secret 134  kiss & kiss  

「状況って?」
ちらり私を見て、視線を逸らしながら先生は続ける。
「―――学校でヤって、それがバレたとしても前はかまわないって思ってたんだ」
俺は理事長の孫で、そんなもんバレたとしてもどうでもよかったしな。
なんて、相変わらずの俺様ぶり。
「だが、そういうわけにもいかなくなった」
「なんでですか?」
「………」
「先生?」
「相手がお前だからだ」
「え?」
「ただのどうでもいい女だったら、学校側にバレたって問題になったって気にしない。だが、好きな女は別だ。バレたとき、女側にだって批判は行く。噂はあっというまに回る。んなリスクのあるようなことを、好きな女に負わせるつもりはない」
「………」
それって―――。
「まあべつにそれほど教職にこだわってたわけじゃないし。オヤジからは自分の会社じゃなくてもいいから経営に回れってうるさく言われてたし……。俺もいちいち学校でお前見るたびに欲求不満でいるよりかはマシだし」
「………わた…しの、せい?」
「違う。俺のためだ」
強く言いきった先生に、止まってた涙がまた溢れだしてしまう。
そしてまた先生が指で涙をぬぐいながら、私の頬に触れる。
「お前、泣き虫になったな」
ちょっとだけ困ったように、だけど優しく笑う先生。
先生の手が頬から顎にうつって上向きにさせる。
近づいてくる先生に―――そっと目を閉じた。
「…………」
「………そういや」
だけど、キスされるって思ったのに、寸前で先生は離れてしまった。
どうして?って思いながら目を開ける。
「俺、お前の気持ちはまだ聞いてないんだけど?」
にこっとエセ爽やかな笑顔で先生が言った。
「………あ」
すっかり忘れてた。
そう、私もちゃんと言わなきゃいけない。
「……私……」
微かに声が震えてしまう。
「私……ずっとゆーにーちゃんが好きで……、ゆーにーちゃんだけ好きでいたいって思ってて」
「………」
「でも、先生のことが……気になってて……」
泣かずに言いたいのに、涙は止まってくれない。
「でも、自分の気持ちがよくわかってなくって……私、先生や……ゆーにーちゃんをずっと傷つけてた……っ」
「………」
「でも、でも……わたし…っ。………先生に、会いたくって」
涙で顔がぐちゃぐちゃになってると思う。
涙であんまりよく先生の顔が見えない。
だけど、先生を見つめて、言う。
「ゆーにーちゃんとは……ちゃんと、話して……別れた……っ」
「…………」
「わ、わたしは……先生のことが………好き……だから」
「……実優」
「先生……なんて、変態で……ドSで……俺様で……」
「………」
「ありえないくらいエッチだし、万年発情期だし……っ、なんで、惹かれちゃったのか、わかんないけど」
「………」
「へ、変態でも、好きっ」
勢いよく叫んだ。
想いをこめて。
「………お前、あとで覚えてろよ?」
「……え、―――んっ!!」
低い声のあと、落ちたのは、激しいキス。
唇を割って入ってくる先生の舌が熱くて、絡まってくるのが気持ちよくて―――嬉しくって。
先生に抱きついて必死で先生の舌に舌を絡め合わせてた。
「…………しょっぱいな」
ぺろ、と最後に私の唇を舐めて顔を離した先生が、笑いながら流れ続けてる涙を拭った。
胸の奥がぎゅっとして、苦しい。
でもそれは不安だからとかじゃなくって、嬉しすぎて、幸せすぎて苦しい。
「先生……」
もっとキスしたい。
ぐっと抱きついたまま先生に顔を近づける。
「実優、待て」
なのに、ストップをかけられる。
「……なんで?」
「あんまり積極的にされると、ヤりたくなる」
「………っ」
顔が赤くなってしまう。でも………イヤなはずなんてない。
「……わ、私……別にシテ……も……」
恥ずかしくて仕方ないけど、触れられたい、触れたい。
「………ああ。たっぷり可愛がってやる。まぁだが今は無理だ」
「なんで……?」
「ここ公園」
ニヤって先生が言って………私は私の腰を引き寄せて先生の膝の上に乗せられた。
「へ、あ! ちょ、待って!!」
公園ってことがすっかり抜け落ちてたから、慌てまくって先生から逃げようとするけど、がっちり腰を押さえつけられて動けない。
「実優が野外プレイが好きだなんて知らなかったなぁ」
「ち、ちが!!」
「見られたら興奮する?」
「違うってばー!!」
「まぁ俺はどこでもいいけど」
「え? やだやだ!」
近づいてくる先生の顔に、ぎゅっと目をつぶって―――。
ちゅ、と軽いキスが落とされた後、身体の拘束が解かれた。
恐る恐る目を開けると……笑いを堪えてる先生。
「………せ、先生のバカー!!!」
先生を突き飛ばしてベンチから立つ。
「変態でも好きって言ってたの誰だっけ?」
隣に立った先生がニヤニヤしながら私の顔を覗きこむから、必死で顔を背けた。
「知りません!!」
「素直じゃないなぁ、実優ちゃんは」
ぎゅっと手を繋がれ握りしめられて、あっと思った時にはまた唇を塞がれて。
公園だってことも忘れてキスに溺れてしまう。
息が上がりだした頃、唇は離れて、公園の外から子供たちの声がしてきた。
「んじゃ、帰るか」
当たり前のように先生はそう言って笑って、私の手を引っ張って子供たちと入れ替わりに公園を出て行った。
そして帰る先は―――先生のマンションで。
そっと先生を見上げると、どうして気付くのか先生は私を見下ろして、ふっと笑った。
それにどうしようもなく胸がきゅんとなって、笑顔を返しながら繋いでた手に力を込めた。