secret 103  その、爪痕  

踊り場でのよりも、さらに激しいキスだった。
噛みつくようなそれが苦しくって涙がにじむ。
片手でがっちりと抱きしめられて―――もう片方の手が、スカートの裾から中へと入り込む。
「ん、っ!」
もがくけど先生はびくともしない。
熱い手が太ももを這っていくのを感じて、必死で先生の胸を押した。
でも手はどんどん中心に向かって進んでいく。
「……っ……ふ……ゃ」
ほんの少しの息継ぎしかなくって言葉を発する暇もない。
その間に先生の手は私の脚の間に割って入ってきた。
パンツ越しにぐりぐりと触れてくる指。
「んんっ……ん……ん!!」
容赦なく口の中を蹂躙されながら、先生の指があっけなくパンツの中へも入ってくる。
そしていきなり二本の指を突き刺されて――――激しい恐怖が湧いた。
「っ………」
私は激しく先生の腕を叩いた。
ナカをかき回す指、口のナカを犯す舌。
それが―――怖かった。
「………ん……ゃあ……!」
いつだって強引で俺様で無理やりだけど、でも、こんな無言で強引とかじゃなくって力でねじ伏せるような、そんなこと今までなかった。
なんで?
どうして?
「……っ………は……」
くちゅくちゅと響く水音がキスからか下からか、どちらからのものかわからない。
ただ、激しさに頭が真っ白になる。
苦しくって、涙が出る。
頭が痛くて痛くて、しかたなくって。
「………ヤダっ!!!」
唇が離れた一瞬、手を振り上げてた。
手になにかが勢いよく触れて――――カシャン、と何か音がした。
そして先生の動きが止まった。
拘束されてた腕の力も弱まって、とっさに先生から離れた。
床に先生のメガネが落ちている。私がさっき振り上げた時、メガネを弾き飛ばしてしまったんだ。
息を整えながらメガネを拾う。幸いメガネは無傷でホッとした。
ぎゅっとメガネを握り締めて、うつむく。
先生のことが、見れない。
先生は微動だにしなくって、重苦しい沈黙が落ちる。
「――――ろ」
掠れた、低い声が響いたのは少ししてからだった。
なんて言ったのかわからなくって、恐る恐る先生を見る。
私からは先生の背中しか見えなくって、先生は私の方を振り向かない。
「……せん」
「お前のケータイから、俺の番号とアドレス削除しておけ」
「………え?」
「それと学校内で、二度と俺に話しかけるな」
先生の言っている意味がわからない。
なに………?
「せん……せい」
「ゲームオーバーだ。遊びは、終わりだ」
冷ややかな声。
私のことを見てない、先生の背中が―――私を拒絶してる。
「遊び………?」
「そうだよ。もう飽きた。″セフレ″は解消だ」
頭が、痛い。
視界がぐらぐらする。
「校内でも、俺の前に姿見せるな」
喉が締めあげられたように、苦しい。
視界がぐらぐらぐらぐら―――かすむ。
「………早く、出ていけ」
身体が、震える。
先生の、声が冷た過ぎて、頬を熱いものが伝う。
それがなにか理解したくない。
ただ、怖くて、私は震える身体を立ち上がらせて、落ちていた鞄を拾った。
そして準備室をもつれそうになる足で、逃げだした。
頭がぐらぐら、視界がぐらぐら。
よく、わからない。
ただ、怖い。
怖かった。
どこをどう走ったのか、歩いたのか、覚えてない。
――――気づいたときにはマンションの自分の部屋に私はいた。












「………実優?」
ドアが開いて、大好きなゆーにーちゃんの声が私を呼んだ。
でも私は返事ができない。
「………実優」
ゆーにーちゃんの声がすぐそばでする。
そしてゆーにーちゃんの手が、凍りついたように固まった私の手をそっと握り締めて―――手の中にあった何かを取った。
そしてゆーにーちゃんの手が、腕が、私をぎゅっと抱きしめた。
「……頭が痛いの」
「……うん」
「……頭がくらくらするの」
「……うん」
「……寒い」
「温めてあげるから」
「……ゆーにーちゃんは、どこにも行かない?」
「行かないよ」
「……ゆーにーちゃんは、私を捨てない?」
「捨てないよ」
「……ゆーにーちゃんは、ずっと傍にいてくれる?」
「ずっと傍にいるよ」
「……ゆーにーちゃんは」
「実優」
ゆーにーちゃんがそっと頭を撫でてくれる。
「大丈夫。―――大丈夫だから」
優しい優しいゆーにーちゃん。
大好きな大好きなゆーにーちゃん。
「大丈夫だよ」
いつでも私を包んでくれる暖かい腕。
「大丈夫だから。ずっと、一緒にいるよ」
――――ずっと、一緒にいてくれるゆーにーちゃん。
ずっと、ずっと。
そう、最初から、変わってない。
私はずっと、ゆーにーちゃんの傍にいるんだから。
「ゆーにーちゃん……大好き」
「俺もだよ。愛してるよ。実優」
そう、最初から、なにも変わってない。
″あの人″は、なんにも―――関係ないんだから。

私には、ゆーにーちゃんだけなんだから。