secret 60 恋、想い

「別に―――気にしない」
「え?」
「俺を好きだと言う女が二人いて、そいつらが友達同士だったとしても俺には関係ないし」
「………」
そりゃそうなんだろうけど。
それを言ってしまったら、どうしようもないっていうか……。
「でも、気になりません?」
「気にしてどうする? それとも仮に俺じゃなくってお前だった場合、相手のやつらが友人同士だったからといってどうする。お前がどちらかの男を好きなら、話はこじれるだろうし友人か関係にもヒビが入るかもしれないが。そうでない場合はとくに気にすることはないだろ」
「………」
「2人のどちらにも気がないのに、気を配ってどうなる。不用意な干渉は誤解を招くのがオチだ。
それにライバル関係イコール友人関係が崩壊するとは限らないだろ」
「………でも」
先生の煙草の煙が、外に流れ切れてなくって、少しづつ車内に漂っていってる。
煙草には慣れてないから、ちょっと苦しい。
息苦しく感じてしまう。
「でも。自分のせいで―――2人の友人関係が揺れてしまってると思ったら、苦しいじゃないですか」
「自分のせいと思うのがそもそも間違いだ。相手は勝手にお前のことを想っているっていうだけだろ」
先生が言う言葉が“私”に向けられてる。
仮じゃなくって、もう私が当事者だと決めて、言われてる。
けど、もうそんなこと気にすることはできなくって―――。
「でも!! 私もともだちだから、気になるんです! 片思いで、一方通行で、苦しいのに、それなのにともだちも同じ人を好きだなんて知ったら……」
「それはお前の場合だろう。それもお前は女で。男も一緒だとは限らないだろーが。男はいちいち気にしないよ。同じ相手を好きになった奴が友人だろうが、兄弟だろうが、本気で好きになったら止められないのが好きになるってことじゃないのか」
「………」
なにも、言えなかった。
先生のいうことは正論。
人を本気で好きになったことがない、なんて先生言ってたのに……。
なんで、そんなこと言っちゃうんだろう。
好きになったら、止められない。
そんなの―――よく知ってるよ。
でも、でも。
「でも、でも。でも―――友人をなくしたら?」
「何かを得るには失う場合が多いんだよ」
「失う?」
「欲しいモノ、願うモノ、全部まるごと自分のモノになんて出来ないんだよ。
世の中はそんなに都合よく回ってない―――。
だから、本気で欲しいと思ったモノを得るのなら、なにか失ったって―――」
「失ってしょうがない!!!なんて、そんなのないっ!!!」
叫んだ私に―――先生が驚いたように視線を向ける。
「失う、って、簡単に言わないでっ!!」
頭の中がぐちゃぐちゃしてる。
喉が焼けつくくらいに叫んでる。
なにを、言ってるんだろうって、心の隅で思うのに。
止められない。
「人なんて、簡単に、死んじゃうのにっ」

―――私、なに言ってるんだろ。

「当たり前の明日なんてないのにっ!!」

先生が、呆然としてる。

先生と、そして―――視界の端に、車の前に無理やり割り込んできた車が見えた。
その車が赤信号で停まって。
ハッと我に返った先生が急ブレーキを踏んで。
擦れるような音を響かせて、車が大きく―――大きく揺れて、

停まった。





「―――――」



「……チッ!! あぶねーな!」









「―――――」



『――――おい?』




視界が




歪んだ。