Dark Moment 2

「………っくそ!」
昼休み、教室を飛び出して屋上までやってきた。
苛立のままにフェンスに拳を打ちつけて、寄りかかった。
イライラが治まらない。
頭の中に浮かぶのは驚いたような戸惑ったような実優の顔。
捺がさんざん実優に言い寄っているのを聞いてて、苛立ちまかせに机の脚を蹴ってしまってた。
怯えさせるなよ、と睨んできた捺に間違いはない。
自分からは行動もできないくせに、積極的に動いている捺にたいして苛立つのは間違ってる。
それに俺は実優の彼氏でもなんでもない。
だから捺と楽しそうに喋っている実優になにも言うこともできない。
「だせぇ」
ガキすぎる自分の行動にため息が出てしまう。
煙草を取り出して一本火をつけて咥える。
ケンカなら殴って殴られて勝敗がつけられる。それなりに喧嘩慣れしてるからある程度自信はあった。
でもケンカと恋愛は違う。
当たり前だけどあまりにも違いすぎて、まともに女と関わったことのない俺にはどうしていいかわからない。
もう一度、ため息をついて、煙を吐きだしてるとケータイが鳴りだした。
七香からの電話で、内容は―――俺のことを心配した実優が俺を探しに行ったっていうことだった。
実優が?
俺のことなんかを心配してくれる実優に心が暖かくなって、実優を探すために屋上を後にした。
屋上からの階段を下りていると、踊り場から繋がる廊下―――聞き覚えのある声がしたような気がして、のぞいてみた。
「………実優?」
スーツ姿の男、たぶん教師と実優が部屋にはいっていくところだった。
なんとなく足を向けて、そこが古文の準備室だと知った。
俺を探す途中で雑用でも押し付けられたかな。
実優ならありそうだ、なんてひどいことを考えながら待つことにする。
だけど―――。
「おせぇな」
もう5分ほどたってるのに出てくる気配がない。
なにしてんだろう?
ただ単純に不思議に思って、準備室に近づいた。
近づかなければ、よかったのに。
『――――』
様子を窺うためにそっとドアに耳を寄せて………後退りした。
変に、心臓の動きが速くなる。
なんだ?
いや、気のせいだ。
聴き間違いだ。
そう言い聞かせて、また近づいて。
「――――ッ」
めまいがした。
俺の耳に入ってきたのは、くぐもったような女の喘ぎ声。
それが実優のものかわからない。
でも、中にいるのは見間違いじゃないかぎり実優のはず。
そしてまた聴いてしまう。
普段より、高い声。いつもの可愛いものとは違う、艶のある声。
実優の声?
自分の中でそうだっていう言葉と、実優なんかじゃないっていう言葉が交錯する。
ここは学校、しかもまだ昼休みなのに、スルか、普通?
んなわけない。
きっと、勘違いで………勘違い……のはずだ。
なのに、人気のない廊下にほんの微かに響いてきたのは室内から聞こえてきた、イったらしい喘ぎ声だった。












どれくらい呆然としてたのか、室内から物音と足音がしてきて、とっさに死角になる場所に隠れた。
少ししてからドアが開いて男が出てくる。
「……松原?」
眼鏡をかけたやたらと顔立ちの整ったその男は古文の松原だった。
俺は直接授業を受けたことはないけど、冷血で厳しいイケメン教師として有名なやつ。
たしか2年の受け持ちのはずだ。
そんな教師がなんで実優と? 第一実優は先週転校してきたばかりなのに。
もともとの知り合いなのか?
もともと――――恋人同士だとか?
一回りは違いそうな歳の差。ありえない、と否定するけど、だからこそ他に理由が見つからない。
実優が……ヤってたっていうのだけでも驚きなのに、相手が恋人じゃないなんてこと考えられるはずない。
どうしようもなく気になって、気づいたら準備室のドアに手をかけてた。
「………え? 和くん」
実優の声が聞こえてくる。
俺は準備室に入って、鍵を……締めてた。
それは誰かに話を聞かれたらまずいだろうっていう配慮と………。
いや、それだけ。
松原と付き合ってるってことを確認して、俺が失恋決定なのを受け止めて、話は終わっちまう。
それだけ、なんだ。
それだけ、だったはずなのに。
なんで―――こんなことになった?
「………和、くん?」
驚きに目を見開いた実優が俺を下から見てる。
そう、下からだ。
俺は実優を床に押し倒して、その華奢な身体に馬乗りになってた。