らぶらぶでいきましょう♪ 2

車の中では七香ちゃんが中心となって楽しく喋っていた。
もちろん先生はとくに会話に参加することはなくって、黙っていたけど。
「明日には衣装も来るしほんと楽しみー!」
私たちのクラスがする喫茶店のコスチュームはいま流行りのアイドルの衣装を真似たもの。
ウェイトレス係は2交代制で10人。
私と七香ちゃんと羽純ちゃんはウェイトレス。
担任の夏木先生が知り合いに衣装屋さんがいるということでコスチュームは注文していた。
そしてそれが到着するのが明日。
「楽しみだね! 同じ日に間に合うように捺くんたちのも作りあげなきゃだね!」
「そうね」
膝の上においた紙袋、その中に入ってる小物や洋服のことを考えて気合を入れなおしてみる。
「………向井たちのって、なんだ?」
それまで傍観していた先生が訊いてきた。
「捺くんたちのコスチュームだよ」
「ウエイターの分は作るのか?」
「ううん、違うよ?」
「捺たちが着るのはうちらと同じ感じの衣装」
七香ちゃんが後ろから身を乗り出してくる。
「………同じ?」
「捺くんがチームリーダーになって、男子生徒10人でショーをするんです。アイドルの真似をして」
羽純ちゃんがわかりやすく説明してくれた。
というより、私先生に言ってなかったっけ?
「………まさか、女装ってことか?」
「ピンポーン♪」
明るい七香ちゃんの声に、先生は顔をひきつらせて、
「見たくねぇな」
って呟いた。
「捺くんは似合ってるよ?」
私も最初は女装して歌って踊るっていう企画にびっくりしたけど、ショーメンバーは厳選されてて。
とはいっても捺くんとあと2〜3人は女装似合ってたけど、それ以外は微妙だったけど……。
「そうそう。あいつの女装姿、むかつくよねー!」
「その辺の女の子より可愛かったものね」
「ほんと! めちゃくちゃ捺くん可愛いの! 先生、びっくりしちゃうよ」
「……ふーん」
気のない返事をしてる先生。
でも本当に似合ってるから、絶対当日は驚くはず。
あ、でも捺くんに見惚れちゃったらちょっとヤダなぁ。
ばかみたいなやきもちをちょっとだけ覚えていると車が止まった。
窓の外に目を向けると何回か来たことがある七香ちゃんの家の前。
「ありがとーございまーす♪」
「また明日ねー!」
「七ちゃん、またね」
手を振り合って、七香ちゃんに見送られてまた車を走り出した。
それから10分ほどして羽純ちゃんの家に着いたんだけど。
……小悪魔・羽純ちゃんは爆弾を落として去っていったんだ。
「衣装合わせ楽しみね。きっと実優ちゃんすっごく似合うんだろうな」
「羽純ちゃんのほうが似合うよー!」
「実優ちゃんが似合うよ。もうめちゃくちゃ可愛くなっちゃって、他校の生徒からもモテちゃうんだろうね。当日は気をつけなきゃだね?」
うふふ、って羽純ちゃんが笑う。
ちょうど羽純ちゃんの家に到着して。
私が返事をする前に、羽純は車を降りていった。
「アッキー先生、送ってもらってありがとうございました。またね、実優ちゃん」
「う、うん、ばいばいー……」
へらっと笑顔を浮かべて手を振って、そしてまた車は走り出したんだけど。
それまでの明るい空気が嘘のように車の中は静まりかえちゃってる。
「………」
「………」
「……実優」
「は、はい!?」
「夕食どうする? 帰ってから準備もきついだろ。なんか食って行くか?」
「え、あ、えと。この前作っておいたトマトソースでドリア作ろうかなと思ってて、ご飯はタイマーしてるの。そんなに手間かからないから、作るよ?」
「お前がきつくないならいいけど、無理するなよ?」
ハンドルを握って前を見たまま、先生はちょっと優しい声でそう言ってくれた。
私はまだ養ってもらわなきゃなにもできない立場だからできるだけご飯とかちゃんと作りたいって思ってる。
けど、学校の勉強があるんだからってたまにこうして先生はさりげなく気遣ってくれてる。
それが嬉しくていつも心が暖かくなるんだ。
それに先生の横顔はとくにいつもと変わらないように見えて―――ほっとしていた。
"他校の生徒からもモテちゃうんだろうね"
羽純ちゃんが言ったことを、気にしている様子はなさそうだったから。
だけど……。
先生が聞き逃すなんてことないって気づいたのは―――……そう遠くないことだった。









夕食はサラダとトマトドリアにコンソメスープ。
お腹すいてたからあっという間に食べて今はソファーでティータイム。
私はちょっと甘めのミルクティー。
先生はブラックコーヒー。
中身は全然違うけど、色違いでおそろいのマグカップ。
最初買ったときはかなり嫌がってたけど、いい加減慣れたのか最近はなにも言わないでちゃんと使ってくれてる。
先生に全然似合ってないクマさんの絵のついたマグカップを口に運びながら先生は持ち帰りの仕事に目を通してた。
そして私は文化祭用の捺くんの衣装の仕上げ。
もうほとんど出来上がってて、ベストにスタッズをつけて完成。
明日一緒に衣装合わせできる!
よかったぁ、ってほっとしながら洋服をキレイに畳んで袋に入れてたら。
「出来上がったのか?」
先生が私を見ていた。
「うん!」
終わったことが嬉しくて先生の傍にすりよる。
先生も仕事がひと段落してるのか私の腰を引き寄せて、先生の脚の間に座らせられた。
後ろからギューっとされるのって大好き。
背中に先生の体温を感じて落ち着いて、でもちょっとドキドキして。
「お疲れ」
「ありがと」
先生が私の肩に顎を乗せて耳元で囁くからくすぐったくて少し笑ってしまう。
「なぁ、実優」
「なーに?」
「お前さ」
「んー?」
「2年になって何人から告白された?」
「えー? えっ…………」
いきなりな質問に頭の中が一気にパニックになってしまった。
ど、どうしよう!
やばい!
「実優?」
先生が甘く囁く。
だけど……わかる。
きっと先生は笑ってない。
ぜーったい怒ってる。
「文化祭で他校の生徒から"も"、モテそうなわけ?」
喋られるたびに熱い息が吹きかかってくるけど、それどころじゃない!
「え、いや、そんなことないと思う。七香ちゃんとか羽純ちゃんのほうがモテるし! う、うん」
「ふーん。で、あれから何人に告白された?」
「………」
あれから、っていうのは5月のこと。
二年生になったっていうことは後輩ができたってことなんだけど。
5月、その新入生である後輩の男の子に突然告白されちゃったんだ。
呼びだされて告白なんてすっごくベタだけど、初めてのことだったからすっごく緊張しちゃって。
もちろん断ったし、全然揺らいだりなんて本当にまったくしなかったんだけど……。
びっくりしすぎて……その日先生に報告した。
『……ふーん。で?』
ちょっとテンションあがってた私に先生は真っ黒な笑顔を向けて、そこで初めて失敗したって気づいた。
だけど時すでに遅し!って感じで、意外にやきもち焼きだったらしい先生にその日はさんざん虐められて。
あのときのことを思い出すと……ネチネチ攻撃にうんざりした反面……、嫉妬してくれた先生が嬉しい……なんて。
「……なんでニヤついてんだ?」
なんて……思ってる場合じゃないよね!?
明らかに低くなった先生の声に身の危険を感じて必死で首を振る。
「な、なんでもないよ!?」
「へぇ。告白してきた男たちのこと思い出してニヤつくなんざ、いい度胸だな?」
「ち、ちが―――っ、ぅんっ」
慌てて振り向こうとしたらそのまま顎を掴まれて唇を重ねられた。