Bitter Sweets
16 - 12月22,23日 クリスマスまであと何日でしょう?


 放課後、美冬たちは和人と合流してファミレスにいた。
 ドリンクバーを注文し、それぞれが好きなドリンクを飲んでいる。
「料理はどうする?」
「ピザは外せないよね〜」
「あとやっぱりチキンー!」
 和人の問いに由宇と遥が次々に返す。
「じゃー、料理はー……」
 さらさらと達筆な時でメモっていく和人。その隣は美冬で、4人がけのソファー席に玲の姿はない。
 頼まれているクリスマスケーキの下準備で25日の朝までは忙しいそうだ。
 美冬はオレンジジュースを飲みながらみんなの会話をぼーっと聞いていた。
「それじゃぁ3時に待ち合わせて買い出しでいいかな。ケーキはアキに任せるってことで」
「おっけー!」
「はーい」
 うまい具合にまとまったらしい話し。楽しそうに遥がガッツポーズして、由宇も笑顔で頷いている。
「みーちゃんは飾り付け担当だよ」
 そして向けられた言葉が自分あてだということに、少し間をあけて気付いた。
「へ?」
「へ、じゃない! さっきからなにぼーっとしてんの?」
 向かいに座った遥が眉を寄せている。
「ほんと。昨日からずーっとだし。なにかあったの?」
「なにもないって!」
 由宇の探るような眼差しに、美冬は大きく手を振る。
 と、突然ぽんと美冬の頭に手が置かれた。見れば和人が優しい笑みを浮かべている。
「みーちゃんがないっていったらないんだよね。それにほんとになにかあったら相談するだろう?」
 ね、と言われ、美冬は「う、うん」と頷いた。
「……いつだって相談のるんだからね」
 ぼそり由宇が呟く。
 心配してくれているということが伝わってくるから、美冬は笑顔で「うん!」と返した。
「じゃー、飾り付けよろしく!」
 遥が話をおさめるように手を叩いて言った。
「………飾り付けってなんだっけ」
 話を聞いていなことばればれで美冬は頬をひきつらせながらも仕方なく訊く。
 由宇と遥は大きなため息をつき、和人が説明をしてくれた。
「アキんちのクローゼットにおばさんが持ってきてそのまま封印されちゃってるツリーがあるんだ。それ出して飾り付けしておいてもらいたいんだ。あとはアキもケーキの準備とかで疲れていると思うから何かアキの手伝いあったらしておいてほしいってところかな」
「了解ー!」
 首を縦に何度も振りながら美冬は気付く。
(……じゃあ、25日ってみんなが来るまでは二人っきりってこと……だよね)
 そう考えると急に心臓がバクバクと鳴りだす。
(どんな顔してあえばいいんだろー……)
 土曜日逃げだして、昨日の朝は顔を合わせたが何も喋っていない。そんな状態のまま二人っきりは気まずいに決まっている。
 一瞬赤くなった顔は急激に青くなっていく。
 そしてそんな美冬の表情を隣の和人が観察しているのを、美冬はまったく気づいていなかった。
 それから四人はパーティのことを少し話し、2時間近くファミレスに居座って雑談していた。
 美冬が家に帰ってきたのは7時をまわった頃だった。
 部屋で着替えてリビングに降りていくと、母親が言った。
「ケーキ、予約変更したのよね? 明日取ってきてねー」
 そこで美冬は思い出した。
 お気に入りのケーキ屋から玲へとクリスマスケーキを頼んだことを。
 明日は祭日。一日早く休みの日に家族でクリスマスを祝うことになっていた。
(あ、明日……アキのところに行かなきゃなんだ……)
 どうしよう!、と焦りが沸く。
(気にしないで大丈夫。あんなのジョーダンに違いないから! だいじょーぶ!!)
 そう自分に言い聞かせながらも、今夜もまたずっとため息は止まらないのだった。




***




美冬は何度も携帯で時間を確認していた。
現在、23日15時30分。
場所はーーー玲のマンションの前だ。
クリスマスケーキを取りにきたのはいいが、どうしてもあと一歩が踏み出せない。
エントランスで立ち尽くして、どれくらい経つのか。
怪しい人間だと勘違いされて通報されたらどうしよう。
そんなことを思うが、どうしても部屋番号が押せない。
自分のヘタレさにため息が出る。
と、ウィーン…、自動ドアが開く音がした。
そして、
「みーちゃん?」
聞き覚えのあるの声がした。
見れば和人がいる。
「どうしたの?」
「えっと、あのクリスマスケーキ取りにきたんだけど」
「あぁ」
なるほどね、と爽やかに笑う和人。
「和人は?」
「俺はバースデーケーキ」
和人はケーキの箱を上げて見せた。
「そっか! 妹さんの誕生日だって言ってたね」
おめでとう、と自然に笑顔がこぼれる。
和人は「ありがとう」と、目を細めた。
「みーちゃん、いまちょっと時間ある?」
「ヘ? 大丈夫だけど、和人はいいの?」
「うん。この近くにコーヒーショップがあるから、そこに行こうか?」
「いいよ」
そうして二人は玲のマンションから離れていった。
辿りついたコーヒーショップは有名チェーン店で、二人それぞれ頼むと窓際のカウンター席に陣取った。
熱いキャラメルマキアートをふうふう冷ましながら一口飲む。
「あつっ」
冷ましてたのに舌を火傷してしまった美冬は、若干凹み気味に再度ふうふうと熱を冷まそうと息を吹きかけた。
隣から吹き出す声が聞こえて、横を見ると和人が手の甲で口元を押さえて肩を震わせてる。
「………なに?」
なんだか馬鹿にされてるような気がする、と美冬は少しだけ眉間にしわを寄せた。
「ん? ごめんごめん、みーちゃんがすごい可愛かったからさ」
笑いを静めた和人がブラックコーヒーに口をつけながら、横目に美冬を見つめた。
ふふっと笑う和人はどうやってもイケメンで、そんな和人に可愛いと言われるとそれがからかい半分だったにしても恥ずかしくなってしまう。
「和人はお世辞ばっかりだね!」
赤くなってしまうのをごまかすように嫌味混じりに言えば、また吹き出された。
さすがにムッとして美冬はキャラメルマキアートを飲むことに専念する。
しばらくのあいだ会話はなく、すこししてから和人がなんでもないことのように切りだした。
「みーちゃん、アキとなにかあった?」
「んー? ………っぇえ!?」
美冬にとっては予想外の質問に盛大にむせてしまう。飲みこんだマキアートが気管のほうにはいってしまいゲホゴホと咳き込むと、「大丈夫?」と和人が背中をさすってくれた。
「……だ、だいじょうぶ」
「ゆっくり飲んで?」
心配しているふうな口調だけれど、その顔はにこやかなままで美冬はまた顔を赤くすると小さく頷いた。