番外編 七香ツアーズin松原邸 7 

「5位5位5位5位5位」
「………」
まるで念仏みたいに唱えるような声が聞こえてくる。
「チッ……早く抜けろ……」
「………」
舌打ちと低すぎる声。
「俺はない、俺はない」
これまた祈るような声。
誰が誰かというと念仏が捺で、舌打ちが松原で、最後がユタカだ。
いまはゴール間近で攻防っていうか、神頼みっていうか、男連中は必死の形相。
女王様のご命令は『4位とビリがべろちゅー」なわけだから5位でゴールすればいいわけ。
「チッ」
また舌打ちが聞こえてきて、松原を見るとイライラした感じで隣にいる女王様を押しのけようとしてる。
「邪魔だ」
「じゃまって、ひっどーいぃ!! せんせぇがつぎごーるできるよーにおうえんしてるのにー!」
「次じゃだめだろーが!」
「なんでぇー?」
……実優、あんたマジで退けた方がいいと思う。
松原のあの表情を見てべたべた抱きつけるなんて酔っぱらってるから出来るんだろうけど。
さすがにヤバイと思う。
だって鬼だよ、鬼。
つーか般若?
美形だけに怒ると恐ろしさが増してるっていうかなんていうか。
松原の苛立ちが尋常じゃないせいか、それとも自分の身が危ないからか捺とユタカは実優が松原にべたべたしてても目に入ってないみたい。
「次は捺くんだよ」
修羅場と化してる部屋の中で実優の次に空気を読んでいない……いや読んでるからこそ楽しんでるんだろう羽純が捺に笑顔を向ける。
「あ、う……うん」
緊張の表情で捺がルーレットに手を伸ばした。
男三人は本当にゴール間近。
捺はあと10マスでゴールの位置。
ユタカと松原が同じゴールまで11マスのところ。
やたらとこの人生ゲームに時間かかったのはなぜか1~5しかルーレットで数字がでなかったから。
だから――――。
「10だね」
「………」
「………」
「………」
「………うっ」
羽純が読み上げた数に、一瞬で捺の目に涙が浮かんだ。
「うあああーーーん」
泣き崩れる捺。
「「「………」」」
「捺くん、4着ね」
「どーしたのぉ、なつくん?」
「み、みゆーちゃん」
「なにかかなしいことあったの? いいこいいこしてあげるねぇ」
「……っ……うわーん」
「「「………」」」
「実優ちゃん、優しいのね」
「えへへ〜」
「「「………」」」
憐れ……捺。
「それじゃあ次は松原先生、どーぞ」
泣き続けてる捺を気にすることなく羽純が松原を促した。
「あ……ああ」
ルーレットが回って、出たのは3。
「きゃははは! くしゃみでぎっくり腰だってぇ!! ちりょうひ8000ドル〜」
捺の頭を撫でながらも、松原がすすむコマを見て実優が笑いだす。
「「「………」」」
実優……あんた、ほんとにヤバイと思う。
「はい、次、和くん」
「………」
無言で頷いて、完全に鬼と化した松原の次にルーレットを回したユタカが出した数字は6だった。
やっぱり支払いしなきゃいけない内容。
でもいまはもう借金がどうのこうのじゃなく次にゴールするのが誰か、で勝負は決まる。
「次、回すぞ」
早く決着をつけたいんだろう松原が、すぐにルーレットを回した。
ルーレットが止まって―――。
「あ」
「………」
「………」
「惜しかったですね、松原先生」
出た数字は7だった。
ゴールの一歩手前。
「………」
「………」
「……じゃ、俺……」
ユタカもまた決着をつけるべく動く。
そして。
「………」
「………」
「………」
出た数字は―――………5。
「5だけに5〜る、なんちゃってぇ〜! きゃははは〜!!」
酔っ払いが、叫んだ。

人生ゲーム結果。
1位実優。
2位羽純。
3位私、七香。
4位捺。
5位ユタカ。
6位松原―――。

「じゃあ、罰ゲームは捺くんと松原先生ね?」
「………」
「………」
「……どんまい」
「……頑張れ……よ……」
「べろちゅ〜! べろちゅ〜!!」
とりあえず、人生ゲームは終了した。