EXTRA GAME / Fragment 5

そんなに眠りが深くなかったからかすぐそばにある体温がわずかに動いたことですぐに目が覚めた。
薄く目を開けば、こちらをじっと見ている実優の姿。
どうせろくなことじゃないだろうが、なにか考えている様子でじろじろと俺を眺めている。
物言いたげな表情になったかと思えば、少し顔を赤らめたりとせわしなくころころ変わっていく表情。
「なに百面相してんだよ」
いい加減黙って眺められ続けるのも面倒臭くなってきて声をかけた。
あからさまに驚いて実優は身体を竦ませている。
「お、脅かさないでくださいよ!! し、心臓止まると思っちゃったじゃないですかっ」
大げさな奴だな。驚かすもなにもお前が勝手に見てただけだろ。
実優は胸元を押さえ頬を膨らませて俺を軽くにらんでくる。
「ああ? 人のことジロジロ視姦してたやつが悪い」
「し……!! してませんっ!」
「ふっ。どーだかなぁ? イキまくって気絶するくらいの淫乱ちゃんだからなぁ」
せっかくの週末の夜、この俺に風呂まで入れさせた女なんてお前しかいないぞ。
代償はきっちり身体で払ってもらうつもりだが、中途半端に寝たせいか妙に身体が重い。
倦怠感を取り払うように実優の身体を引き寄せ腕の中に囲った。
小さな悲鳴を上げたが無視して身体に触れる。
「ちょっと、先生っ!」
黙って触られていればいいのに逃げようとするから一層力を入れて閉じ込めた。
それでも抵抗するように上目ににらんでくる。
「いーじゃん、触るくらい。あと始末俺がしてやったんだからな?」
「後始末?」
訝しげに目をしばたたかせた実優に思わず小さな吐息が漏れた。
寝てたんだから覚えてなくても当然だろうが、ほんとうに爆睡状態だったのかと呆れてしまう。
「潮吹いたの誰だっけ? 愛液どろどろ溢れさせてたのはどこのどいつだ? シーツ変えて、お前汗とか愛液で身体ベトベトだったからシャワーで洗ってやったりしてさ。俺って介護士か? つーか、風呂入れても起きないなんてどんだけ爆睡だよ」
つい愚痴愚痴言ってしまっていると、実優は顔を青ざめさせたあと一気に顔を赤くしていく。
戸惑うように視線を揺らして俺を見つめると、感謝するならともかく失礼なことを言い出す。
「ほ、ほんとに? だ、だって覚えてない。っていうか!!! 寝てる間に変なことしてませんよね!?」
変なことってなんだよ、こいつは……。
三回戦は勝手にしたが、それだってさすがに途中で起きるだろうと思ってのことだ。
まさか起きないとは思わなかったし、俺だって寝込みを襲うほど欲求不満じゃない。
だが―――なにもしてない、というのも面白くねーな。
「さぁな?」
薄く笑ってそう言えば、実優は大きく目を見開いて俺の襟首を掴んでくる。
「何したんだすか!?」
……噛むなよ。
それに予想通りの反応ではあるが、なんとなく失礼な反応をされてる気分にもなる。
「……だすかってなんだよ。なにっていやぁナニだろ?」
羞恥を煽るように含みを持たせて指先で頬をなぞる。
一瞬身体を小さく震わせるもすぐに食ってかかってくる。
「はぁぁ?」
「お前イキまくってたけど、俺まだ2回だけだったし。な?」
予定なら今の時間もいろいろと試していたはずだった。
「な!? へ! 変態!!!!」
これ以上ないくらいに顔を赤くして実優が叫ぶ。
……こいつは本当に。もう一回お仕置きしてやったほうがいいかもな。
いや……それよりか調教か?
「その変態に気絶したままよがってんのは誰だよ」
激しく突きあげて、起きたかと思うくらいに反応して蜜たらしまくってたのはどいつだ。
「変態!!!」
本気で思って言っている様子の実優の頬を抓った。
口をとがらせて逃げようとするその頬をぐっと引っ張りながら、ほんの少し声を低くして返す。
「うるせーな。お前が気絶したあと、入れたまま3回戦しただけだよ。それくらいいいだろ」
起きてるか寝てるかの違い。結局気持ち良くなったならいいだろ。
また変態と言われるかもしれないが、事実と本心そのままを告げた。
若干投げやり気味にいったせいか、実優は反論せずじっと俺を見つめてくる。
だが目は口ほどに物を言うとはこのとこだろう。
無言でその眼が変態″と言っているのを感じ取った。
――――こいつは本気で調教決定だな。
「………先生って……性欲ハンパないですね?」
それはいい意味か悪い意味か。
実優からの胡乱な眼差しを見れば後者だろうことは明らかだ。
こいつは……本当に、と何度考えただろうことを思いながらも笑みを向けた。
「なに? 4回戦希望?」
身体をさらに寄せ、密着させる。
さっきから触れあっていたせいで共有された体温と、同じものを使ったはずなのに女が使用したというだけで変にいいにおいに感じるシャンプーの香りに俺の欲は半分ほど反応していた。
あえてそれをわからせるように実優の太ももへと押し付けると、それに気づいた実優は耳まで赤くして視線を逸らす。
「お前が口でシてくれればすぐ復活するけど?」
逃げようとする実優に無理やり目を合わさせて、その唇に指を這わす。
「……結構です!!!! 明日起きれなくなるし!!!!」
だが即座に大きく首を振って、却下されてしまう。
無理だと目で訴えられ内心ため息をつく。
そんなに拒絶するか? さんざんイキまくってたくせに。
感度良好な身体をその気にさせるのはたやすいが―――また意識飛ばされても困るしな。
「あっそ。ま。いーけど」
なんだかんだと結局折れてやる優しい俺。
「明日俺昼から用事あるから、昼前にお前んち送るな。だから朝あと一回ヤればいい」
「は?」
俺なりの譲歩だ。
いまからするよりは朝起きてから一発したほうが、こいつも体力補充できていいだろう。
またしても変態″とでも意味わからない″とでも言いたげな実優は無視。
「ところで今何時なんですか」
諦めたのか、実優はため息をつきながら首を動かし時計を探す。
「いま? 午前2時」
今夜の予定は多少ずれたが3回戦まではシたし、朝もスる。来週には冬休みに入るし、またゆっくり時間をとって調教すればいいか。
2時かぁ、とブツブツ言って呆けている実優を眺めながら、スケジュールの算段を立てた。
「そーいえば。もうすぐ冬休みだけど、お前いつから帰省するんだ?」
冬休み丸々帰省されたら困るな。
そう思って―――ただ何気なく訊いた。
「え?」
「ひとり暮らししてるんだろ? 親御さんとこにはいつ帰るんだよ」
「帰りませんけど?」
首をかしげて当たり前のように答える実優に、こっちが首を傾げたくなる。
「はぁ? 正月だぞ?」
両親から甘やかされて、大事に育てられてそうな―――。
「私、両親いないんです」
「………」
あっさりとした口調で言われた言葉の意味が一瞬わからなかった。
片親がいない=離婚という図式はある。
が―――、両親ともというのは……。
理解できない俺に、ほんの少しだけ瞳を暗くした実優はやはりあっさりと言った。
「私が10歳のときに両親、事故で死んでるんです」
その言葉を認識するのに数秒かかり、思考が冷えたように沈んでいった。