番外編 七香ツアーズin松原邸 4 

みんな一斉に羽純を見た。
「どうしたの?」
実優が訊くと、羽純はにっこり笑ってソファの傍に置いてたバッグをとった。
結構大きめのトートバッグを膝の上にのせながら羽純はみんなを見まわす。
「みんなでゲームしない? 先生も、よかったらぜひ。お仕事お忙しいと思うけど、せっかくだからちょっとだけでも」
ゲーム??
みんな不思議そうな顔してる。
私もなんだろうって羽純を見た。
「羽純ちゃん、wiiしかないんだけど、できるかな?」
「大丈夫だよ。ゲーム機いらないから」
実優の問いに笑顔で答えた羽純がトートバックからなにかを取り出した。
「これ、みんなでしよう!」
大きい箱をみんなに見せる羽純。
「………」
「………」
「………」
「……羽純」
「……人生ゲーム……?」
予想外のゲームに呆然と呟くと、実優もポカンとしたようにそのゲーム名を口にした。
そう、羽純が持って来たゲームは昔からある人生ゲームだった。
「そう、人生ゲーム! でもこれね、普通のとは違うの。現代のストレス社会にあった人生ゲーム・極辛版!!」
「「「「「………」」」」」
やたらと勢い込んでる羽純に、一瞬部屋の中がシーンとした。
だけどすぐに実優が笑顔を浮かべた。
「面白そうだね! 実は私人生ゲームってしたことないんだ〜」
「楽しいよ、実優ちゃん」
「……それわざわざ持って来たのか……」
戸惑いながら言ったのはユタカ。
そう、それだよ!
ゲーム持ってくるのはいいとして、わざわざデカイ人生ゲームを持ってくるなんて!
どうした羽純!? いつものあんたらしくないぞー!
そんな無駄な労力使ってまでその人生ゲームをしたかったの!?
「そうだよ。このメンバーで人生ゲームしたくて持って来ちゃった」
にっこりとまるで天使のように微笑む羽純。
羽純は結構美人タイプなんだけど、なんとなく……その微笑みに、悪寒がした。
「うふふ。誰が最下位に……人生の負け組になるのかなぁ〜。楽しみじゃない? リアルでは負けても、人生ゲームで下剋上もあるかもしれないし。幸せな結婚してゴールしたいよね」
ぐるり男性陣を見まわした羽純が言った言葉。
「「「「………」」」」
ユタカ、捺、松原と私はなんとなーく……意味深にもとれるその言葉と羽純の笑みに顔をひきつらせる。
「私は一抜け目指すよ! わー、楽しみ!!」
微妙なムードになってる中でひとり実優だけがやる気マンマンで叫んだ。
「「「「………」」」」
こうして、戦いの火ぶたは切って落とされたのだった……?







「わーい!! やったぁ!!」
ものすごく嬉しそうに叫んだのは実優。
「「「「………」」」」
「すごいわ、実優ちゃん。えっと……『恋人がお笑いデビュー』だって! 6000ドル、ゲットよ! 立て続けにすごいね」
実優の進んだコマを読み上げて喜びをわかちあってるのは羽純。
「うん、ほんとびっくり! いいのかな〜、お金がどんどん貯まってっちゃう! あ、それにしてもお笑いデビューって!!」
テンションが上がりきってる実優は満面の笑みで隣に座ってる松原を見る。
だけど松原はきっと気づいてるだろうけど、無視してる。
「先生〜! がんばってね!」
なにを、なのかあえて言わずに松原の肩を叩く実優。
松原のこめかみのあたりがピクッと痙攣するのが……見えた。
「「「「………」」」」
ルンルンの実優と、ずっと変わらず私にとっては不気味な微笑みを浮かべたままの羽純と、そして―――沈黙してる私たち……。
「じゃあ次は和くんだね! がんばってね!」
実優ににこっと笑いかけられて、ユタカは「ああ」って小さく頷いてルーレットを回した。
「「「「………」」」」
「2マスだね〜」
「えーっと、就職情報の……メール消しちゃったから1000ドル支払う」
実優と羽純がイチイチ読み上げてくれる。
「「「………」」」
「………わかった」
「あ、もう和くんはお金ないから借金だね」
このゲームを仕切ってる羽純が申し訳なさそうに言った。
「「「「………」」」」
「大丈夫? 和くん」
実優が心配そうに目をぱちぱちさせてる。
「え、あ、ああ……へーき……」
一瞬笑顔を浮かべるけどユタカの表情はすぐに曇る。
………ユタカよ。
今日だけは同志と呼ぼう!!
今日だけはアンタのことを慰めてあげたい!!
たぶん私だけでなく、捺や松原だって同じ気持ちだと思う。
だって実優と羽純以外はみーんな眉間にしわをよせて人生ゲームのボードを眺めているから……。
「さ、次は七香ちゃん」
羽純の声にびくりと肩を震わせて、私はルーレットを回した。
あー!!!!!
神様仏様〜!!!
ギューっと目をつぶって祈ってみる。
そして少しして実優が「6だよ!」って言った。
バッとボードに視線を向けて、今の位置から6マス目先を見てみる。
「………な……なんでぇ!???」
思わず叫んだ。
「「「………」」」
ユタカと捺と松原がものすごく気の毒そうに私を見た。
「七香ちゃん、3000ドルの支払いだって。あ、でも七香ちゃんも手持ちないから借金だね♪」
「………」
そう、悪魔のような笑顔を浮かべてる羽純が言った通り……私はもう手持ちがない。
ううん、私だけじゃない……。
さっきのユタカはもちろん捺も松原も。
実優と羽純以外、ゲーム始まっていままで支払いしかしてないのだ。
まるでなにかの呪いでもかかってるかのように、私と男性陣はひたすらに支払い続ける地獄のループの中にいた。
………っていうか!!!
羽純なんか細工してんじゃないのー!!!???
「ああ、先生! 残念ー!! 2000ドルの支払いだって!」
私が必死でルーレットを凝視していると―――私の次の番だった松原へと告げられる実優ののんきな声が聞こえてきたのだった。
「「「「………」」」」
絶対……羽純の呪いだ!!!!