secret 33 ともだち、だよね?

「クリスマスパーティ?」
「そうそう。って、捺まだ言ってなかったの?」
大変だったお昼休みを終えて授業を消費しての帰り道、七香ちゃんが言った。
クリスマスイブに友達とパーティするんだけど、来ない?って。
今日は七香ちゃんも一緒に帰ってる。
お昼休みのキスのことがあったから捺くんには悪いけど、七香ちゃんにお願いして一緒に帰ってもらうことにしたんだ。
もちろんキスのことは言ってないけど。
「あー。うん。今日帰りにでも言おうと思ってたよ」
「とっくに誘ってると思ってたわ。実優、来れる? 7時から。イブだけど大丈夫?」
七香ちゃんとは土日メールしてる間に、呼び方が実優って呼び捨てに変わってた。
なんかそっちのほうが親しく感じれて私的には嬉しい。
私は呼び捨てでは呼びきれないんだけど。
「うん! 全然予定ないし、大丈夫」
「寂しいイブにならなくってよかったね」
なんてニヤって笑う七香ちゃん。
でもたしかに、そう。
去年までのイブはいつも叔父……ゆーにーちゃんと一緒だった。
仕事で遅くなってもぜったいにゆーにーちゃんはケーキを買って、一緒にお祝いしてくれてた。
パパとママがいなくなってから、ずっと。
だからひとりのクリスマスは初めてのはずだった。
「パーティって誰がくるの? 私、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。そんな大げさなものじゃないし。うちのクラスの子もくるし、あとは捺の友達とかいろいろ」
「んーと15人くらいだったかな? オレの従兄がちっちゃいバーしてて、そこを借りてするんだ」
「バー? イブの日にいいの?」
捺くんは苦笑して裏事情を教えてくれる。
「従兄…マサ兄っていうんだけど、いま彼女いなくってひとり身だから。イブに店開けてカップルが来たらイヤなんだって」
あー……。なんとなく気持ちはわかるかも。
イブってほんとうにカップルばっかりだもんね。
「それでカップルよりはオレに貸して、どんちゃん騒ぎのほうがマシって理由。
マサ兄もいいやつだし、実優ちゃんも友達増やすいい機会だし楽しもうよ」
「うん! ………あ」
クラスメイトや捺くんの友達ってことは来るのかな……?
「あの、和くんは来るの?」
あれっきりずっと会ってない和くん。
このままじゃいけないって思ってるけどどうすればいいのかよくわかんない。
「………来るんじゃねーの」
どうしたのかな。
捺くんが急に不機嫌になってる。
「来る予定だよ」
そんな捺くんをフォローするように七香ちゃんが笑いながら言った。
「そっか。よかった」
「……実優ちゃん」
「なに?」
「やっぱり和となんかあったでしょ?」
不機嫌プラス拗ねた感じで捺くんが上目遣いで見てくる。
「な、なにもないって! ただずっとお休みしてるから心配なだけだよ!」
「ふーん」
まるっきり信じてない、そんな感じで相槌を打たれる。
「……あの…元気にしてるの?」
なぜか拗ねているっぽい捺くんに訊くのはちょっとためらったけど、確か捺くんと和くんは幼馴染って言ってたし。
学校には来てないけど学校の外では会ってたりするかもしれない。
そう思って訊いてみた。
「あー。無駄に元気」
「暴れ馬」
ため息混じりに捺くんが言って、七香ちゃんが続けて苦笑しながら言った。
「あばれ……?」
「喧嘩ばっかりしてる」
「け……。ええええ?」
「ほっとけばいいよ」
捺くんは少しだけ怒ってるみたいだった。
たぶんそれは和くんに。
怒ってるけど、半分心配してるっぽい目をしてたから。
七香ちゃんはなんにも言わなくって私もそれ以上なんにも言えなくって。
そのあとはまたクリスマスパーティの話になって。
帰り道はとりあえず楽しさを取り戻した。




「んじゃーね」
ばいばーいって手を振って去っていく七香ちゃん。
このあと彼氏とデートらしくって七香ちゃんとは途中で別れた。
「このまま帰る? どこか寄っていく?」
捺くんがようやく2人きりになれたね、ってにこにこしてる。
2人きりかぁ。
本屋さんに行きたいんだけどな。
今日読みたい雑誌の発売日だし……。参考書買いたいし……。
うーん。
「どうしたの? そんな悩んで」
捺くんがクスッと笑う。
「そんな警戒しなくっても今日は襲ったりしないからさ。行きたいところあったら言って?」
………今日は?
き、聞かなかったことにしよう。
「……えっと、本屋さん」
「了解。ちょっと大きめなとこに行かない? オレ、今日発売されるCD買いたくってさ」
「うん、いいよ」
私的には遠回りになっちゃうんだけど、やっぱり大きい本屋さんのほうが本の種類も多いしね。
今日のところは捺くんを信用して、2人で本屋さんに向かった。
本屋さんでは捺くんも一緒に参考書を選んでくれたり、捺くんの買うCDを貸してもらう約束したりと楽しい時間だった。
「付き合ってくれてありがとう、捺くん」
「ううん。オレこそCD買えたし」
楽しそうに笑ってる捺くん。
こうして友達として一緒に歩いているのは楽しいのになぁ。
「もうすぐクリスマスかぁ。実優ちゃんと一緒にイブ過ごせて嬉しいな」
「え、あ、うん。みんなで楽しもうね!」
イブを一緒には過ごすけど。
そこに深い意味はないし。
パーティだし!
最近の積極的すぎる捺くんに予防線を張るように、言ってみた。
捺くんは私の牽制に気付いてるのかいないのか。
とくになにも気にする様子もなく「騒ぎまくろうね!」って目を細めてる。
キラキラとクリスマスムード一色の繁華街。
私を送るために一緒に歩いてくれる捺くんと他愛のない話をしているときだった。
「………あいつ」
捺くんが急に足を止めた。