secret 32 恋は押して押しまくれ!

月曜日。
和くんはやっぱり来ないまま、捺くんが昼休みにやってきた。
「実優ちゃん、行こ」
今日はお弁当を作ってきてたから、机に出して七香ちゃんとお喋りしてた私の手を引っ張る捺くん。
「え? 購買?」
「いいから! 行こ? 七香、悪いな」
戸惑ってると捺くんが七香ちゃんに言った。
七香ちゃんを見ると、なにか捺くんから聞いているのか
「行ってらっしゃい」
って手を振ってくる。
「ね、行こう」
最後は必殺・捺くんの上目遣いでお願いされてよくわかんなかったけど捺くんについていく。
お弁当を捺くんが持ってくれたから、もしかしたら二人きりで食べる…とか?
二人、きり。
……ぁ! 週末変態先生に拉致されてたから忘れてたけど、捺くんにキスされちゃったんだった!
しかもなんか…すごい意味深な頑張る発言してたし……。
私、このままついて行って大丈夫なのかな。
ちょっと不安になっちゃって捺くんを見る。
捺くんは私の手をしっかり握ってて楽しそうな、やっぱり可愛い笑顔をしてる。
……大丈夫だよね?
「ここだよ、実優ちゃん」
捺くんに連れて来られたのはどうやら屋上に出れる階段の踊り場だった。
「ここさ、すっごく陽当たりよくってさ。オレのお気に入りの場所なんだ」
ニコニコ捺くんは笑いながら壁際に座り込んだ。
確かにすっごく陽当たりがいい。
大きな窓から一面に陽が入ってきてて、ぽかぽか暖かかった。
「すごい! 暖かいね!」
「でしょ? はい」
ポンと捺くんは隣のスペースを叩く。
「ありがとう」って言いながら、人ひとりぶんの距離をあけて座った。
……念のため。
でもすぐにぐいっと距離を縮めて、くっついてくる捺くん。
「今日はお弁当なんだね」
ずっと持っててくれてたお弁当を渡してくれた。
「ありがとう。今日はちょっと早く起きれたから」
週に二三回くらいはお弁当作ってきていた。
とは言ってもたいしたものは入ってないけど。
冷食のから揚げに卵焼き、昨日作ったお煮しめと、彩りのためにいれたブロッコリーとプチトマト。
でもキレイには詰めれたかな?
お弁当の蓋をあけて、崩れてなかったからホッとした。
「おいしそう」
菓子パンを食べ始めてた捺くんが物欲しそうに見つめてくる。
先週も同じことがあったから
「いいよ、好きなの取って」
ってお弁当を差し出した。
「やった! じゃあ、卵焼き! 実優ちゃんの甘くて好きなんだ」
「あ、ありがとう」
面と向かって言われると照れちゃう。
でもなぜか捺くんは卵焼きを取らない。
「あーん」
「……えっ」
目を閉じて口を開ける捺くん。
それがまたすごく可愛くて妙にドキドキしちゃう。
「あーん」
催促されて仕方なく卵焼きを口の中に入れてあげた。
パチッと目を開けた捺くんがもぐもぐ口を動かして、パ〜っと顔を輝かせる。
「やっぱり実優ちゃんの美味しい!」
キラキラした笑顔。
……か……可愛い〜っ!!
「あ……、あ〜ん」
無意識に私は残りの卵焼きを……自分から『あ〜ん』なんて言っちゃって捺くんに食べさせてあげてた。
だ、だって可愛いんだもん!!
なんだろチワワとか?
小動物的でプラス美少女(男の子だけど)に見つめられちゃったら誰でもデレデレになると思う!
もぐもぐ食べていた捺くんがちょっと心配そうに訊いてくる。
「実優ちゃんの分の卵焼きなくなっちゃったよ?」
「別にいいよ。気にしなくって」
卵焼きなんていつでも食べられるしね。
だから平気だよって笑って言ったのに、捺くんはなにか考えているみたい。
どうしたんだろ?
不思議に思いながら捺くんを見てると急に笑顔で言ってきた。
「実優ちゃん。あーん」
「あーん?」
なにが?って思いながら、捺くんにつられて『あーん』しちゃった私……。
「……っ!!」
ぐっと捺くんが近づいたかと思うと、その手が後頭部にまわされて。
あっと思った時には捺くんにキスされてた。
口を開けてたから、いっきに舌が割り込んでくる。
びっくりして固まってた私の舌に絡まってくる捺くんの舌。
口の中でペロペロと舌を舐められる。
「……っ、…んっ」
少しして、ようやく捺くんが離れてくれた。
「卵焼きの味、した?」
ぺろり、捺くんが自分の唇を舐めて小悪魔な笑顔を見せる。
「……っ……わ、わかんないっ」
やっぱり捺くんは危険人物だっ!!
私は落とさないように必死で持っていたお弁当とお箸を床に置いて、捺くんとちょっと距離を取ろうとした。
だけど、
「真っ赤になってカワイイー、実優ちゃん」
クスクス、天使みたいな可愛い顔で笑って、捺くんはまた私の唇を塞いだ。
どうにか逃げなきゃって身をよじろうとするんだけど、やっぱり男の子で、力が強い。
背中にまわされた捺くんの両手に拘束されて身動きが取れない。
さっきよりも激しく口のナカが蹂躙される。
「……っ……ぁ……ん……っ」
逃げるのを許さないって感じで、舌を吸われて舌の裏側をなぞられる。
息継ぎも許してもらえなくて必死で捺くんの胸を叩くけどクチュクチュ唾液の混ざりあう音に頭の中が熱く、真っ白になっていっちゃう。
「……ん……んっ……ゃ……っ…」
くらくらして限界!って思ったとき、ようやく解放された。
胸を押さえて息を吸い込んで、整える。
「ごちそうさま」
「……な、捺くんー…!!!」
私はできるかぎりの目力でにらんだ。
でも捺くんはきょとんとして、すぐにニッと笑う。
「実優ちゃん、そんな目を潤ませてオレのこと誘惑してるの?」
「なっ! そんなこと!」
「可愛い、実優ちゃん。結構敏感なんだね? キスのときの甘い声も可愛かったよ」
「……っ!!!」
一気に顔がゆでダコみたいに赤くなってしまってるのがわかる。
は、はずかしー!!
「捺くんっ!! 怒るよっ!」
「ごめんなさい」
精一杯頑張って言ってみたら、急にシュンとなって捺くんは素直に謝った。
「卵焼きの味をわけてあげたかっただけなんだ。でもイヤだったよね? ほんとごめんね」
がっくり肩を落としてうなだれる捺くん。
イヤっていうか、困るっていうか。
でもあんまりにもシュンってなっちゃってる捺くんに、私のほうが悪いことした気分になってくる。
「な、捺くん! 私大丈夫だから! 気にしないし!」
「でも……。オレ、最悪だよね。ほんとごめん……」
「大丈夫だって、捺くん!」
目をうるうるさせて上目遣いでごめんねって言い続ける捺くんが可愛くって可哀想でしかたなくなってくる。
「ほんと?」
「ほんとだよ!」
「気持ち悪かったよね?」
「そんなことないよ!」
「じゃぁ気持ちよかった?」
「うん!」
「またしてもいい?」
「うん!」
………あれ?
なんだろ、なんだか会話が変な気がする。
立て続けに質問されて、捺くんが傷つかないようにって。
ぽんぽん答えてたけど……。えっと、……あれ?
「よかった! じゃぁ!」
捺くんがようやく満面の笑みになって私はその笑顔にほっとしたんだけど。
ちゅ、って捺くんが素早くキスしてきた。
ちゅ、ちゅ、とついばむようなキス。
『ちょっと待って!』って言いたくて口を開けてしまった馬鹿な私。
その瞬間、また捺くんの舌が割り込んできた。
今度は優しく、優しく絡めてくる。
「………っ……ん…」
3回目のキスはやけに長くてようやく解放されたときには頭がぼーっとしちゃってた。
そんな私を覗きこんで捺くんはやっぱり可愛らしい笑顔で、でもやっぱりひと癖もふた癖もあることを言った。
「もうすぐ冬休みだよね? オレそれまでにもうちょっと距離縮めたいから。だから……」
覚悟しといてね?
天使みたいに可愛いのに、そう言った捺くんは妙に色気たっぷりの小悪魔モードで。
素早く私の耳を甘噛みして、今度こそ私から離れてパンを食べだした。
………覚悟って。
キスの余韻でうまく頭がまわらない。
でもとんでもない宣言なことは確かだよね。
とりあえず明日からのお昼は絶対七香ちゃんも一緒にいてもらおう。
それだけは強く心に誓った。