secret 146 最終章/Eternally  

てっきり先生のマンションについたとばかり思ってたから、私はぽかんとして立ち尽くしてた。
「ほら、行くぞ」
先生がそばにきて、私の手を握る。
ようやく我に返って先生を見上げた。
さっきのスーツ姿の男性はカメリアの従業員らしく私と先生の荷物を持つと先導するように歩きだした。
「あの、先生? ここって」
「前、来ただろ」
「それは覚えてるけど」
「今日はここに泊まる」
「ええ? 聞いてない!」
「言ってない」
そんなやり取りをしながらエントランスについて、さっきの従業員さんがドアを開けてくれた。
3カ月ぶりに訪れたカメリアはこの前と同じで静かさに包まれてる。
「まぁお久しぶり」
ものすごく嬉々とした声が響いて、歓迎してくれたのは椿さんだった。
綺麗で華やかな椿さんは私と先生のもとにくると優雅にお辞儀をする。
「ようこそ、オーベルジュ・カメリアへ」
洗練されたっていうのはこういう身のこなしを言うんだろうなって、椿さんを見てしみじみ思う。
「今日はお世話になります」
先生が椿さんにそう言って、私も慌てて会釈した。
「いえいえ、こちらこそ、カメリアにお越しいだたけて光栄だわ。それに―――」
口元に手を当てて椿さんは笑みを浮かべながら、私と先生の……繋いだ手を見た。
「ようやく禁断の恋も実ったみたいでよかったわ!」
椿さんはとっても楽しそうに目を輝かせてる。
「………」
「……椿さん、僕はもう教師をやめたので禁断ではないと思います」
先生が苦笑しながら余所行きモードで返事をした。
「そうだったわねぇ。残念だわー! 学校で密かな逢引……とか、すごく惹かれるシチュエーションなのに!」
「………」
「………」
「でも、ほんとうによかったわ。ずっと気になってたの。晄人くんが気にかける女の子なんて初めてだからうまくいけばいいなぁって智紀と話してたのよ」
にっこり笑う椿さんの言葉に、胸がドキドキした。
先生が気にかける女の子って……私がはじめてなんだ?、なんて些細なことだろうけど嬉しい。
「……椿さん」
だけど先生は余所行きモードのままだけど、ちょっとだけ浮かべた笑顔が黒い。
「なにかしら?」
「僕、この前来たときに智紀には内緒にとお願いしたはずなんですが?」
「あら、そうだったかしら? 歳のせいかしら、喋っちゃったわ」
「………」
「………」
悪びれもなく言う椿さんに、さすがの先生も脱力しちゃったみたいで、ただ乾いた笑みを浮かべてた。
「お話したいことはたくさんあるけれど、2人の邪魔をしてはいけないわね。お部屋でゆっくりしてくださいませ。チェックインはこちらでしておきますので、どうぞ」
椿さんは笑顔のまま私たちを促すようにらせん階段へと手を差し向けた。
それから案内されて部屋についた。
そこはお正月に少しだけ借りた部屋だった。
「ごゆっくりお過ごしください」
その声を最後にドアが閉まって、先生と2人きりになる。
先生はネクタイを緩めながらソファーに腰を下ろした。
私もその隣に座る。
「先生」
「なんだ」
「どうして今日ここに来たの? 教えてもらってなかったから着替えとか持ってきてないよ?」
「俺が持ってきてる」
「………」
「どうしてかっていうのは―――」
ちらり先生が私を見る。
ちょっと色っぽい流し目に、ドキドキしてしまう。
「とりあえず、付き合った記念に?」
「……へー。先生って意外にロマンチストなんだ」
思ったことそのまま言ったら、どうやら先生はお気に召さなかったみたいで軽くにらまれた。
「あー、それにしても疲れた」
大きく伸びをして先生がソファーの肘掛に脚を放り出して―――私の膝の上に寝転がった。
「せ、先生っ!?」
「なんだよ」
「膝っ」
「膝枕くらいどうってことないだろ。それより少し労われ、ずっと運転して疲れた」
「お疲れ様です」
「感情がこもってないぞ」
「……えっと今何時くらい?」
「4時過ぎ」
「ええ?」
だって空港出たのが12時くらいだったはずだから、4時間くらいドライブしてたってことになる。
じゃあ私3時間くらい寝てたんだよね。
「お前爆睡しまくってるし」
「……う。だって」
「まぁ別にいいけど。つーか、お前さ、わかってるか?」
「へ?」
きょとんとすると、先生は深いため息をついた。
「一週間ぶりに会ったんだぞ?」
「……あ」
そうだ。ゆーにーちゃんのお見送りのことで頭がいっぱいで、先生と一週間ぶりってことを忘れてた。
そう言われると、なんだか先生と一緒にいれる嬉しさが増してくる。
「……久しぶりーです」
へらっと笑うと、先生はまたため息をついて、目を閉じた。
「ほら、キスしろ」
「………はぁ?」
「はぁ?、じゃないだろ。運転お疲れ様と久しぶりにあえて実優嬉しいっていう気持ちを実行に移せって言ってるだけだろ」
「……実優嬉しいって……」
「ふーん、嬉しくないってか?」
「そ、そんなこと」
「ふーん」
「…………っ、もうっ!!」
しかたなく私の膝の上にあおむけ寝てる先生にキスを落とした。
触れるだけのキス。だけどすぐに先生の手が後頭部に触れて、逃げられないようにされて、キスが深くなる。
一旦舌が絡まったら、熱にあっというまに頭の中が蕩けて、一週間分のキスを交わした。