secret 31 金曜日はパラダイス!?

ぼんやり目を開けると、知らない天井。
………どこ?
もぞもぞとさわり心地がいいシーツに頬を擦りつけながら寝返りを打つ。
………どこだっけぇ。
うーん。
ふわぁとあくびが出ちゃって、目を擦りかけて、止まった。
すぐそばに………こっちを向いて寝てる……。
「………ぁ!!」
先生のうちだ!!!!
そ、そうだ。たしか、私、エッチしてて……気を失っちゃった……んだよね。
ありえない……。
恥ずかしすぎるー!!!
ぎゃー!って叫びたいのをなんとか我慢する。
深呼吸を繰り返して暗い室内の中、隣で寝ている先生をちょっと観察。
うーん。寝ててもイケメンはイケメン!
まつ毛ながすぎじゃない?
男のくせに肌綺麗だし!!!
肩とか、胸元とかすべすべしてて気持ちよさそうだし。
無駄な肉がついてないけど、ムキムキじゃないほどよい筋肉質な感じが……。
って! 私なんか変態親父みたい……。
横向きになってる先生は上半身裸らしくって鎖骨あたりから上が見えてる。
なんかチラ見せエロセクシーな感じ……。
って!! やっぱり私……変態おや…。
「なに百面相してんだよ」
いきなりかけられた声に、ビクッとしてしまう。
身体を縮ませてると、うっすら目を開けた先生が不審者でも見るような眼差しを向けてきてる。
「お、脅かさないでくださいよ!! し、心臓止まると思っちゃったじゃないですかっ」
「ああ? 人のことジロジロ視姦してたやつが悪い」
「し……!! してませんっ!」
「ふっ。どーだかなぁ? イキまくって気絶するくらいの淫乱ちゃんだからなぁ」
唇を歪めた先生の手が伸びてきて私の背中と腰を捕まえる。
きゃっ、と悲鳴をあげる私の身体はいっきに引き寄せられて先生の腕の中。
その手はさわさわとお尻を撫でてる。
「ちょっと、先生っ!」
「いーじゃん、触るくらい。あと始末俺がしてやったんだからな?」
「後始末?」
「潮吹いたの誰だっけ? 愛液どろどろ溢れさせてたのはどこのどいつだ? シーツ変えて、お前汗とか愛液で身体ベトベトだったからシャワーで洗ってやったりしてさ」
俺って介護士か?
つーか、風呂入れても起きないなんてどんだけ爆睡だよ。
って先生がブツブツ言ってる。
し……潮……。た、確かに気持ち良すぎちゃってあのとき……。
あああ、恥ずかしすぎて顔熱い……。
しかもシャワーって!! ほんとに? だって全然覚えてないよ!?
「ほ、ほんとに? だ、だって覚えてない。っていうか!!! 寝てる間に変なことしてませんよね!?」
お礼を言うべきなんだろうけど、照れくさくってあまのじゃくなことを言っちゃう私。
だけど先生は……にやーっと笑うと、「さぁな?」って意味深に目を光らせる。
な、な、な。
「何したんだすか!?」
「……だすかってなんだよ。なにっていやぁナニだろ?」
「はぁぁ?」
「お前イキまくってたけど、俺まだ2回だけだったし。な?」
「な!? へ! 変態!!!!」
「その変態に気絶したままよがってんのは誰だよ」
「変態!!!」
「うるせーな。お前が気絶したあと、入れたまま3回戦しただけだよ。それくらいいいだろ」
「…………」
なんかもう何も言えなくなった。
だってたぶんあのとき気絶してもしなくっても、そのまま3回戦にもつれこまれてたっていうのはわかったから。
「………先生って……性欲ハンパないですね?」
「なに? 4回戦希望?」
ニヤッて先生が身体を寄せてくる。
私の太ももあたりに微妙に硬くて柔らかいものが当たってきて……。
「お前が口でシてくれればすぐ復活するけど?」
「……結構です!!!! 明日起きれなくなるし!!!!」
実際微妙にじんじん腰が痛かったりする……。
「あっそ。ま。いーけど。明日俺昼から用事あるから、昼前にお前んち送るな。だから朝あと一回ヤればいい」
「は?」
思わず問い返すけど、先生は無視。
………ったくもう!!!
「ところで今何時なんですか」
仕方なくため息をついて気になってたことを聞いてみた。
「いま? 午前2時。そーいえば」
午前2時かぁ。私何時間寝てたんだろ? 3時間くらいなのかな???
「もうすぐ冬休みだけど、お前いつから帰省するんだ?」
「え?」
「ひとり暮らししてるんだろ? 親御さんとこにはいつ帰るんだよ」
「帰りませんけど?」
「はぁ? 正月だぞ?」
「私、両親いないんです」
まさかこのタイミングで言うとは思わなかったなぁ。
ちょっと固まってしまった先生に内心ため息がこぼれちゃう。
きっと、この先を言ったらもっと固まっちゃうだろうから。

それとも……憐れむのかな?

「私が10歳のときに両親、事故で死んでるんです」
ほんの少し、先生が眉を寄せた。
「………それから一人なのか?」
「いえ。ゆー……、えっとママの弟……、つまり叔父さんさんが私のことを引き取ってくれたので。
ただ3か月前に海外赴任になっちゃって、その関係でいまの学園に転校することになったりしたんですけど」
中学受験で本命の高校を寝坊しちゃって落ちた馬鹿すぎる私……。
それは推薦だったから一般入試もあったんだけど。
一般入試の時には風邪ひいちゃって、受けれなくって……。ほかの受ける予定だったところもダメになっちゃって。
ようやく引っかかったところは住んでいるマンションから1時間以上かかるところだった……。
叔父さんがこっちにいたころはちょっと帰りが遅くなっても迎えにきてくれたからいいんだけど、海外赴任しちゃったから。
だから叔父さんがマンションから近い学校へ、ってことになって編入試験もパスして今の学園へ来ることになったの。
まさか転校してきてほんの2週間たらずでこんないろんなことが起きるなんて思ってもみなかったけど…。
転校初日に犯されかけるって、いま思い返してもあり得ないよね。
目の前の、この先生に……!
ほんとあり得ない……。
なんてまるで遠い昔のことみたいに思い返してると。
「ふーん」
ずっと黙ってた先生が、それだけ言って目を閉じた。
そのあとすぐに規則正しい寝息がしてきた。
「……せんせー?」
小声で呼びかけてみたけど、うんともすんとも言わない。
ほんとに寝ちゃったのかな?
「………」
じっと先生の寝顔を見つめてみた。
意外にいい人なのかな、と思って。

両親を亡くしたから
『可哀想』とか
『寂しかっただろうに』とか、そんなことを言われるのはあんまり好きじゃなかったから

だから、あんまり言ったことがなかった。
一人暮らしの理由を。

ほっと息をついて、私も目を閉じた。
ほんの少しだけ、先生のほうに身を寄せながら。
久しぶりにひとりじゃない夜。
すぐそばにある体温。



それは―――――の、ではないけれど。




ゆーにーちゃん……。


元気にしてますか?


海の向こうで


いま


あなたのとなりには



誰かいるのかな?