secret 1 はじめまして、なのに?

「あっ…! やぁ…ッ! あンッ…! ィクッ…!」


漏れ聞こえてきた声に私はびっくりして立ち止まった。
だって今のって喘ぎ声だよね?
ま、まさかエッチしてんのかな?
私――橘実優がいるのは、私立大佐華学園の校舎のどこか。
どこか、っていうのは…実はいま迷子中だから。
今日転校してきたばっかりで、放課後を利用して校舎を見て回ったのが間違いだった…。
だって私、めちゃくちゃ方向音痴。
しかも学園内はすごく広くて、気づいたときには人気のないとこに迷いこんじゃってて!
どうしようって思ってたとき…
歩き疲れて一休みしたときに…
聞こえてきたのが…

「やぁん! ぁん! せ、せんせいッ…」

「………」

え、いま

いま、
せんせいッて……
せ、先生!?
もしかして、すごいヤバいとこに出くわしちゃったのかな?
先生同士にしても
先生と生徒にしても、見ちゃいけないとこだよね?
私は血の気が引いてくのを感じて、ゆっくり、とりあえずどこかに移動しようと思って一歩足を踏み出した……ら
バッターン!
ものすごい音が響いてしまった……。
な、何もないとこで転んじゃったよ!
こんなとこ見られたら恥ずかしすぎる!
立ち上がるのも恥ずかしし!
あ〜周りに誰もいなくって良かった。
ホッとしたけど、気づいた。
周りの静けさに。
さっきまでの喘ぎ声は聞こえなくなってる。
そして、バタバタと突然ものすごい物音がしたかと思うと、ガラッと教室のドアが開いて足音が走り去っていくのが響いてきた。
私は顔を上げずに床に伏せたまま。
お互いに顔合わせたら気まずいだろうし……。
足音が聞こえなくなるのを待って、ようやく立ち上がった。
でも私は忘れてた。
去って行った足音が一つだけだったってことに。
立ち上がって制服の乱れを整えてると………
「おい」
「……………」
前のほうから聞こえてきた男の人の声。
状況的に、きっと『先生』らしい人の声。
「おい、なんにもない廊下で転んだヤツ。オマエだよ」
もう一度声がかかった。
仕方なく、私は恐る恐る顔を上げた。
教室の開いたドアに寄りかかったスーツ姿の男の人が立ってる。
窓から差し込む夕日でハッキリわからないけど、無造作にセットされた栗色の髪と整った顔立ち。
涼やかな、やけに色気のある眼差しが私に向けられてた。