番外編 七香ツアーズin松原邸 5 

「い……い……やったぁー!!!!!」
人生ゲーム開始して3時間後。
私は絶叫した。
生きてきて今ほど感動した瞬間はないかもしれない。
「おめでとー! 七香ちゃん、長かったね〜」
「おめでとう、七ちゃん。意外に早かったね」
地獄の人生ゲームからようやく解放された私に、1時間以上前にクリアしてた実優と羽純がダイニングテーブルでお菓子を食べながら笑いかけてくる。
「………」
″意外に早かった″って、どういうことだよ、羽純!!!
1抜け実優、2番手羽純でクリアしてた2人はソファーにいる私たち(私と男性陣)を残してダイニングテーブルでお菓子食べながらお喋りに花を咲かせてた。
楽しそうな2人の笑い声が聞こえるたびにソファー組は沈黙が重くなりまくってって。
もー、発狂しそうな気がしてたんだよね。
あー! よかったぁ!!
さてと、私も実優たちと一緒にお菓子食べよう〜っと!!!
ウキウキとソファーから立ち上がった。
「――――ッ!!??」
だけど一歩踏み出す前に強く手を引っ張られて、ソファーに倒れ込んだ。
「な、なに!?」
びっくりして顔を上げる。
「………ひ……ヒィィィ……!?」
思わず、ソファークッションにしがみついた。
「……七香ぁ。まさか一人で抜け駆けなんてしねーよなぁ?」
私の腕を引っ張った捺は気持ち悪いくらいの笑顔で言ってくる。
「ああ、七香に限ってそれはねーだろ。なんせここまで苦労を分かち合ってきた仲間だからなぁ」
捺の言葉に同意するように凄味のある笑みを浮かべてるのは和。
「仲間……だよな、三谷? お前には金の管理をまかせるぞ?」
有無を言わせない口調で、口角を上げたのは松原で。
「………」
せっかくクリアしたのに……。
クリアしたのにぃぃ!!!!
男共の怨念のこもった睨みにこのゲームを見届けることになってしまった。
……ていうか!!!
羽純、実優!!!
あんたらもこっち戻ってこーい!!!
「次はオレかぁ」
天国から再び地獄へ落とされた私が呆然とする中で捺がルーレットを回した。
「……1かぁ〜」
うすら笑いを浮かべ捺がルーレットで止まった数字をガン見してる。
1マス先は……『年金の未払い発覚……20000ドル支払い』……。
「年金は払わなきゃいけないよなー!」
あははは、なんて乾いた笑いをこぼしてる捺……。
ふ、不憫だ!!
「な、捺!! 頑張れ!!」
思わず励ましてた。
「おー……」
「………」
い、痛々しいぞ、捺!!!
「次は俺か……」
ぼそりため息混じりに呟いたのは松原で、すぐにルーレットが回された。
「あ……」
「………」
「……オレオレ詐欺だって」
「ふっ、2000ドルなら安いものだ」
「2000ドルなんてショボイ詐欺すんなよなぁ」
捺が読み上げた項目に、松原が小さく笑って、ユタカが締めた。
………ドンマイ!!!
「み、みんな頑張ろう! ゴールまであと少しだしさ!!」
憐れすぎて、みんなにそう声をかけた。
そうやってなんだかんだ支払い地獄の中ゲームを続けていくことさらに30分後。
団結力を固めつつあった私たちのもとに――――悪魔が舞い降りた。








男三人が着実にゴールへの道を進んでいたとき、突然その笑い声は響きだした。
「きゃははははは!!!!」
「「「「………」」」」
ありえないくらいでっかい笑い声。
ていうかこの声……実優?
びっくりしながら実優たちのほうを見る。松原たちも視線を向けてた。
「きゃははは!! 羽純ちゃ〜ん」
「実優ちゃんったら、大丈夫?」
羽純に抱きついてる実優。そして実優の頭を撫でてる羽純。
「……どうしたの?」
実優の様子が変っていうか、やたらハイテンション。
訊いてみたら、ガバッと実優が羽純から離れて私の方に走りだしてきた。
「……え……ッ!!! ぎゃ!!」
突進されて思わず身体を引いたら、抱きつかれた。
途端に鼻にツーンと漂ってきたのは強烈な―――お酒の匂い。
「ななかちゃーん」
甘えるように言って頬ずりしてくる実優。
「え? ちょっと、もしかしてお酒飲んでる??」
「酒?」
松原が眉を寄せた。
「ごめんなさい。私がジュースと間違えてお酒飲ませちゃったみたい」
反省してますって感じでシュンとしたようすで羽純が言う。
私はちらりダイニングテーブルの上を見た。
「……みかん……」
ぼそり松原が呟いた。
空の瓶があって、ラベルにはみかんって書いてあるみたい。
でもその瓶のとなりにはもう一本あって……。
「………わざとだろ、絶対……」
今度はユタカが呟いた。
……うん。
私もわざとだと思う。
だって……もう一本はソーダ水だ。
あきらかにソーダで割って飲んでる。
「松原先生、ごめんなさい」
「………いや。……ところで全部飲んだのか?」
謝る羽純に、ため息混じりの松原。
「はい。実優ちゃん美味しいって一本全部飲んじゃいました」
「「「「………」」」」
どうりで出来上がってるわけだ……。
「実優、大丈夫?」
「ん〜? ななかちゃん〜? だいじょーぶだよ〜ん」
「………」
「おい、実優」
こりゃダメだな、って思ってたら松原がソファーから立ちあがりながら声をかけてくる。
「ん〜?」
「お前―――」
「実優ちゃん」
だけど松原が続けて言おうとした言葉を、羽純が遮った。
そして―――悪魔は小悪魔に命じた。