Dark Moment 1

初めて実優に会ったとき、華奢で……なんつーか小動物っぽいイメージを受けた。
いかにもか弱い女の子って感じの実優が普通に俺に話しかけてきたことがきっかけだったのかもしれない。
俺の見た目はいわゆる不良と呼ばれるものだ。
髪は金髪だし、制服もかなり着崩してるし。俺からケンカを売ることはないけど売られたら買う。
本当のところ俺自身は"不良"っていうつもりはないけど、気づいたらまわりからはそう見られていた。
そんな俺の仲のいいヤツは不良でもなんでもない捺と七香で、こいつらは小学校からの腐れ縁。
"不良"というレッテルを貼られただした中学時代に俺から離れることなく友達関係を続けてる貴重なやつら。
ほかにも友達はいるけど最初はだいたい色眼鏡で見るやつらばっかりだし、いかにも不良ってやつらにばっかり絡まれるから―――だから驚きが大きくて気になったのかもしれない。
『金髪すごい綺麗だね』
七香と喋っていた転校生の実優が俺の髪を見て屈託のない笑顔でそう言ったとき、本当に驚いた。
いかにも不良にあったらビビりそうなのに、まったく怯んだ様子も裏でなにか考えている様子もなく、ただ単純に俺の髪のカラーリングを興味深そうに見ていた実優。
それだけじゃなく、自己紹介したら『和くん』ていう、小学校の低学年の時以来のむず痒いような呼び方をしてきた。
そんな実優を見て、こいつは天然ってやつなのかなって思った。だけど、同時に普通に接してくれるのが嬉しくて―――少し気に入ったのかもしれない。
それが恋のはじまりだったのか、俺にはよくわからないけど。
気づいたらいつも目で追って、気づいたら学校に行くことが実優に会うためになっていた。





***





「実優ちゃんって可愛いねー」
今日は休日。さっきまで出かけていたけど今は俺の部屋に帰ってきていた。
本屋で買った雑誌をお互い読んでいたら、しみじみと思い出すように捺が言った。
それに思わず眉間にしわが寄ってしまう。
出かけたとき、偶然実優とばったり出くわして、そこでこの馬鹿捺はありえないことを言いだした。
『一目ぼれした』なんて、ありえるか?
捺は女癖が結構悪い。
女みたいな顔立ちをしてるけど、内面はかなり鬼畜入ってるやつだと思う。
キレたらウザいし。
それに―――いままでこいつが本気で女に惚れたところを見たことない。
「ねー、和はさ、実優ちゃんに告らねぇの?」
当たり前のように、そしてにやにやとしている捺。
俺が実優のことを好きだ、と断定している捺を無視する。
まだ実優とは知り合って数日。
そんな短い期間なのに惹かれているのは事実だ。
イコール好きになるのかよくわからないけど……、実優と喋っている捺を見て嫉妬したのも事実だ。
「和とライバルかー。ま、遠慮なく頑張るからぁ」
どこか自信ありそうに口角を上げる捺は言うだけ言うと雑誌に視線を戻した。
どこまで捺が本気かはわからない。
ただ俺が実優に興味をもったあの日と同じように、捺も興味を持ってしまったのは確かだ。
でも―――軽い気持ちなら近寄るな。
湧き上がってきた苛立ちに、逆に自分が女々しく感じて雑誌を持つ手に力を加えた。
そしてその翌日から、捺は違うクラスのくせにやたら俺のクラスに―――いや実優のそばに出没するようになった。