secret 138  kiss & kiss  

「先生!」
強く呼ぶと、先生はうるさそうにため息をつく。
「なんだ」
「ゆーにーちゃんと会ったんですか? いつ?」
「一昨日」
ベッドサイドにある煙草をとって、一本口にくわえながらなんでもないことのように言う先生。
「な、なんで?」
だけどなんで先生とゆーにーちゃんが会ったのかわかんない。
偶然?……じゃないよね……。
「話があったから会っただけだろ」
「話って?」
問い続ける私に、先生は煙草の煙を吐き出しながら口角を上げる。
「秘密だ」
「ひみ……つって!」
「男同士の話だ」
短い言葉は、もうそれ以上言うことはないって感じで、私は口をつぐんだ。
ふたりが会ったのは、たぶん私のこと以外にはないんだろうけど……。
好奇心とかじゃなくって、気になる。
まだ私はゆーにーちゃんにはっきり自分の気持ちを伝える前のことだし。
先生だって私とは縁が切れてた状態なのに……。
「おい」
またため息が響いて、先生の大きな手が頬に触れてきた。
「なに難しい顔してるんだ」
「………」
「実優」
自然と俯いてしまってた私の顎を上向きにして、先生が目線を合わせてくる。
「気にするなっていっても無理だろうな。まぁ……お前の″ゆーにーちゃん″がどういう人かを考えればわかるだろ」
「………ゆーにーちゃん……私のことなんて……?」
ゆーにーちゃんは私のために……先生に会いに行ったんだろうか。
だとしたら、優しすぎるよ。
目頭が熱くなって目線を下げると、小さく笑う声がした。
「んー? 意外に大食いだとか? いびきがうるさいとか?」
「………」
ニヤニヤとからかうような顔をしてる先生。
「……ゆーにーちゃんがそんなこというはずないもん!! ていうかいびきなんかかかないし!!」
ムッとして先生をにらみつけるけど、先生は気にする様子もなく煙草を口にくわえたままベッドから下りた。
「はいはい。風呂入れてくる。その間に佐枝さんに電話しておけよ」
「え、ちょっ! 先生!?」
ひらひらと先生は手を振って寝室から出て行ってしまった。
閉じたドアを眺めて、ため息をつく。
でも確かに早くゆーにーちゃんに連絡は入れておきたかったから、床に散らばってる服を着てリビングに行って電話をかけた。






コール音3回目で電話は繋がった。
『もしもし』
いつもとかわらない優しいゆーにーちゃんの声。
だけどまわりは騒がしくって、もう飲み会にいってるんだってことがわかった。
本当に飲み会なんだって、ちょっとホッとしてしまう。
「ゆーにーちゃん? いま大丈夫?」
『ああ、大丈夫だよ』
「……あの、ね」
先生とうまくいったって伝えなければいけない。
私の背中を押してくれたのは、ゆーにーちゃんなんだから。
だけど、なかなか言えない。
まだ、ゆーにーちゃんが……私のことを……想ってることを知ってるから。
「あのね……。先生にちゃんと告白したよ。……それで、あの……先生も……」
歯切れ悪く言うことしかできない私の耳にクスッと笑うゆーにーちゃんの声が響いてきた。
『実優、おめでとう。先生とうまくいってよかったね』
「………ありがと……、ゆーにーちゃん」
それだけで、泣いてしまいそうになる。
『仲良くするんだよ』
「うん」
『俺は実優が幸せなら、幸せだから』
「……うん…っ」
『今日は先生とゆっくり話しなさい』
「…………」
『実優?』
せっかくゆーにーちゃんの言葉に感動してたのに、その次の言葉で、先生が話なんてするわけない!
ただのエロエロ魔神なんだから!
なんて、思っちゃったんだけど、それを言うことなんてできるはずない。
慌てて、
「あ、うん。あの、いままでのこととかいろいろ話して、あの、うん、がんばります」
って、意味不明なことを言っちゃた……。
ゆーにーちゃんの笑い声が聞こえてきて、なんだか恥ずかしい。
『がんばって。―――じゃあ、実優。また明日』
「うん。……あ! あの!」
『なに?』
どうしようかなって思ったけど、どうしても気になったから直球で訊いてみる。
「あの、先生と……会ったんだよね? なに話したの?」
ドキドキしながら返事を待つ。
『ああ、会ったよ。話した内容はね―――……』
「………」
『秘密』
「………え?」
『ああ、ごめん。実優、ちょっと上司に呼ばれてるから切るね。先生と仲良くだよ?』
「へ? あ、仲良くします。あの、ゆーにーちゃん、飲み過ぎないようにね?」
『了解。じゃあね』
「うん。ばいばい」
あっさりと電話は切れて、私はちょっと呆気に取られた状態で携帯電話を見つめた。
ゆーにーちゃんまで『秘密』なんて言うとは思わなかったな。
すごく気になるけど……男同士の話って言ってたし……、がんばって気にしないことにしようかな。
それに、いま大事なのは―――先生と一緒にいれるっていうことだから。
「………うん。そうしよう!」
「なにが?」
自分に言い聞かせるように叫んだら、そう返されて。
もちろんそれは先生以外にはいないんだけど、びっくりして身体を震わせてたら、いきなり身体が宙に浮いた。
「つーか、お前。なんで服着てるんだ」
「え、だって。って! 先生、おろして!」
先生は私を寝室に連れてったときのように担ぎあげて歩き出す。
「ジタバタするな。落ちるだろうが」
呆れたように言いながら先生が向かった先はバスルーム。
「風呂入るぞー。身体べたべただからな」
なんか″先生″みたいな口調で先生は言って。
脱衣所であっという間に私から洋服をはぎとるように脱がせられて、あっという間にお風呂に連れ込まれてた。