secret 139  kiss & kiss  

はぁ、と気持ちよさにため息が出ちゃう。
乳白色のお湯の中で体操座りをして、膝の上に頬をのっけて目を閉じる。
「………」
疲れた身体をお風呂に入って少しでも癒そうとくつろぐ私―――なんだけど、うなじにある違和感にさっきとは違うため息をついた。
「………先生! やめてください!」
身体を丸めて入ってる私の両脇には先生のなが〜い脚が投げ出されてて、背中には密着するように先生の胸板がある。
そしてさっきからずっとうなじやら肩にキスしたり、触ってきたりしてる先生。
「もう!! お風呂ではなにもしないっていったでしょ!?」
むりやりお風呂に一緒に入らされたけど、変なことはしないように、って釘を刺しておいた。
だってお風呂ぐらいはゆっくり入りたいから。
もちろん先生が素直に大人しくしてるはずもなくって、身体洗う時も、いまも、ちょっかい出しまくってきてるけど。
「なにもしてないだろ」
振り向いて抗議すると、けろっとした表情で先生は言う。
「いま、してたでしょ!?」
「さあ?」
「先生!」
「たまたまあたっただけだろ。風呂狭いんだから、しょうがないだろ」
「なんかまるで痴漢の言い訳みたい」
「この俺を痴漢呼ばわりか?」
「事実じゃないですか」
「そもそも″なにもしない″なんて約束してないし」
「………」
もー! 自分勝手すぎ!!
ムカついて、お風呂からあがるまでは先生と口を聞かないことにすることにした。
前を向きなおして先生は無視。
「………」
「おーい、実優ちゃん?」
ぎゅっと抱きしめられるけど、我慢して無視。
「………」
「なあ、お前さ。なんで今日来たんだ?」
「…………は?」
全部スルーするつもりだったのに、突然先生の声が真剣な感じになった。
「なんでって?」
まるで来ない方がよかった、みたいな言い方に戸惑ってしまう。
いまこうして一緒にいるのに、いまだって抱きしめてきてるくせに、なんでそんなこと言うんだろう。
「………私が来たら迷惑だったんですか?」
一気にテンションが下がって、声のトーンもどうしようもないくらい落ちてしまってる。
「いや。ただまさかお前から来るとは思わなかったからさ」
……確かに。
私だって自分から会いに来るなんて思わなかった。
「………ゆーにーちゃんにちゃんと先生に向き合うように言われたんです。……あと……友達が、すごく心配してくれて……」
そう。あのお花見に行かなかったら、ゆーにーちゃんと話すこともずっとできないままだったかもしれない。
「そっか……」
なんとなく違和感を覚えて先生を見る。
「なに」
「先生こそ、なに?って感じなんだけど……。今日なにかありました?」
今日っていう日にこだわってる気がして、先生の顔を覗きこむ。
だけど先生はいつも通り涼しい顔をしたままで、ふっと笑った。
「別に、今日はなにもない」
「今日は?」
「明日はあった」
「はぁ?」
よく意味がわからない。
明日は明日なんだから、別に今日私が来たってかまわないような?
「明日、俺がお前に会いにいく予定だった」
「…………え?」
明日、私に会いにくる予定?
「………なんで?」
「………お前に告白しにに決まってるだろう」
「………え? えええ!?? ほ、ほんとうに!?」
予想なんてできもしない、意外すぎる先生の言葉にただ呆然としてしまう。
先生は苦笑しながら私の腰に手をまわしてぐっと浮かせると、対面するように私を先生にまたがらせるように座り直させた。
「本当だよ。ずっと忙しくて行けなかったけど、ようやく時間取れそうだったから明日行くつもりだった。今日も本当はずっと仕事のはずだったけどたまたま休みになってな」
「………」
「マンション帰ってきて、ちょっと買いたいものあったからドラッグストアに来た帰りにお前に遭遇したってわけ。まさかいるとは思わなかったから驚いたってもんじゃなかったな」
そ……そうだったんだ。
ちゃんと先生も私のこと考えてくれてたんだ。
「なんだよ、ニヤニヤして」
不意に先生が私の頬をかるくつねる。
「に、ニヤニヤなんてしてないもん! 先生の方がニヤニヤしてるしっ」
「素直じゃないねぇ、実優は。嬉しいって言えばご褒美も上げるのになぁ」
「べ、別に私はっ。……ていうか先生のご褒美って、ありがたみなさそう……」
「………お前、ほんといい度胸してるな」
「ごめんなさい?」
「ったく……」
先生はため息をつきながら私の頬を両手で包みこむようにして、自分の方へ近づけさせた。
「まぁ、俺の明日の計画は白紙になったけど……。お前の方から会いにきてくれて、俺は嬉しかったけどな?」
「………」
たぶん、顔が真っ赤になってるはず。
先生は赤い私の顔に、顔を近づけて唇をふれさせた。もちろん、唇に。
甘いキスに、頭がくらくらしてしまう。
のぼせちゃうくらいにキスを交わして、先生の手が不埒に動きだしちゃうんだけど。
もう拒否なんてできなくって、お湯が激しく揺れちゃうのもかまわずに、先生と甘い熱に溺れた。









本当にのぼせそうなくらいお風呂で愛しあって。
お風呂から上がったあとも何回も抱き合った。
途中途中いろんな話をしながら。
新しい仕事の話とか。親友の智紀さんのこととか。お姉さんやお兄さんのこととか。
いろんなことを訊いて、先生は全部に答えてくれた。
智紀さんやお姉さんたちにも今度会わせると言ってくれて。
それがとっても嬉しかった。
明け方までまどろみながら話して、触れ合って。
最後は疲れ果てて先生と、抱き合ったまま泥のように眠ってしまった。
そして―――次の日。
「………せ、先生っ!!!」
目が覚めたのは昼の3時とかありえない時間。
先生もとなりで爆睡してて、何度か揺すってようやく目を覚ました。
「………なんだよ」
眠そうに先生がぎゅっと私を抱きしめて目をつむる。
「もう3時!」
「あっそ」
「あっそって! 起きないんですか?」
「……あと5分」
そう言って、すぐに寝息をたてはじめる先生。
もう3時なのに。もうすぐ夕方なんだけど。
なんて思いながらも、穏やかな先生の寝顔を見てたら起こせなかった。
結局最終的に起きたのは1時間後。
その間飽きずに先生の寝顔を見ていた私は、先生から『痴漢』だの『視姦するな』だの言われて、罰としてまた身体を開かれて……。
本当に……、先生の性欲っていったいどうなってるんだろう?
そんなことをしみじみ思ってしまった。
それから遅すぎる朝食兼昼食兼、もう時間的には夕食を外に食べに行って。
そして午後7時―――。
どうしてか、
「どうも」
「こんばんわ」
と、挨拶を交わしてる2人が私の前にいた。
それは……先生とゆーにーちゃんで。
にこやかに話してる2人に、私はただ呆気に取られることしかできなかった。