secret 113  嵐  

何時なのかもわからない薄暗い寝室。
雨音がまだずっと窓の向こう側でしてる。
肌触りのいいシーツと、ぴったりと触れ合った肌。
抱きしめられたままいつの間にか寝てたみたいだった。
ぼんやり顔を上げると、すぐそばに目を閉じている先生の顔がある。
こうして先生の寝顔を見るのはいつぶりだろう。
ほんの一か月前までは当たり前みたいに先生の腕の中にいたのに。
規則的な寝息をたててる先生をじっと見つめる。
胸の奥がギュっとして、下肢部が疼くのを感じて太ももをちょっとだけ擦り合わせる。
動いたからか、ドロっとアソコから蜜とは違うものが少しだけ流れ出るのを感じた。
何度ナカにそそぎこまれたんだろう。
先生は容赦なく私を責め立てて、何回イッたかさえもわかんない。
意識を飛ばすことも許してもらえなくって、結局最後は2人で疲れ果ててベッドに沈んだ。
それにしても……先生よく寝てる。
そっと髪に触れて梳く。
頬っぺたを撫でて、でも全然先生は身動きもしないし、起きる気配が全然ない。
「………」
ちょっとだけ、先生にキスしてみた。
ヴヴヴヴヴ―――。
先生の唇に触れた瞬間、静かだった寝室に響き渡ったバイブ音にびっくりして身体が震えてしまう。
先生はそれでも寝たまま。
バイブ音は響き続けてて、先生の腕の中からそっと抜けて身体を起こした。
ベッドサイドに先生の携帯があって着信をしらせるライトが点滅して振動してる。
薄暗い部屋に浮き上がるライト―――、そして文字。
先生の携帯は表にカタカナで発信者の名前が表示されるようになってて。
「………っ」
一気に血の気が引いてく気がした。
ライトで表示されて、流れていく名前は―――。
『ミサキ』
鳥肌がたつ。
鉛でも押し込まれたみたいに、胸が苦しい。
しばらく続いていた振動はようやく止まった。
私はそれでも動けないで、携帯を見続けて、また携帯が振動を始めた。
やっぱり携帯が表示している名前は『ミサキ』で。
しつこいバイブ音に、先生が「………ん……」と身動ぎした。
「………せん、せい」
小さく呼びかけると先生は薄く目を開いた。
その目が私を見て、ふっと笑う。
それに胸の奥がぎゅっとなるのを感じながら、先生に携帯のことを教えた。
「先生……。携帯、鳴ってます……」
先生は欠伸をしながら身体を起こして携帯を見た。
それを手にして携帯を開く。
受話ボタンを押して―――。
「………もしもし」
『遅いわよ! 2コールで出なさいよ!』
携帯の向こうから聞こえてくる―――女の人の、声。
「……わめくなよ。寝てたんだからしょうがないだろ」
『はぁ? 寝てたってまだ7時よ? 晄人、一体な―――』
先生が受話口を押さえて私を見る。
「悪い、すぐ戻る」
そう言って、ベッドを下りる先生。
「疲れて寝てただけだろ。毎晩毎晩誰かのせいで、睡眠不足なんだから」
喋りながら、先生は寝室をでてった。
もう会話は聞こえてこなくって、私は一人寝室に取り残される。
静かな、静かすぎる部屋。
なのに私の頭の中はうるさいくらいに″声″がガンガンと鳴り響いてる。
聞こえ漏れてきた女の人の声。
『晄人』って、呼んでた。
そしてそれに応える先生の声。
『毎晩毎晩―――』って、なに?
――――″ミサキ″って、だれ?
心が、真っ黒なものに浸食されて行くような気がした。
繰り返し鳴り響く女の人の声に、思い出すのは先生の車に乗ってた女の人。
まだ、今日のこと。
今日の、ことなんだ。
この部屋に―――女の人がいたかもしれないんだ。
………ぞっと、した。
ミサキさんって人が誰なのか知るわけない。
噂の結婚相手なのかもしれない。
それに、先生には―――……セフレだって……。
ぐらぐら、めまいがする。
「………っ」
唇を噛み締めた。そうしないと、泣いてしまいそうだった。
枕に顔をうずめて必死で耐える。
苦しい、苦しい、苦しい。
でも、先生に―――私がなにを言えるんだろう?
先生にとっては私なんて……。
ガチャッとドアが開く音がして、私はぎゅっと目を閉じた。
ギシっとベッドが軋んで、すぐそばが重みで沈む。
「………また寝たのか?」
後頭部に手を置かれて、先生の声が響いた。
枕に伏せたまま、首を横に振る。
「んじゃ、起きてなんか食うか? 俺、腹減ったし」
私の髪を先生の指が弄っているのがわかる。
私は……またただ首を横に振った。
「………帰り……ます」
小さく小さく、それだけ呟いた。
「…………」
「…………」
先生の手が、裸のままの私の肩に触れる。
そしてぐっと力が込められて、あおむけにさせられた。
私の顔を見た先生が、眉間にしわを寄せる。
「……なに、泣いてるんだ」
「……なん、でも……」
「―――……後悔でも、したか?」
「……え?」
先生が呟いた言葉の意味がわからなかった。
戸惑って先生を見つめると、顔が近づいてきて唇を塞がれる。
優しいキスだった。
そっと舌を絡ませられて、そっと舌を、裏筋をなぞられる。
たったそれだけで、どうしようもないくらいに身体が震える。
「…………っ……ん、……っ」
先生の手が太ももを這って、中心に触れた。
ぐちゅ、ぐちゅ、とすんなり指が侵入してナカをかき回す。
しばらくして、唇と、指が離れていく。
キスにぼうっとしてた私と先生の目が合う。
先生は私のナカに沈めてた指で、私の唇に触れてきた。
「お前のと俺のがドロドロに溶けてるぞ?」
「……っ……」
先生の言葉に反応するように、蜜がどろりと先生の欲の残滓を押し出すように溢れ出るのを感じる。
先生はぺろりと指を舐めて、「不味い」と笑うと、私の脚を大きく広げた。
「最後に、抱かせろ」
そう言って―――先生はゆっくり挿入してきた。
「んん……っ、は……っ……ん」
ゆっくり、ゆっくり、先生が腰を動かす。
私のナカが先生のに絡みついて、蠢いてるのがわかる。
先生のが熱く硬く脈打ってるのがわかる。
ぐちゅ、ぐちゅっ、っと動くたびに結合部分から私の蜜と先生の残滓が溢れていくのを感じた。
私は―――じりじりと生まれてくる快感に腰を揺らしながら、涙がこぼれるてしまうのを抑えきれなかった。
―――先生。
″最後″って、どういう意味?
だけど、やっぱり私はなにも訊けずに。
先生から与えられる刺激に喘ぐことしかできなかった。