和くんの顔だった。
あの日、襲われた時も冷たかったけど、いまのほうがもっと冷たい。
感情がぜんぜんなくって。
まるで知らない男の人みたい……。
「し…心配だったからだよ? 学校にもぜんぜん来ないし。ずっと、心配で―――」
「あぁ、そういうことか」
「え? ………きゃっ!」
いきなり壁に押し付けられた。
強く背中があたって、痛くって眉を寄せる。
右肩を押さえつけるように掴まれてる。
「和……くん?」
「あんなことされて、追いかけてくるってことは。
また襲ってほしいってことなんだろ?」

え―――。

ちが、う。

って、言おうと思ったのに。
気付いたときにはすぐそばまで迫ってた和くんに唇を塞がれてた。
「……んっ」
荒々しいキス。
無理やり口をこじ開けるようにして、舌が割って入ってくる。
びっくりして逃げる私の舌を引きずりだすように無理やり絡めさせられる。
そして口の中に広がったのは、
ちょっと鉄っぽい………血の味。
口の中を怪我してたらしい和くんの血が、唾液とともに伝わってくる。
「……っ……んん……っ」
噛みつくように口内を犯される。
苦しくて、痛くて、怖い。
「犯されたのに、さんざん喘いでたもんな?」
「…は…ぁ……っ」
解放されて必死で息を吸い込む私の目を覗きこんで、無表情に和くんが言う。
「そんなよかった? そんなに犯されたいのか」
「ちが……」
「違わないだろーが」
和くんの手が太ももを滑ってスカートをまくりあげる。
そしてパンツの中に入り込んで、指を一本、突き刺した。