secret 144  最終章/Eternally  

一日が過ぎるのはなんて早いんだろう。
大切にしたいときこそあっという間に日々は過ぎて行ってしまう。
最後の別れってわけじゃないけど。
でもまた離れ離れでの生活がはじまってしまう、ゆーにーちゃんとの毎日はほんとうにあっという間で。
覚悟してたつもりでも、寂しくってしかたない。
『明日だな』
繋がった携帯電話。
いつもより優しい声の先生。
「うん」
『8時には迎えいくから』
「うん」
明日11時の便で、ゆーにーちゃんは行ってしまう。
『実優』
「……ん」
『ニューヨークなんていつだって連れてってやる』
この一週間で何回か言われた言葉。
俺様なはずなのに、なんだかんだ甘い先生に笑みがこぼれてしまう。
「うん。―――大丈夫だよ」
先生と喋ってたら心が落ち着いた。
それから少し他愛のない話をして、電話を切った。
『おやすみ』
先生の言葉を聞いたのは午後11時半。
あと30分もすれば私は17歳になる。
先生には明日誕生日ってことはまだ言ってない。
だってこの日誕生日なんだよ、なんてプレゼント催促してるみたいでなんとなく言えなかった。
でも『おめでとう』は言ってもらいたいから……明日の今頃教えようかな?
「―――実優?」
ドアがノックされてゆーにーちゃんの声がする。
「はーい」
返事をしながら、ドアを開けて廊下に出た。
「コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「んーと、紅茶! 今日はストレートでのもうかな? いまから甘いもの食べるし」
「了解」
喋りながらリビングに行く。
明日は朝早いから、いまからゆーにーちゃんとちょっと早いけど私の誕生日パーティ。
といってもケーキを食べるだけだけど。
夜中にケーキなんて太りそうだけど、今夜だけは特別。
リビングに入って、ゆーにーちゃんと一緒にお茶の準備と、そしてケーキを用意した。
ケーキは4号サイズのホールケーキ。たくさんのフルーツが彩りよく乗せられてる。
そしてチョコプレートに『HAPPY BIRTHDAY TO MIYU 17』の文字。
長いロウソクを一本と、短めのを7本立てる。
「早く食べたい!」
美味しそうなケーキにウキウキしてしまう。
「まだあと10分あるよ」
ゆーにーちゃんがクスクス笑って、私も照れ笑い。
本当なら今年の誕生日は一人きりのはずだった。
でもこうしてまたゆーにーちゃんと過ごせて、すごく幸せ。
来年と再来年はたぶん一緒には過ごせないけど―――でも、きっと幸せだと思う。
ゆーにーちゃんが私の誕生日を喜んでくれるだけで、それだけで私も嬉しいから。
「あと5分だよ」
「あと3分」
いろんなことを話しながら1分1分を過ごして。
そして0時になって―――。
「誕生日おめでとう、実優」
誕生日を迎えたと同時に、ゆーにーちゃんがお祝いしてくれた。
「ありがとう」
そしてロウソクに火を灯して。リビングの電気を消す。
暗い部屋の中にゆらゆら灯りが揺らめいてるのが綺麗で、消すのがもったいなく感じちゃう。
「火、消して」
ゆーにーちゃんに促されて、深呼吸する。
そして、ふーっと合計8本のロウソクを吹き消した。
カチっと部屋の電気がついて、またゆーにーちゃんが優しく微笑んでくれる。
「17歳だね。おめでとう」
言葉と一緒に差し出されたのは日曜日に買ってもらったラッピングされたクマのぬいぐるみ。
「ありがとう! やっぱり可愛い」
すぐにラッピングを解いて、クマを取り出す。
肌触りのいいぬいぐるみに頬ずりした。
「それじゃケーキ食べようか」
「うん!」
私はフォークを持って、切り分けてないケーキに突き刺した。
そのままケーキを取って食べる。
「美味しい!!」
ゆーにーちゃんと2人で誕生日を祝うようになる前から、誕生日ケーキの食べ方はかわってない。
昔から私の誕生日は私が好きなようにケーキを食べていいことになってて。
それでホールごと好きなだけ食べてた。
ゆーにーちゃんと両側から食べる。
ちょっと汚い食べ方かもしれないけど、ホールごと食べれるのが小さいころから大好き。
美味しくってつい顔が緩んじゃう。
12センチの小さいケーキは2人でちょうどよくって、あっという間に食べてしまった。
でもたぶん私の方が多く食べちゃってたけど。
ケーキを食べて大満足なため息がでちゃう。
「実優」
ほんとはもうちょっとケーキ食べたかったな、なんて食い意地張ったことを考えてたらゆーにーちゃんが目を細めて私を見つめてた。
「なに?」
「今年も実優の誕生日をそばで祝えてよかった」
真っ直ぐに向けられる眼差。
「……うん。私もゆーにーちゃんと一緒にケーキ食べれて嬉しいよ」
ふっとゆーにーちゃんが微笑んで、私も微笑み返す。
「でも、早いな。もう17歳か」
「そうだよ。来年は18歳。大人って感じしない?」
私が言うと、ゆーにーちゃんはおかしそうに笑う。
「ほんとだ。あっという間に大人になっちゃうんだろうね」
だけどしみじみとした声に、胸の奥がぎゅっと切なくなった。
「俺も先生も、姉さんも義兄さんも……実優のことちゃんと見守ってるから」
「……ん」
「幸せな17歳を過ごすんだよ」
ゆーにーちゃんの手が伸びて、そっと私の頭を撫でる。
優しいその感触が、いつだって好きで、心が暖かくなる。
「……うん。ありがとう、ゆーにーちゃん」
目頭が熱くなるのを感じながら、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。











そして、アラームが鳴る。
午前6時。
ケーキを食べた後、いろんな話をして夜2時くらいに寝た。
睡眠時間が少なかったわりに、すっきりとした目覚め。
今朝はゆーにーちゃんのために美味しい和食の朝ごはんを作ろうって決めてた。
大きく伸びをして、着替えてキッチンに行く。
朝ごはんの準備をしていたら、
「おはよう」
って、ゆーにーちゃんの声。
「おはよう!」
笑顔で返して。
卵焼きを作って、魚を焼いて、お味噌汁を作って。
サラダも作って、炊きたてのご飯をついで。
ダイニングテーブルに綺麗に並べた。
「―――美味しそうだね」
「でしょ?」
今日は腕によりをかけたもん、って笑った。
「「いただきます」」
手を合わせて、朝食をとった。
「美味しいよ」
「よかった」
そうして、いつも通りの朝を過ごした。
まるで明日からもずっと続くみたいに、いつもみたいに。
でも―――。
約束通り8時に、私の携帯が鳴った。
『着いたぞ』
聞こえてきたのは先生の声。
「いまから降りるね」
そう伝えて。
「行ってきます」
ゆーにーちゃんがキャリーケースを持って、名残惜しむかのようにリビングで呟いて。
私たちはマンションを出て行った。