番外編 七香ツアーズin松原邸 6 

「アレ、するよね?」
……アレ?
羽純の言葉に、勢いよく実優が私から離れて立ち上がった。
「うんっ! もちろんするよぉ〜!!」
へらへらと笑いながら実優ははいはーいと手を上げてる。
「あのねぇ、実優かんがえたんだけど〜、へっかくのゲームだし〜罰ゲームひよーって!」
……ちゃんと喋れ、ちゃんと!!
「罰ゲーム……?」
ユタカが怪訝そうに、捺も不思議そうに首を傾げてる。
うん、いまさらじゃない?
だけど酔っ払いは困惑する私たちのことなんか気にすることなく続けた。
「あのねぇ〜女王様げーむしよーっておもったのぉ!」
「「「「女王様……?」」」」
ハモった。
見事にハモった。
「そ〜!! おうさまゲームってあるでしょぉ? えっとねぇ実優がいちばんだったから女王様だから、だから女王様げーむなの〜」
……そのまんま!!
ていうか実優さん、酔っぱらったらそんなキャラになるんでしたっけ?と聞きたい!
「じょおうさまのめいれいは絶対なの〜!!!」
「「「「………」」」」
ていうか……絶対羽純の入れ知恵だろ!!!
「……あの、実優ちゃん楽しそうだけどさ」
「……それはまた別の機会にしねーか?」
捺が遠慮がちに口を開いて、ユタカも様子を窺うように言った。
「えぇぇ〜! なつくん、かずくん……いやなの……?」
酔ってるせいか潤んだ目をさらにウルウルさせながら実優が捺とユタカを交互に見つめる。
「「……イヤじゃないけど」」
顔を赤らめて流されてるんじゃねー! バカコンビ!!
「それじぁ、多数決しましょうか? 女王様ゲームしてもいいって人、手をあげて」
すかさず羽純が口出して、はいっ!!って実優が挙手。
実優の涙目に負けて手を上げたバカコンビ。
松原は上げずに眉間にしわ寄せてる。私もとりあえず不気味なゲームには参加したくないから手を上げなかった。
けど、多数決=女王様ゲーム決定なわけで。
「じゃあ〜はっぴょうしま〜す!」
テンションMAXの実優が叫んだ。
「……まだみんなゴールしてないけど?」
まだ男性陣が残ってる。
「べつにへーき。ね〜、はずみちゃーん」
「そうそう。先に命令がわかってたほうが最終決戦も盛り上がりそうだしね?」
やっぱりお前の入れ知恵だろ、羽純!
そして頷きながら酔っ払った女王様は満面の笑みで命令を下した。

「4位とビリのひとが〜ちゅーすることぉ!!」

シーンとした。
一瞬私何着だっけ!?って考えて、3位だったことに死ぬほど安堵した。
そしてふっと気づいた。
4位以下は男しか残ってないってことに。
「………」
恐る恐る視線を向ける。
ポカーンとしてる捺。
凍りついたように固まってるユタカ。
そしてそして……鬼の形相の松原。
「ちゅ、ちゅー?」
捺が口を噛みながらも訊いた。
「そー! ちゅー! あ! でもね〜ちゅーね、ただのちゅーじゃだめだよ〜。べろちゅーね」
「「「「………」」」」
べろちゅー。
べろちゅー……。
「ディープキスってことね」
女王様を操る悪魔が笑顔で言った。
シーンとする。
シーンとしてる。
「べろちゅーは、無理だろう、女王様」
松原が笑う。
笑ってるけど怖い。黒すぎる笑い。
「えええ〜? なんでぇ? せんせーだってべろちゅーすきでしょー!!???」
「………あ?」
ぴくりと頬を引きつらせた松原と、ムッとするバカコンビ。
だけど実優は淀んだ空気を気づくはずもなくって、いきなり松原に飛びかかった。
「……っな? ……ンン!!!」
ソファーに松原を押し倒し、その唇を奪う実優。
「「「「………」」」」
さすがの羽純もびっくりしてた。
キスだとかディープだとか、そんな色っぽいもんじゃない。
まるで格闘技。
実優を引き剥がそうとする松原。
そして華奢な身体のどこにそんな力があるのかってくらいに松原を押さえつけて唇を押し付けてる実優。
―――カシャッ。
小さなシャッター音がして、見ると羽純が写メをとってた。
「………」
いや、羽純……あんた、最強だね……。
ある意味尊敬するわ、なんてことを考えながらまた松原たちのほうへと視線を戻すと、ちょうど実優が松原から離れたところだった。
「ごちそーさまでしたぁ!」
ルンルンって感じで実優がケタケタ笑って。
松原は無言でたちあがると「トイレ」と小さすぎる声で呟いて、リビングを出て行った。
「「「………」」」
「じょうおうさまってたのしいね〜!」
「うふふ、実優ちゃんとっても女王様似合ってる」
「「「………」」」
―――松原がリビングに戻ってきたのは15分ほどたってからだった。
そしてゲームは再開された。