secret 135  kiss & kiss  

「そういや、お前昼飯は?」
先生のマンションのエントランスに入りながら先生が訊いてきた。
そういえばお昼時だったなぁなんて思いつつ、首を横に振る。
「まだです」
「だよなぁ。なんか食いもんあったかな」
ぶつぶつ言ってる先生とエレベーターに乗り込んで、部屋に向かう。
ずっと手は繋いだままで、嬉しいんだけど、なんだか恥ずかしい。
「適当になんか作るか」
お腹空いてるのかな?
お昼ごはんのことをやたら気にしてる先生がちょっと可笑しくって小さく笑ってしまった。
そして久しぶりに入る先生の部屋。
鍵が開けられて、中に入って、先生の匂いがして懐かしさに胸が締め付けられる。
「先生」
「ん?」
「私、冷蔵庫見てなにか作るから、着替えてきてください」
まだ手は繋がったまま。先生は片手でネクタイを緩めてる。
「わかった」
繋いでた手が離れてく。寂しさを感じながら頷いてると、軽いキスが落ちてきた。
「じゃ、頼んだぞ」
くしゃっと私の髪を撫でて、先生は寝室に入っていった。
「………」
私、大丈夫かな?
触れるだけのキスだったのに、ちょっと髪に触れられただけなのに、ありえないくらいドキドキしてる。
なんだか顔も熱いし……。
気持ちを落ち着けるように何度か深呼吸してキッチンに行った。
冷蔵庫を開けると、やっぱりなにも入ってない。
ビールにミネラルウォーターにって飲みものばっかり。
でもソーセージがあったからとりあえずそれを出して、冷凍庫もチェック。
「………あ、まだある」
冷凍庫にあったのは前来てた頃私が買い置きしてた冷凍食品のほうれん草。
それにちょっと高めのカップアイス。
ストロベリー味のアイスが好きで、冬なのに買って置いてた。
それが2個残ってる。
あとで食べよう、なんて思いながら、先生は冷凍庫あけなかったのかな?とも思った。
私がいなくなったあとも残されてたアイスが切なくって、また涙腺が緩みそうになったからほうれん草を取り出して閉めた。
キッチンの引き出しをあけてパスタがあるのをチェック。
お鍋をだして用意してると部屋着に着替えた先生が入ってきた。
「なんかあったか?」
「んーと、ペペロンチーノにしようかなぁって」
唐辛子はあるから、ウィンナーとほうれん草のペペロンチーノ。
「ふーん、いいんじゃないか」
「でも先生足ります?」
パスタだけじゃ腹もちしないような気がするんだけど、大丈夫かな。
「ああ、とりあえずいいよ。大盛で」
「はーい」
大きめの鍋にお水を淹れて火にかける。
沸騰する間にウィンナーと唐辛子を切って。
フライパンの用意をしながら、沸騰したお湯の中にパスタを入れてると―――。
「きゃっ!!」
急に後ろから抱きつかれた。
「ちょ、先生っ!」
首筋に顔をうずめる先生。唇が食むように首に触れて、ぞくぞくっとしてしまう。
「っ……、せんせぇ! 危ないってば」
ぎゅうっと抱きしめられて嬉しいけど、とりあえず拒否るように身をよじったら、意外にもあっさり先生は離れてしまった。
それに物足りなさをかんじちゃうなんて、私も相当重症なのかな。
「いまのは条件反射だ」
悪びれもなく笑う先生。
「条件反射って?」
「そりゃ、アレ」
「あれ?」
「キッチンで何回かヤッたから、キッチンにたってる実優を見るとヤりたくなる」
「……………ば……ばか!!」
何を言いだしちゃうんだろうこの人は。
ていうかいつだってエロモードで場所なんて関係ないくせに!
でも言われてみれば、確かにここで―――………。
「実優ちゃん? なんか顔赤いけど、どうかしたか?」
ニヤニヤ笑いながら訊いてくる先生に慌てて顔を背ける。
「もう! 先生、うるさいっ! 料理の邪魔だから、先生はあっち行ってて!!」
「はいはい」
きつく言ったのに、それでも先生は笑いながらキッチンを出ていった。
ちょっとホッとしながら頬を抑える。自分でもはっきりわかるくらい顔が熱い。
「……ほんとに大丈夫かな?」
ブランクはあるけど、いつも来てた先生の部屋。
なのに、いまどうしようもないくらい緊張しちゃってる。
ため息をひとつついて、とりあえず料理に集中することにした。










あっという間だった。
私はまだ半分も食べてないのに、多めに作ったペペロンチーノを先生はぺろりと完食。
「うまかった」
「……そんなお腹空いてたんですか?」
「ああ、朝はあんま食ってなかったからな」
「じゃあ足りなかった? 私の食べます?」
「いいよ。ちゃんと食え。体力持たなくなるから」
「体力?」
意味が分かんなくって首を傾げる私に、先生はニヤニヤと笑う。
「……………」
「早く食べろよ? コーヒー淹れるけど、飲むか?」
「………い、いいです」
ちょっと声が上擦っちゃった。
だって、やばい。ほんとに胸がバクバクしてる。
そ、そうだよね。
うん、先生だもんね。来てすぐベッドに連れ込まれなかったほうが不思議だもんね。
う、うん。
「……お前、大丈夫か?」
カチャカチャとコーヒーメーカーをセットしながら、カウンター越しに先生が訊いてくる。
「へ?」
「なんかさっきから赤くなったり青くなったりしてるけど」
「………なんでもないですっ」
きっと今度は赤くなってるはず。
クッと先生が笑ってるのが聞こえて、うつむいて残りのパスタを食べ始めた。
味なんかよくわかんなくって、必死で口に運んでるとコーヒーのいい香りがしてくる。
しばらくしてカップを持って先生が戻ってきて向かいの席に座った。
「遅いなぁ、食べんの」
反論したかったけど、ちょうど口にパスタをつめこんでたから黙って口を動かした。
先生は目を細めて私を見ながらコーヒーを飲んでる。
「………」
なんとなく見つめられてると気恥かしくって、さらに緊張しちゃうけど、がんばって食べきった。
先生はまだコーヒーを飲んでたからお皿を片づけて、アイスを食べようかなって冷凍庫を開ける。
美味しいアイスを食べればちょっとは緊張が解けるかも。
アイスを取って、スプーンを出してテーブルに戻ろうとしたらドンとぶつかった。
見上げたら先生で、コーヒーカップを流しに置いてるところだった。
「ご、ごめんなさい」
謝ると、先生は私を見下ろして口角を上げた。
それが―――異様に色っぽくって、ぽかんとしちゃってるといきなり担ぎあげられた。
「えっ、きゃっ!! ちょ、先生!?」
足をバタバタさせるけど、先生は気にする様子もなく私を担いだままリビングを抜けて、隣の寝室に入ってく。
「ちょ、ちょっと待って!!」
だけど呆気なく私の身体はベッドに放り投げられて、先生がのしかかってきた。
「先生! 待って! アイス! アイス、食べるの!!」
「食べれば? 俺はお前を食うから」
同じデザートだろ?
なんて笑って―――唇を塞がれた。