secret 143  最終章/Eternally  

火曜日、お昼にみんなで集合した。
お花見以来に会う七香ちゃんや和くんたち。
「みんな、ひさしぶり!」
私が笑顔で言うと、みんなは一瞬キョトンとしてから笑顔を返してくれた。
「やっほー、実優! なんか数日の間ですんごく色艶よくなっちゃって」
七香ちゃんがニヤニヤしながら私の右隣に並ぶ。
「ほんとだ、すっごい幸せそうだなぁ」
左隣に来て笑うのは捺くん。
「そうね、幸せ満点って感じね」
羽純ちゃんまでもからかうように笑って。
お花見の日、すっごく落ち込んでたのに今日はたぶん晴れ晴れしすぎちゃってるだろう私に次々に冷やかしの声がかかってくる。
恥ずかしくて照れてると和くんと目が合う。
和くんなら助けてくれるかも!
そう思ったのに、「詳しく聞かせろよ」なんて、言われちゃう。
「今日はカラオケにしよ! 誰かさんも良い報告あるみたいだし? パーっと騒ごう!」
一応七香ちゃんには今日報告したいことがあるって伝えてた。
みんな頷いて、カラオケへと向かった。









ドリンクバーでそれぞれ好きなジュースをついで、軽食を頼んで。
カラオケなのに誰も曲を入れずにみんなが私を見てる。
「で?」
「え?」
隣に座った七香ちゃんが、ずーっとニヤニヤしてて私の顔を覗き込む。
「ご報告さっそく聞かせてくれるよね?」
七香ちゃんと羽純ちゃんにはいままで悩んできた恋の話は相談してない。
でもずっと私が悩んでたってわかってそっとしててくれて。
お花見のときだってなにも聞かずに、いつもどおり楽しく遊んでくれた。
だから、今日はちゃんと良い報告を、ほんとのことを七香ちゃんたちにも言おうと思って来た。
「えと、ね」
みんながそれぞれジュースを飲んだりしながら見守ってくれる。
なんだかすっごく恥ずかしいけど、勇気を振り絞る。
「あの、私……付き合ってた人がいたんだけど……。別に好きな人ができちゃって……」
胸が痛む。
まだほんの数日前決着がついたばかり。
それに、この痛みはきっとずっとなくならないと思う。
「ずっと……付き合ってた人のことだけ好きでいようと……してたんだけど。どうしても、その……うまくいかなくなって。話あって……別れたの」
言いながら、自分のことだけど、なんてひどい女なんだろうって思ってしまう。
「そ、れで……その好きな人に告白しようとして告白されて告白して。えと、その付き合うことになったんだ」
結局は私が心変わりしてしまったということ。
七香ちゃんと羽純ちゃんは、こんな私を受け入れてくれるのかな。
「幸せ?」
緊張にドキドキしてると、羽純ちゃんが訊いてきた。
「うん。私のせいで……傷つけちゃった人はいるけど……。でも、幸せ」
ゆーにーちゃんだけでなく、和くんや捺くんだって私が振ってしまったしきっと傷つけた。
だけど、どうしようもなく今幸せ。
仕事で疲れてるはずなのに毎日電話をくれる先生。
たまにメールをくれたりもする。
そんな些細なことが幸せでしょうがない。
「そっか。よかったね、実優ちゃん。私は実優ちゃんの友達だから、実優ちゃんが幸せならそれでいいよ」
にこっと羽純ちゃんが微笑んでくれた。
「うん、おめでとう、実優! 恋ってさ難しいよね! でもなんだかんだ複雑でも、自分の気持ちに素直になるのが一番だと思う! だからさ、ほんとよかったね!」
七香ちゃんも元気に、まるで自分のことのように喜んでくれて。
じわっと涙が浮かんでしまう。
「よかったな」
「がんばったね」
和くんと捺くんもそう言ってくれて、笑顔と一緒に涙がこぼれてしまった。
「ね! 新しい彼氏ってどんなひと?」
それから七香ちゃんが興味津津って感じで訊いてきて。
和くんと捺くんは知ってるし、先生はもう″先生″じゃなくなったから、ちょっと緊張しながらも教えた。
「あのね、2年の受け持ちだった松原先生って知ってるかな? もう学校はやめちゃったんだけど」
そう言うと七香ちゃんは大きく目を見開いて―――絶叫した。
「ま、ま、ま、松原ー!!!??」
あまりの驚き方に、私までびっくりしちゃう。
「松原って、あの冷血無表情鬼の古文教師松原!?」
「………う、うん」
「ええええ!!!!」
「七香、うるさい」
和くんが突っ込むけど、どうやらパニックになっちゃったらしい七香ちゃんは「松原!?」ってブツブツ繰り返してる。
どうやって知り合ったの?、なんて聞かれたけど、さすがにそこは誤魔化して。
「ね! 松原ってさ、普段はどんな感じなの? ふつーのときも無表情? 松原も笑ったりするの?」
「あーいう男の方がさ、意外とムッツリっぽいよなー。ああ、オレの可愛い実優ちゃんが」
「でも松原先生って、大人って感じだし包容力ありそうだよね」
「ただのオッサンじゃないのー?」
「オッサンだから、松原なりにいいところあるんじゃねーのか?」
「あれ? でもさなんか結婚するとか噂なかったっけー?」
「あー、あれ松原の兄貴とかだろ、ほんとは」
「えー、そうなんだー。なんだざんねーん。結婚すんなら、オレが〜……」
「でもほんっと想像できないなー、あの無表情鉄仮面がどんな顔して実優に接してんのか気になる〜」
「だからムッツリだって、きっと!」
「いやムッツリは捺、あんたでしょ」
「あはは」
「あははって、羽純ちゃんヒデーよ」
「確かに」
「おい、和! いや、オレより絶対松原の方がー!」
「………」
……私が喋る隙が全然ない。
先生のために挽回できるようなことを言ってあげたいって思うけど、ムッツリかぁ……って思うと、なにも言えなくなる。
それにしてもオッサンなんて言われてると知ったら絶対先生怒りそうだな。
七香ちゃんたちが楽しそうに先生について言いあってるのを眺めてたら、携帯が振動しだした。
メール受信で、それも噂の先生から。
開いてみると―――。
『楽しんでるか? 俺はいま休憩中。猿どもには気をつけろよ』
今日はみんなと遊ぶってことを伝えてた。
ちなみに猿どもっていうのは、たぶん和くんと捺くん。
2人が私のことを好きだったってことを先生は知ってたから、今日ちょっとだけ気にしてたみたい。
まぁヤキモチってほどのものではなさそうだったけど。
「へー、やっぱラブラブなんだ!」
「優しいね、松原先生」
「猿どもって、誰のことだよ!」
「お前だろ」
「はぁ? ども、だから和だって入ってるだろ!」
「………」
いつのまにかみんなが私のまわりに集まって携帯を覗きこんでた。
慌てて携帯を閉じるけど、みんなニヤニヤして私を見てる。とくに七香ちゃんと捺くん。
「……こ、今度、紹介するね?」
私がいろいろ説明するより会わせたほうが早いかな、なんて思ってそう言った。
とたんにまた騒ぎはじめるみんな。
「―――やっぱりムッツリだと思うなぁ」
「………」
やたらそこにこだわる捺くん。
「今度古文教えてもらおうかなー。あーでも無表情冷血怖そうだなー」
ぶつぶつ言ってる七香ちゃん。
羽純ちゃんと和くんはそれぞれ軽食を食べたりジュースを飲んだり選曲したり。
私もとりあえず―――先生に
『すっごく楽しいよ! みんな先生のこと興味あるみたい』
って、返信した。
それから少ししてまたメールが届いて。
『俺は興味ない』
なんて先生からで。
「………」
私はそっと溜息をついて、なんか歌おうと歌本を手に取ったのだった。