らぶらぶでいきましょう♪ 4

「アッキーの言うこと、わかるよ」
きのうのこと、もちろんエッチな話はしないけど、先生が言ってたことを話すと羽純ちゃんは笑って頷いた。
「え? そう?」
「松原は実優のこと心配してんだよ」
お昼休み、七香ちゃんは紙パックのジュースを飲みながら私を見つめてる。
今日は和くんと捺くんは一緒じゃない。
ガールズトークをするから、って七香ちゃんに来るなと言われてた可哀想なふたり。
それで女の子三人で固まって食べてる。
「心配は、わかるよ?」
でも―――と言いかけた私に、七香ちゃんがため息をつく。
「実優はさ、自覚ないかもしれないけど、すっごく綺麗になってるよ?」
「……へ?」
き、綺麗って……私が!?
ぽかんとして七香ちゃんを見返してしまう。
「顔は可愛い系だけど、なんか色気あるっていうか」
ニヤニヤした七香ちゃんが目を細めて私を見て。
「そうそう。それだけアッキーに愛されてるっていうことだよね」
ふふっと羽純ちゃんは私に手を伸ばして首筋に触れてきた。
「意外に独占欲も強そうだし?」
つんつんと首筋の一か所をついてくる羽純ちゃん。
七香ちゃんが身を乗り出してそれを見て、
「ヤらしー!」
ってニヤニヤしまくってる。
「え!? な、なに?」
焦る私に羽純ちゃんが鏡を渡してくれて見てみる。
「………」
「らぶらぶだねぇ」
「ほんと。でも七ちゃんだってらぶらぶでしょ?」
「そりゃまぁそうだけどー。でも同棲カップルに比べたら〜」
「………」
鏡にうつる首筋を見て、私は大きなため息をついて机に突っ伏した。
なんで……今朝気づかなかったのかなぁ。
首筋にはばっちりキスマークがつけられてた。
「変な虫がつかないようにって予防だよ」
七香ちゃんが笑いながら言って、「らぶらぶー!」ってまた冷やかしてきて。
「あんまりアッキーに心配かけないようにしなきゃね」
って、羽純ちゃんが言った―――のに。
それから1時間後。
文化祭準備に割り当てられた5時間目の途中。
羽純ちゃんが担当していた女子用の衣装を配られて―――私は思わず絶叫してしまった。
「な、なにこれ!!?」
きゃー、かわいいーって、ほかのクラスメイトたちが言ってるのが聞こえる。
可愛いのは可愛いけど、けど!
「あ、あの、なんでこれこんなに短いの!?」
渡された衣装をぎゅっと抱きしめて羽純ちゃんに詰め寄る。
「短い?」
羽純ちゃんはとぼけるように首を傾げて笑った。
私はチェックのスカートをつき出す。
衣装の手配をする前にちゃんとサイズ合わせして、そのときちゃんとスカートの丈もチェックしてた。
そのとき膝上15センチくらいあったはず、なのに!
「スカート! パンツ見えちゃうよ!」
それなのに、いまウェイトレス係の女の子たちに配られたスカートはめちゃくちゃ短い。
パンツが見えるか見えないかのギリギリライン。
「これくらいいいじゃない。平気平気、見えないって!」
「そうそう。見えそうで見えないのがいいの。見えないようにって意識しちゃう仕草なんかも可愛くていいんじゃない?」
「………」
七香ちゃんなんでそんなにあっさりしてるの!?
そして羽純ちゃん……なんか微妙にオジサン臭いっていうかなんていうか。
ふたりの全然気にしてない様子になにも言えないでいると、
「早く着替えようよ!」
って七香ちゃんが急かしてきた。
いま私たちがいるのは体育館の更衣室。
教室では衣装を着る男の子たちが着替えと、あと準備をしていて、私たちも着替えたら戻ってちょっとだけ接客の練習をする予定。
七香ちゃんと羽純ちゃんたちはもう着替え始めてる。
仕方なく私も見た目はとっても可愛い衣装に着替えだした。






「………短い」
太腿が寒い!
普段だってミニスカート履くけど。
ここまで短いのは履いたことないから、ほんとうにギリギリの短さのスカートに心許なくなっちゃう。
衣装自体はとってもかわいいのに!
パフスリーブのブラウスにチェックのネクタイ、ウェイトレスだからエプロンもあって、エプロンはすそがフリルになってる。
そしてニーハイと頭には大きめフリルリボンのカチューシャ。
結局メイドさんぽい感じ。でもすっごく可愛い。
スカートさえもうちょっと長かったらな……。
なんて鏡を見て思ってたら―――。
「みーゆう!」
「……きゃああ!」
七香ちゃんにスカート捲られた……。
「な、七香ちゃんっ!」
「今日はピンクかぁ。かーわいい〜」
「ちょっ!!」
はずかしいー!
「ほんと実優ちゃん可愛い。七ちゃんのいまのスカート捲りにはね、油断大敵、まわりに気をつけましょうって意味が含まれてるの」
羽純ちゃんがニコニコして七香ちゃんのフォローをしてくる。
スカートのすそを押さえつけて羽純ちゃんと七香ちゃんを交互に見ると、ふたりともウンウン頷いてて。
「……もう、いい」
なんだかなにも言う気になれなくなっちゃった。
ため息をつく私を引っ張って七香ちゃんが更衣室を出ていく。
「みんなの反応が楽しみだね。和くんとか捺くんとか」
隣を歩く羽純ちゃんがすっごく楽しそうに笑ってて―――とっても憂鬱になってきた。
いまは五時間目の授業中だから幸い誰にも会うことなく教室まで戻れる。
うちのクラスの近くになってくるとすっごく騒がしかった。
「ただいまー」
七香ちゃんが大きな声で教室に入っていく。
おおー!、って男子の声が上がって。
恥ずかしくて立ち止まりそうになったけど、羽純ちゃんに背中を押されて私も入っていった。
「かわいー!」
それはもちろん私じゃなくってウェイトレス服を着てる女の子たちみんなにかけられてる声なんだけど、もうとにかく恥ずかしくって堪らない。
顔を赤くして俯いてたら、すごく視線を感じて顔を上げたら和くんとばっちり目があった。
ぽかんとした顔をしていた和くんはそのとたんに顔を真っ赤にさせて顔をっていうか身体ごと、私に背を向ける。
「………」
「実優ちゃん、可愛いー!!! やっぱ俺と付き合ってー!」
和くんとは逆方向から聞こえてきたのは―――捺くんの声。
走る音が聞こえてきたと思ったらいきなり抱きつかれた。
「きゃっ!」
「めちゃくちゃ可愛いー!!」
「な、なつくん!」
離して――――……って言おうとしたんだけど、至近距離にいる捺くんを見て、言葉を飲み込んだ。
頬にかかるふわふわな金髪に近い長い髪。
私を見てるブルーのカラコンいりの瞳と、ばっちりその周りにつけられてるつけまつげ。
「………か……」
「うん?」
きょとんと首を傾げる捺くんに……思わず抱きつき返してた。
「可愛いー!!」
叫んだのは、私。
そして抱きあってる私と―――女装姿の捺くんを羽純ちゃんがカシャカシャと写メを撮っていた。







―――――
―――
――






「先生……」
「なんだ?」
「文化祭……来るんだよね?」
「ああ、行くけど?」
「そっか……」
「なんだよ」
「う、ううん」
「一緒に回りたいんだろ?」
「う、うん。あの、でも平気? 元教師だし……」
「大丈夫だろ。一応夏木と、あと学園長のところには最初にあいさつに行くつもりだからな」
「そっか……」
「なんだよ」
「ううん。ぶ……文化祭頑張るね」
「ああ……?」
不審そうな顔をする先生に笑顔を無理やり作って、逃げるようにトイレに駆け込んだ。
ドアを閉めて大きなため息。
文化祭まであと少し。
先生と一緒に文化祭回りたいけど、でもうちのクラスには来てほしくないー!
今日予行練習でしたウェイトレスの接客。
ただ注文受けて運べばいいって思ってたのに……思ってたのに!
「絶対……羽純ちゃんオヤジだ……」
思いだすだけで頭がクラクラする喫茶店メニューのオプションメニューを思い出して、出てくるのはため息ばっかり。
そうして来るなくるなと願っても、あっという間に文化祭の日はやってきてしまった。