HAPPY BIRTHDAY!! 4

「美味しい〜!」
母屋にあるお風呂もすごく素敵で気持ちよかった。平日というのもあるのか広いお風呂を貸し切り状態で一人ゆっくり入ってきた。
それからいまは夕食。
お風呂から戻ってきたときには夕食がセッティングされてて、「遅い」って先生からため息をつかれた。
そんな先生は―――初めて見る浴衣姿。相変わらず髪を乾かしてないから、濡れた髪が変に色っぽいし、ゆかた姿もやたらと色っぽいし……。
ちょっと鼻血出そうになった。って、やっぱり私って変態!?
でも料理を食べだしたら先生より、美味しい料理に気持ちは持って行かれちゃったけど。
「なかなかだな」
先生も満足そうに冷酒を飲みながら料理に箸をつけている。
料理は懐石料理で近隣で採っているらしい山菜も使われてて美味しい。お肉の炭火焼も柔らかくって美味しくって、頬っぺたがゆるゆるになっちゃった。
一皿づつの量はそんなに多くないけど、種類がおおいから食べ終わった頃にはすごくお腹いっぱいになってた。
熱いお茶を飲んで満腹で満足なため息がでちゃう。
きっと朝食も美味しいんだろうな、なんて考えながらふと気づいた。
いきなりの温泉旅行でちょっと薄れてたけど、今日は先生の誕生日。だからケーキを食べるわけなんだけど……。
こんな美味しい料理のあとで私のケーキを出すのってなんだかちょっと微妙。
心の中で『うーん、うーん』と唸ってると、食後の一服をしていた先生が灰皿に煙草を押し付けながら「ケーキ食うか」って言って来た。
「え」
もう、さっそく!?
つい顔を強張らせちゃうと先生が変なものでも見るように視線を向けてくる。
「ケーキ作っただろ? 俺、持って来たよな」
「……う、うん」
なんとなくもうちょっとあとで、とか思ったけどもう9時近く。先生の誕生日もあと3時間で終わりだから、いま食べたほうがいいのは間違いない。
「えと、片づけてもらうね」
ケーキ用のお皿とかフォークとか借りなきゃだし。
フロントに電話しようと思ったら、すごくタイミング良く部屋に仲居さんがやってきて片づけてくれた。
それにちゃんとケーキ用のお皿とか持ってきてくれてて。
「……監視カメラでもあるのかな!?」
思わず言ったら、先生が呆れたようにため息をついた。
「九時ごろ膳を下げに来るよう伝えてたんだよ。それとケーキ皿も頼んでおいた」
「……先生気がきくね!」
「大人ですから」
にっこり笑った先生に、なんだかバカにされたような気がするのはきのせい!?
ちょっとだけムッとしたけど、気を取り直して室内の小さな冷蔵庫からケーキ箱を取り出した。
先生に見えないように12センチサイズのホールケーキを大きいお皿に乗せて、ローソクを立てる。
ちゃんと準備しておいたライターで火をつけた。
「電気消すね」
「………ああ」
なんかお誕生日会って感じでワクワクしてきた。
照明を全部落として、ケーキを先生のもとへ持って行く。
テーブルの真ん中に置いてから先生の隣にすわって。
「先生。お誕生日おめでとう!」
拍手した。
「………」
「………」
あれ……?
なんで沈黙?
先生が黙ってるから焦ったけど、先生はケーキをじっと眺めてから笑ってくれたからほっとした。
それがとっても優しかったから。
「ありがとう」
そしてふっと先生がロウソクの火を吹き消す。
一瞬で真っ暗になったけど、窓の外が少しライトアップされているからほんのり明るい。
電気をつけに立とうとしたら、まだいい、って先生に引きとめられた。
でも暗いから消したばかりのロウソクの数本にまた火をつけて明るくして見た。
「チーズケーキ?」
ケーキを切り分ける私に先生が訊いてくる。
「うん。先生、甘いものそんなに好きじゃないでしょ? チーズケーキなら甘さも抑えられるし。結構チーズたっぷりつかって濃厚にしてるから大丈夫だと思うよ」
チーズたっぷりに洋酒をきかせたレアチーズケーキ。飾り程度に生クリームを絞って、ラズベリーとブルーベリーで飾り付けをした。レアチーズの土台は甘くないココアクッキーを砕いてつかったから、結構苦みがあってレアチーズと一緒に食べるとちょうどいい感じ。
ケーキは作りたいけど、先生にもちゃんと食べてほしかったからかなり試行錯誤して作ったのがこのレアチーズケーキだった。
「はい」って一切れ乗ったお皿を先生に渡す。
美味しいかな、大丈夫かな?
先生が食べるのを見ながらすごくドキドキしてしまう。
「―――……うまい」
「……ほんと?」
「ああ」
「ほんとうに?」
「ほんとうに」
「ほんとうに??」
ホッとしたんだけど、本当に大丈夫なのかなって何度も確認してたら先生が呆れたように笑って、私の口の中にチーズケーキを突っ込んだ。
「うまい、だろ?」
先生用に作ったからかなり大人な味のチーズケーキ。
私としてはもうちょっと甘いのが好きだけど、でも―――。
「美味しい」
自画自賛しちゃう出来栄え。
「だろ?」
先生は優しく微笑んで私にキスをすると、ケーキをたくさん食べてくれた。
普段ケーキとか全然食べないから、お代わりをしてくれたのがとっても嬉しくってたまらなかった。
それから電気をつけてプレゼントタイム。
ケーキ同様に、ううんケーキ以上にドキドキしてる。
気に入ってくれるかものすごく心配。
あ! そういえば―――夏木先生からもプレゼントを預かってることを思い出した。
ブランド物っぽいプレゼント。後で渡すか先に渡すか悩んだけど、先に渡すことにした。
だって後で渡して夏木先生からの方のが印象強くなっちゃったらイヤだから。
「あの、これ、プレゼント。夏木先生と吉見さんから」
預かった某ブランドロゴが入った紙袋を渡すと先生は怪訝そうに受け取った。
「夏木たちから?」
ふーん、と呟きながら無造作にラッピングを解いていく。
中身は―――ネクタイとネクタイピンだった。
派手じゃない、けど落ち着いた色合いのすごく綺麗なダークブルーのセンスのいい柄で、とっても先生に似合いそう。
ネクタイピンもゴールドでオシャレで……。
あああ……なんか私プレゼント上げていいのかな。
すごく不安になってきた。
そんな私に先生が手を差し出してくる。
夏木先生たちからのプレゼントはもう紙袋に片づけちゃったみたいで、だから私の番で……。
「あ、あの……あんまり期待しないでね?」
おずおずとラッピングしてある箱を先生に渡した。
ロイヤルブルーの包装紙に白のリボン。箱も包装紙もリボンも、文房具屋さんで買って私がラッピングしたんだ。
先生がゆっくりと箱を開けていくのをドキドキMAXで見つめた。
「―――……これ」
少し驚いたように、先生がそれを手に取った。
いま私は学生で学費と毎月のお小遣いはゆーにーちゃんからもらってる。生活費は先生。それは先生とゆーにーちゃんが話あって決めたそう。
バイトをしちゃだめってわけじゃないんだろうけど、ゆーにーちゃんとしては勉強優先でいてほしいみたいだし。それに毎日先生に夕食を作って待っていたかったからバイトは出来なかった。
でもお小遣いそのままなにか買うのにはやっぱり抵抗があって……。
「あ、あのね、それ作ったんだ」
手造りをすることに決めた。―――先生がいま手に持っているシルバーネックレスを。
「……お前が?」
「う、うん。七香ちゃんの従兄さんがシルバーアクセサリーを作って売ってる人で、その人に教えてもらって作ったの。あ、一応練習して作ったからそれは私なりに一番良い出来なんだよ?」
なにをプレゼントしようか悩んでるときに七香ちゃんが提案してくれて。
それでみんなで七香ちゃんの従兄さんの工房に遊びにいった。
5月下旬くらいから週2、3回くらい通って。先生が休日仕事の日は朝からお邪魔したりしてた。
やっぱり先生はすごく大人だし、オシャレだし、いつもいいものを持ってるから、中途半端なものを作ったら浮きそうな気がして何度も作りなおした。
だから―――私なりに頑張ったんだけど……どうかな?
「これ……イニシャルか?」
「そう! あのね、晄人のAと、実優のMなの!」
ネックレスのトップはイニシャルを重ねたもの。AとMが絡みあうように筆記体で作ってある。そしてその横にリング。一応指にもはめられるように先生のサイズで作ってる。
なんだかすごくベタだけどリングの裏に今日の日付とか私から先生へ、みたいな言葉をいれちゃったりして……。
って、なんだかすごく恥ずかしい!!
赤くなる私の前で先生はじっとトップを眺めてる。
「……実優」
「はい!?」
「つけて」
「……へ? うん」
先生から渡されたネックレスをドキドキしながら先生の背後に回って、その首筋につけた。
急いで正面に戻ってチェックしてみたけど……。
「似合ってる!」
ケーキ再び自画自賛。自分で言うのもなんだけど、なかなか良い感じな気がする!
なんて先生からはまだ何も言ってもらってないのに、私からそう言っちゃって恥ずかしさが増した。
「ありがとう、実優。本気で嬉しい」
だけど―――そう笑った先生が、初めてみる笑顔で。ちょっとはにかんでいるような、そんな感じで。
一気に顔が熱くなって、胸がキュンキュンしてしまった。
そして―――ふわっと先生に腕を引っ張られて、気づいたときには背中は畳の上で、視界に一瞬移ったのは天井。そのあとは先生の顔だった。
熱いキスに、そっとまぶたを閉じた。