secret 140  kiss & kiss  

先生が私を送るって言い出したのはデザートを食べてるときだった。
パフェを味わってた私は正直ちょっと寂しくなってしまった。
もう6時過ぎてるし、ゆーにーちゃんだって待ってるかもしれないし。
先生とは丸一日一緒にいて心も身体も満たされてる。
でも……やっぱり寂しい。
「実優?」
パフェを食べるペースが落ちちゃって、それに気づいた先生が片眉を上げて私を
見つめる。
「どうかしたか?」
「………別に…なんでも」
寂しい、なんて言うのが恥ずかしくって。
慌ててパフェをたくさん口に入れる。
先生はしばらくじっと私を見つめてたけど、「ふーん」とだけ言ってコーヒーを飲んでた。
「………」
先生は大人だし、寂しいとか思わないんだろうな。
それから私がパフェを食べ終えて、お店を出て。
私のマンションに向かったわけなんだけど。
「………」
なんだろ……、この二人。
私の隣には「佐枝さんに挨拶する」って言った先生がいて。目の前にはゆーにーちゃんがいる。
「………」
自意識過剰っぽいかもしれないけど、この二人って……恋敵っていうのだよね?
それなのに、なんだろう。
なんでこんなに仲いいっぽいんだろう?
二人は笑顔で世間話をしてて、私はただぽかんとして見てるだけ。
「―――……実優」
気づいたらゆーにーちゃんが私を呼んでた。
「……な、なに?」
ハッとして、慌てて返事をする。
「なにって、早く部屋に入りなさい」
ゆーにーちゃんが苦笑して手招きする。
そこで気付いた。隣にいたはずの先生がいつの間にか靴を脱いで上がり込んでるってことに。
「………え?」
戸惑うけど、ゆーにーちゃんは先生と談笑しながらリビングに行ってしまう。
私は玄関にひとり取り残されて―――、少ししてからようやくドアを閉めたのだった。







ソファーに座ったゆーにーちゃんと先生にコーヒーを出して、どうしようかと立ち尽くした。
ゆーにーちゃんは一人掛けのソファーで、先生は三人掛けのほう。
必然的に座るなら先生の隣になるけど、なんとなく座りにくい。
どうしようかなぁって迷ってたら2人が私を見た。
「実優」
「うん」
座りなさいって、ゆーにーちゃんが言ってくれるのだと思ってた。
なのに―――。
「ちょっと部屋で待っててもらえるかな?」
「………え」
「………」
「………」
「………えと」
にっこり笑ってるゆーにーちゃんと、黙ってコーヒーを飲んでる先生。
なんで?って、なんとなく聞けなくって、しぶしぶ頷いた。
自分に入れた砂糖ミルク多めのコーヒーを持って、自分の部屋に行く。
ドアを閉じて、とっさにドアに耳をつけてリビングの様子を窺うけど……。玄関近くの私の部屋に2人の話声なんて聞こえるはずがない。
しょうがないからため息をついて、カーペットの上に座り込んだ。
ピンク色の小さい丸テーブルにマグカップを乗せて、テレビをつける。
でもリビングの2人が気になって、全然頭に入って来ない。
いったい何話してるんだろう。
ていうか。なんで私仲間はずれ?
いやいや、そもそもなんであんなに親しい感じなのかわかんない。
まあでも険悪なムードよりはいいのかなぁ?
でも、ほんと何話してるんだろう。
気になる………。
はぁ、って深いため息をついて、バッグから携帯電話を取り出した。
ちょうど七香ちゃんからメールが入ってて、来週遊ぼうっていうお誘い。
みんなにちゃんと報告しなきゃいけないって思ってたから、もちろんOKの返信をした。
それからまた七香ちゃんから返信が来て、詳しい日程決めを何度かメールしながら決める。
電話したほうが早いはずなのに、メールでやり取りをし終えた頃、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
え?
まさか、先生帰っちゃったの!?
びっくりして立ち上がったら、ガチャって私の部屋のドアが開いた。
そして入ってきたのは―――。
「へぇ、ここが実優の部屋か。なんか予想通りだな。乙女チック?」
意地悪い顔で笑う先生だった。
「……な! 勝手に入って来ないで!!」
慌てて先生を追い出そうとするけど、ニヤニヤした先生は後ろ手にドアを閉めて、鍵までかけちゃう。
「ちょ! 先生!?」
「なんだよ、うるさいな」
ため息をつきながら先生は私のベッドに腰を下ろす。
「勝手にくつろがないでー! 出てって!!」
「おい、お前それが恋人に向かっていう言葉か?」
「だ、だって、散らかってるし」
「キレイにしてるじゃないか」
「……だって」
「なんだ俺に見られたら困るもんでもあるのか? エロ本?」
「………先生のばかっ! そんなもの先生じゃあるまいし持ってるわけないでしょ!!」
「あっそ」
「あっそって―――……、っ」
ぐいっと手を引っ張られて、一瞬で先生の腕の中。見上げたら、すぐに唇を塞がれる。
「……んっ……」
まぎれもなく自分の部屋で、先生がいることさえ不思議なのに、キスしてるなんて。
「……っ……ぁ」
だけど深くなるキスに、私はただ先生にしがみつくように身を任せることしかできない。
「……先生」
「ん?」
離れた唇は、まだ触れそうな位置にある。だけど気になることがあって、息を整えながら訊いてみる。
「……あの、ゆーにーちゃんは……?」
同じ家の中で、この状況はたとえ部屋が離れてたって罪悪感を覚えてしまう。
「んー、出かけた。1時間くらいしたら戻ってくるって」
「出かけた……?」
「気、利かせてくれたんだろ。俺がお前の部屋を見てみたいって言ったからな」
ふっと先生は笑いながら、私の頭を撫でた。
なんとなく恥ずかしくって、視線を落としてしまう。
「……べつにたいした部屋じゃないし」
「可愛くてお前らしいんじゃないの」
カーテンとか小物とかピンク系のものが多い。ぬいぐるみもいっぱいあるし……。
「……子供っぽいですよね」
「実際子供だろ」
「………」
そうなんだけど、言われるとへこんじゃう。
「拗ねんな」
「拗ねてないもん」
口をちょっとだけ尖らせながら言ったら、先生にかなり笑われてしまった。
ほんと、私って子供だなぁ。
自分に内心ため息をついてたら、先生が耳元で囁いた。
「嘘だよ。この俺を欲情させんだから、お前はりっぱな女だよ」
やけに艶っぽい声に―――火が出そうなくらい顔が真っ赤になっちゃったのは……しょうがないよね。
とにかく恥ずかしくって、私は先生の胸に顔を埋めて。
頭の上で先生が喉を鳴らすように笑ってた。