Bitter Sweets
08 - 12月11,12日 休日のご予定は?


 4限目の授業中スカートのポケットに入れていた携帯が振動した。
 教師の目を盗んで、こっそり携帯を見る。
 送信者は玲。
『今日は休み』
 それを見て、即座に美冬は返信する。
『昨日も休みだったよね!?』
 送信ボタンを押して、1分後また振動する。
『今日まで休み』
 なんの説明もない簡素すぎるメール。
『なんでー!? 開けてよー! 今日放課後由宇たちとケーキ食べに行きたいんだけどー!』
 再度送信ボタンを押す。
 携帯が振動するのを待つが、なかなか返信メールは来ない。
 2分、3分と過ぎたころようやく振動した。
 だが送信者は玲ではなくて和人。
『玲の両親今日の夜帰ってくるみたいなんだ。だから明日は朝から開いてるよ。アキは面倒くさがりだからね、気が向かないと店開けないんだよ。よかったら明日皆で一緒に行く?』
 玲からあって当然のメールの内容が、なぜ和人からなのか。
(アキめー! どんだけ面倒くさがりなのよー!! あほー!)
 ぶつぶつ心の中で呟きながらも和人への返信メールを作成する。
『うん! 明日ひま! 由宇たち誘っておくね。お店でランチもしたいから12時待ち合わせでいいかなー?』
 和人へのメールはデコレーションたっぷり使用して送る。
 玲は絵文字もなにもないメールだが、和人は気持ち程度に絵文字やデコレーションを使ってくれる。
『了解。また夜にでもメールするね』
 和人からの返信はすぐに来て、ようやく美冬は携帯を閉じた。



「明日? 私、予定あるよ」
「私、ひま〜!」
 由宇が残念とため息をついて、遥は顔を輝かせて喜んでいる。
 一昨日和人に連れられて行った玲の両親が開いている喫茶店『フェアリー』。昨日テスト最終日、三人で行ってみたら定休日となっていた。
 玲にメールしてみれば『テスト終わって疲れてんのに、店開けるか』とだけ返信があって、それから美冬がメールしても無視ばかりだったのだ。
「えー、由宇来れないんだぁ」
「また別の日に行けばいいでしょ? せっかく和くんが誘ってくれてるんだから行っておいでよ」
「そうそう。もう毎日でも行きたいくらいだから、由宇もすぐ行けるよ!」
 それフォロー?、と遥の言葉に美冬は疑問を抱きながらも、
「今度絶対行こうね! ほんと美味しいから」
 そう由宇に微笑んだ。
「うん。楽しみにしてるわ」
 頷く由宇と、「早く明日にならないかな〜。和くんとデート♪」とそわそわな遥。
(そういやアキは来るのかな?)
 ふと美冬は思いながらも、意識はすぐに明日なんのデザートを食べようということに飛んでいってしまったのだった。





***





 翌日。
 12時に喫茶店フェアリーの最寄り駅で待ち合わせになっていた。
 待ち合わせに向かう電車に揺られているとき携帯がメールを受信した。
 2つ同時に入ってきたメールは遥と和人からだ。
 遥からのメールを開くと、
『ごめ〜ん! あっくんが急に帰ってくることになっちゃって! 今日行けないわ! ほんとごめ〜ん』
 というドタキャンメール。
 あっくんとは遥のちょっと遠距離恋愛中の彼氏だ。
(ん〜、しょうがないかあ)
 1ヶ月会ってないと寂しがっていた遥のことを考えて、了解メールを返信する。
 そして和人からのメールを開くと、
『みーちゃん、本当にごめん。急に母親からどうしても断れない用事頼まれてさ。今日キャンセルさせて。この埋め合わせは絶対するから。またあとでメールするね』
 と、これまたドタキャンメール。
「……」
 まさか二人ともキャンセルになるとは思わなくて、軽く脱力感に見舞われる。
(じゃー、今日は一人かぁ。どうしようかなぁ)
 まぁでもフェアリーに一人で行っても大丈夫だろう。
 そう美冬は思いながら、ちょうど電車が駅についたので降りながら改札を抜けた。
 駅を出てフェアリーのほうへと向かおうとしたとき、
「おい」
 低い声が響いてきた。
 ん?、と思って振りかえると壁にもたれかかった私服姿の玲がいた。
「あれ――――……」
「お前、なに素通りしてんだよ」
『なんでいるの?』
 言いかけた言葉は見事に遮られ、そして沈黙が流れる。
 美冬はぽかんとして玲を見つめ、玲はみるみるうちに不機嫌そうに顔をしかめた。
「あ……アキ、お待たせっ!」
 取り繕うように笑顔を向ける。
 まさか玲の存在を忘れてたなんてことは口が裂けてもいえない。いや、鋭い目でにらんでくる玲だから、すでに気付いているかもしれないが。
「お前………」
「あ、和人来れなくなったんだね! 残念だねっ」
『俺のこと忘れてただろう』
 そんなセリフを言われそうだったから、慌てて今度は美冬が遮った。
 玲は軽く舌打ちすると、大きなため息をつく。
「ああ。あいつんちはお袋さんが権力握ってるからな。逆らえないんだよ」
(……権力って!?)
 いつも優しそうな和人。その母親ならさぞかし穏やかで優しそうなイメージがあるが、実際はどんなのなのか。好奇心がわき上がってくる。
「で、あと一人か」
 腕時計に目を落として玲が呟く。
「……あ! 遥、ちょっと用事できて来れなくなったんだ!」
「…………」
 美冬の言葉に無言になる玲。
「………あれ?」
 ふと美冬は指折り数える。今日来るはずだった人数と、これなくなった人数。
 マイナスしてみれば、
(二人きりじゃん!!!)
 びっくりな事実につきあたる。
「わー! もしやデート?」
 なんとなく微妙な気分になって、わざとらしく明るく言うと、玲はまた大きなため息をついた。
「………デートにもなんねーよ」
(主語が抜けてるぞ!? っていうか、失礼だろ!)
 ムッとして美冬はじとーっと玲をにらむ。
 だがまったく気にする様子もなく、玲は歩き出した。
「行くぞ」
 リーチの長い足。ずんずん先を行く玲に、美冬も慌てて歩き出す。
「ちょっと待ってよー!」
 こうして長い一日は始まったのだった。