番外編 七香ツアーズin松原邸 8 

『煙草を吸ってくる』
松原はそう言ってベランダに行ってしまった。
リビングに残った私たちは妙な空気の中でジュースを飲んでる。
正直、よく考えてみれば私に罰ゲームの害はないわけだから気落ちする必要なんてない。
ユタカもゲーム中の殺伐とした感じはなくなって、リラックスしてるし。
酔っ払いは相変わらず一人ハイテンションで「べろちゅ〜」を連呼してる。
ちなみに松原についてベランダに出ようとしたけど、松原に一蹴されてた……。
そして上機嫌な羽純と―――悲壮感を漂わせソファーにうずくまっている捺。
………あー、なんか早く帰りたいー。
実優みたいにアルコールでも入ってたらこの状況も楽しめるんだろうけど、あの鬼の松原を見て単純に楽しめるはずないわ。
それに男同士のちゅーなんて見たくないしなー。
キモイだろ……。羽純は何が楽しんだか。
そんなことを考えてたら、カラリと静かにベランダの窓が開いた。
無表情の松原がリビングに戻ってくる。
「待たせたな」
低い声に、びくっと捺の身体が震えた。
「おい、向井。さっさと終わらせるぞ」
松原がすたすたと捺のもとに歩いていく。
「「………」」
とりあえず私とユタカは2人をガン見。
あー、なんだかドキドキしてきたぁ!!!
「ムービーの準備しなきゃ」
「………」
隣で羽純の弾んだ声とケータイを操作する音が聞こえてくる。
「べろちゅ〜べろちゅ〜」
酔っ払いがケラケラ笑ってて。
「向井、立て」
松原が捺に言った。
ごくり、思わず喉がなっちゃう。
捺は強張った表情でうつむいたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「「「「「………」」」」」
緊迫した空気!
うあーー!! ドキドキする!!
向かい合った松原と捺。
捺のほうが松原より数センチ背が低い。
松原が捺の肩に左手を置いて、右手で捺の顎をつかみ上げた。
涙目の捺と無表情の松原。
「「「「「………」」」」」
ピロリ〜ン♪って、すごい場違いな電子音がして羽純がムービーを撮りだした。
そして―――。
「いくぞ」
「―――っ」
ぎゅっと捺が目をつぶって、松原が顔を近づけて行って―――唇が触れ合った。
「………」
「……こ……これは」
「……ね? 七ちゃん、いいでしょ?」
思わずうなってしまった私に、ふふっと羽純が笑う。
「………ンっ……」
捺の変に色っぽい声が漏れて―――。
「「「………」」」
私と羽純とユタカは……とりあえずガン見!!!!
捺と松原のプライドのため、べろちゅー詳細はモザイク処理で省略!
「……松原先生って結構エグイのね」
ぼそりと呟いた羽純の一言がすべてを物語ってると思っていただきたい!
そして、結構長かった罰ゲームは、終わった。
最後まで無表情の松原と、ソファーに崩れ落ちた捺。
「「「………」」」
捺……ご愁傷さま!!!
心の中で捺に手を合わせてみた。
「これで罰ゲームはクリアだな、女王様」
無表情から一転、冷たーい笑みを浮かべた松原が低く言った。
その言葉に酔っ払い女王様が……。
「………」
「………」
「………」
「……あれ、実優ちゃん寝ちゃってる。ふふ、寝顔も可愛い」
「………」
実優。
あんた、目が覚めたら確実に地獄行きだと思いまふ☆
「じゃ、じゃー、そろそろカエロっか!」
さんざん騒いだあげくに罰ゲームも見ずに寝てしまってる実優を見た松原の表情に―――私はとりあえず退散しようと声を上ずらせながらも言った。
「……あ、ああ」
「そうね。松原先生もお忙しいだろうし」
「………」
というわけで、屍となってる捺を引きずって松原邸をお暇することになった。
「「「お邪魔しましたー」」」
ユタカと羽純と一緒に揃って頭を下げる。
「何のお構いもなくて悪かったな」
「いえいえ、楽しかったです〜」
「………」
羽純……あんたは最後まで大物だよ。
そうしてようやく私たちは松原邸を後にしたのだった。

………なんかすごい一日だったなー。
なんだかんだ松原と実優のらぶらぶを見れて楽しかったかも?
すっかり日が暮れてしまった帰り道。
なんだか急に彼氏に会いたくなってしまった。




☆おわり☆