secret 104  Border line  

ゆーにーちゃんの腕に包まれてた。
一晩中ただ抱きしめてくれてたゆーにーちゃん。
その体温が暖かくてホッとする。
抱きしめられている穏やかさに、ゆーにーちゃんの胸元に頬ずりしてると、小さな声が聞こえてゆーにーちゃんが身動ぎした。
「……ん」
「……おはよう」
ぼんやり瞼を上げるゆーにーちゃんに小さく笑いかける。
「おはよう、実優」
ゆーにーちゃんは微笑んで私の髪に指を差し込んで撫でるように梳く。
それが心地よくて、でも少しくすぐったい。
「いま何時だろう」
「まだ5時だよ」
「そっか」
まだ早いね、って笑うゆーにーちゃんの唇にちゅっとキスした。
少し見つめ合って、今度はゆーにーちゃんが触れるだけのキスをくれる。
ぎゅっと抱きつくと、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
ゆーにーちゃんから伝わってくる心音を聞いてると、目は完全にさめてたのに、眠くなってきてしまった。
ずっと髪を撫でられてるせいもあるのかもしれない。
「起こしてあげるから、寝ていいよ」
まどろむ私に、ゆーにーちゃんがそっと頬にキスを落とす。
「……ん……」
そっと背をあやすようにたたかれて、私は眠りについた。
今夜、もう朝だけど―――はじめての眠りに。
















校門をくぐって下駄箱で靴を履き替えてるときに、声をかけられた。
「おはよう、和くん」
にっこり笑って振り返ると、和くんは少しだけ驚いたようにして眉を寄せる。
「……おはよう。………大丈夫か?」
心配でたまらないって表情の和くん。
「大丈夫だよ。和くん、今日は早いね」
「……ああ。あのさ、いまちょっと時間いいか?」
「うん、いいよ」
和くんが靴を履き替えるのを待って、私たちは図書室に行った。
朝の図書室なら、誰もいないだろうから。
司書さんから死角になってる窓際の本棚のところで私たちは少しだけ距離を開けて並んで窓に寄りかかる。
「………昨日の……捺のことだけど」
和くんが口を開いたのは、だいぶ間を置いてからだった。
「うん」
「………あいつ……は、バカだけどさ……。強引だし。だけど……あいつなりに……」
「大丈夫、わかってる」
「………」
「捺くんはきっと私のことを心配してくれたんだよね」
「………」
「でもね、私には叔父……ゆーにーちゃんっていうんだけど、ゆーにーちゃんしかいないの。ゆーにーちゃんが一番大切なの」
「………」
「あのね、私ね両親がいないんだ」
「……なに……?」
「事故で亡くして、それで叔父であるゆーにーちゃんとずっと一緒に生きてきたの。それでね、いつのまにか好きになってて。そしてゆーにーちゃんも私のこと好きでいてくれるの」
「………」
「ずっと一緒に、ずっと傍にいるの。誰から反対されても、変な目で見られてもいいの。私はゆーにーちゃんを愛してるから」
「………」
「捺くんにも、ちゃんと話すよ。心配掛けてごめんね、和くん」
「………」
「いつもありがとう」
「………お前」
「なに?」
「きのう……。あの後なん―――……」
「和くん」
私は窓から離れて和くんに笑いかけた。
「予鈴、鳴るよ」
ちょうど、予鈴が鳴り始めた。
「教室行こう?」
「………実優」
「行こう?」
「………わかった」
そして私たちは教室に向かった。
教室では昨日私が図書室に行かなかったから、七香ちゃんと羽純ちゃんが心配そうにしてた。
でもなにも聞いてこなかったから、たぶんなにかあったって察してくれてるのかもしれない。
そして捺くんは、休みだった。












「がんばってるね」
リビングのテーブルで勉強をしている私の頭に、お風呂上がりのゆーにーちゃんがぽんと手を乗せる。
「うん。もう2日しかないし!」
「実優は頭良いから大丈夫だよ」
「もー、ゆーにーちゃんは……。そんなこと言われたら逆にプレッシャーなんだけど」
「ごめんごめん」
くすくす笑うゆーにーちゃんに、ちょっとだけ拗ねた振りをしてたけど、すぐに私も笑った。
それからゆーにーちゃんにわからないところとかを聞いて勉強していった。
「土日はずっと勉強?」
1時間ほど集中してから休憩をはさんだ。
ホットココアをゆーにーちゃんがいれてくれて、ゆーにーちゃんの隣でゆっくり飲む。
甘いココアに頬っぺたが緩んじゃう。
「うーん、半々くらいかな……。ゆーにーちゃんは、仕事……だよね?」
「明日は仕事になるかな。でも日曜は休むよ。だから勉強半分の残りは買い物でも行こう」
「うん!」
「それと、来週、どこか行こうか」
ゆーにーちゃんが私の手を握って、微笑む。
「どこかって?」
「土日で泊まりでも」
「旅行?!」
「んー、旅行……とまでは行かないかな。夢と魔法の国にでも行かない?」
「夢……?」
どこかわかんなくって首を傾げる。でもすぐにピンと来た。
「ディズニー!?」
「そう。実はホテルも押さえてる」
「え、ほんと!?」
「ほんと。テストを頑張る御褒美と、あとホワイトデーのお返しに。ホワイトデーは仕事が入っててね。だから早いけど」
いい?、と訊くゆーにーちゃんに、私が頷かないわけがない。
嬉しくってゆーにーちゃんに抱きついた。
「ありがとう! ああ、でもどうしよう! 楽しみ過ぎて勉強に手がつかなくなっちゃいそうだよ!!」
「それは困ったな」
そう言いながら、でもゆーにーちゃんも笑顔で抱きしめ返してくれる。
「ディズニーランドかぁ。懐かしいね」
「………そうだね」
昔、まだパパとママが生きてた頃。まだゆーにーちゃんが高校生だったころ、家族で行ったことがある。
まだ私は小学校にあがる前だったけど、すごく楽しかったっていう記憶はある。
「ゆーにーちゃん」
「うん?」
「ありがとう」
優しすぎるゆーにーちゃん。

私はこの人が――――愛おしい。
私はこの人の傍に、ずっと一緒に―――″。