らぶらぶでいきましょう♪ 9

一年生の最後の日、終業式があった日だった。
あの頃はまだ先生と付き合ってなくって、あの日私は学校を辞めちゃう先生に会いに来たんだったっけ。
そして先生にゆーにーちゃんについていくって、ニューヨークに留学するって伝えたんだ。
懐かしくって切なくって、ぎゅって先生の背中に手をまわした。
いまだから、わかる。
たぶんあの時の私は先生に引きとめてほしかったんだって。
先生が私のことを好きだなんて思うことはできなかったけど、それでも行くなって、好きだって言って欲しかったんだって思う。
「……晄人、……私」
なんとなく感傷的になって、あの時のことを謝りたい気分になった。
ぽつり呟くけど、続きを言うのを止めるように腰にまわっていた先生の手に力がこもる。
隙間もないくらいに身体同士が密着しあう。
洋服越しだけど伝わってくる温もりに心が落ち着いて、でもやっぱりちょっとだけ泣きそうになる。
「なんだその顔」
顔を上げた先生が私の顔を覗き込んで笑った。
いつもと変わらないちょっとだけ意地悪そうな笑顔。
それさえもぎゅうって胸が締め付けられて、もっとぎゅっと先生に抱きつく手に力を込めた。
いまは幸せで。
あのときとは違って、いま私のそばには先生がいて、これから先だってずっと先生のそばにいる。
だからずっとずっと幸せ。
もうあのときに戻ることはないんだから、先生が私のそばにいないことなてないんだから。
だから、感傷的になる必要なんてない―――……。
「実優」
それでもなぜか目の前がちょっとだけ滲んで、それを先生がおかしそうに笑って、私の目元を舐めた。
「ばーか」
「ばかじゃないもん」
「おい」
「なに……?」
「ずっと俺の傍にいろよ」
「え―――……んっ」
不意に言われた言葉に驚く間もなく唇を塞がれる。
今度はすぐに舌が入り込んできて優しく私の舌を絡め取ってくる。
私の心を全部知ってるみたいにいつもより柔らかく動く舌に、切なさはすぐに消えてなくなった。
交わる舌から熱が生まれて、さっきまで繋がってた余韻に飛び火する。
身体がまた熱くなっていくのを感じながら、どんどんキスを深めていった。
先生はなんだかんだ優しくって、その優しさが伝わってくるようなキス。
一度シたのに、先生の手がそっと腰のあたりを撫でるからまた繋がりたくなってしまう。
先生の背中に回していた手を首に移動させる。
そしたら先生の手がそれを合図したように太腿に下りていって。
"幸せ"だから、それをもう一度確認するように、また―――。
―――……♪
と、甘ったるい空気を裂くように携帯の着信音が鳴りだした。
「………」
「………」
お互い動きを止めて顔を見合わせる。
鳴っているのは先生の携帯。
でも出るつもりはないようでまた先生は私にキスしてきて。
「……っん……」
だけど着信音は鳴り続ける。
一回切れて、また鳴りだして、先生がそのしつこさに舌打ちして携帯を取り出した。
ディスプレイを見た先生が眉を寄せて私を見る。
誰だろう?
中断されたせいで甘い疼きを持て余しながら受話ボタンを押す先生を見つめていたら―――。
『もしもしー!! アッキー! ちょっと、すぐ出てよねー! ねぇねぇ、実優一緒じゃない!!?』
携帯からものすごく大音量で聞こえてきたのは七香ちゃんの声だった。
「ウッセェ」
携帯を耳から離して先生がぼそりと呟く。
確かにうるさい。
「なんだ」
『なんだじゃないー! 実優いる!?』
なんで七香ちゃん先生の携帯にかけてるんだろう。
一瞬そう思ったけど、私の携帯は教室においてきてるんだって気づいた。
先生はうんざりした様子で無言で私に携帯を差し出す。
思わず苦笑しながらそれを受け取って出た。
「もしもし、七香ちゃん?」
『あ! やっぱりいたー! ちょっと実優早く帰ってきて! 帰ってくるの遅いと思ったらやっぱりアッキーとイチャついてたんだね!!』
「………」
イチャついて……たけど、断言されるとなんて返せばいいのかわかんない。
反応に困ってると、私のことなんて気にせずにマシンガントークを七香ちゃんは続ける。
『とりあえず帰ってきて、急いで! もうショーもはじまっちゃってるし、もう大変なの! 忙しいのー! 早く帰って来てよ! ダッシュよ、ダッシュー!!! じゃーね!!!』
言うだけ言ってガチャンって切れた。
耳がキーンってするくらいにすごい声量だった。
でもたしかに大変そうな様子が伝わってきてた。
電話の向こうはものすごい喧騒で、ショーで使用する音楽とかかかってたから。
「先生」
戻らなきゃ。
って先生を見た途端にまたキスされる。
今度は荒々しいキス。
あっという間に意識がさらわれちゃうキスに状況も忘れてキスをしていたら、また携帯が鳴りだした。
先生は無言で少ししてから受話ボタンを押した。
『アッキー、二回戦はお家でしてくださいね』
一言だけ言って切れた電話。
声は七香ちゃんじゃなくって羽純ちゃんだった。
「………」
「……先生、戻ろうか」
眉間にしわを寄せちゃってるご機嫌斜めになっちゃったらしい先生の手を引っ張って教室に戻ることにした。
それにしても……二回戦って、みんなにバレバレなのかな。
だとしたらすっごく恥ずかしいんだけど。
ミニスカートのすそを引っ張りながら、なんとなくもじもじとしてしまった。



教室に戻っているともんのすごく注目を浴びちゃう。
私はすっごいミニスカの派手な格好だし、先生はホストまがいな格好だし。
「ねぇ、先生。なんでそんな格好してるの?」
ずっと聞きそびれてたことをようやく訊くと、先生は自分の格好を思い出したのか眉を寄せてすっごく嫌そうな顔をした。
「あー……。智紀だ」
「智紀さん?」
「この前、カードゲームで賭けして負けた」
「じゃあその格好って罰ゲームなんだ!?」
「……ああ。あのバカ朝っぱらからうち来て美容室まで連れて行って髪まで染めさせるし」
よっぽど嫌だったのかブツブツ悪態ついてる先生。
思わず笑っちゃったら横目ににらまれちゃった。
「それで、智紀さんは?」
確か今日一緒に来るかもっていう話だったんだよね。
優しくって気さくで、そしてちょっと面白い智紀さん。
「もう来てる。俺は職員室に寄ってきたからな。あいつは先にお前のクラスに行って―――」
話しているうちに私のクラスまで来たんだけど。
「な、なにこれ」
あまりの騒がしさに立ち止まってしまった。
前も忙しかったのは忙しかったけど、いまはものすごい状態になってる。
大音量で音楽がかかってて、ショーがあってるっていうのはわかるんだけど。
音楽に負けないくらいにうるさいのが―――歓声。
「なっちゃーん!」
「可愛い〜!!!」
「こっち向いて〜!!」
なっちゃん……って、まさか。
ショーのメインでセンターなのは捺くん。
もしかしてと思って教室の中に人ごみを押しのけながら入ると。
「………あれ、向井か?」
「う、うん」
ステージはものすごいことになってた。
どこからどうみても美少女にしか見えない捺くんがキラキラスマイル振りまいて、女装男子を従えて歌って踊ってる。
……うん、似合いすぎてハマりすぎてて、すごいとしかいいようがない。
そして――――。
「なっちゃーん!!!!」
ステージ前で歓声を送ってるたくさんの男の人たち。
その中に……。
「ふっ」
先生が、かなりのハイテンションで歓声を送っている―――智紀さんを見つけて、なにか企むような笑いをこぼした。
「………」
「あっ、実優! おそーい! ほらほら、ラブラブタイムは終了ー!!」
そして私は七香ちゃんに発見されて。
「じゃ、じゃあ先生あとで!」
ウェイトレス業務に戻されちゃって、そのあとは慌ただしく時間が過ぎて行った。
もちろんショーが終わった後、お客様として居座った先生にしつこいくらいのオプションサービスをさせられたのは言うまでもない。
「ほら、にゃん語」
「……コヒーですにゃん」
「へぇ、捺子ちゃんって言うんだー! 俺、智紀! しかしすっごい可愛いね。俺マジでタイプなんだけど!」
「……はぁ」
私がにゃん語を強要させられる横に座ってるのは美少女"捺子"ちゃん。
「ねぇ、先生」
「あ?」
「い、いいの? 智紀さん……」
「ねぇ、捺子ちゃん、今度デートしよう?」
「……え、でも……」
ひきつってる美少女捺子ちゃんと満面の笑顔の智紀さんたちを見て、先生はものすっごく悪そうな笑顔を浮かべていた。
「いいんだよ。知らないほうが幸せってことがある」
ショーの後、捺くんに先生は"女"として智紀さんに接するように指令を出した。
それはたぶん今日ホストまがいの格好をさせられた仕返しなんだろうけど。
「今日文化祭きてよかった♪ 捺子ちゃんと俺の出会いにかんぱーい!」
「………」
「………」
「……ふっ」
そうしてどたばただったけど楽しい文化祭は終了したのでした。







END



おまけ




「……晄人ってほんとにヘンタイだよね……」
「あ? お前、人のことヘンタイヘンタイっていつも言いすぎだろ」
「だってそうじゃ……あっ、んっ」
「そのヘンタイに感じまくってるのは誰だよ、ヘンタイ」
「……んっ……ばかっ!」
文化祭のあと、ウェイトレスの衣装をなぜか先生が買い取って。
どうやら気にいったらしいその衣装を着させられてはそのままエッチで。
「っ、あきとっ」
絶頂に押し上げられる快感に、先生の黒い髪の毛を掴みながら、背をのけぞらせて。
私も―――もう一回ホストまがいな格好の先生とシたいなぁ……なんて思ったのは先生には絶対にナイショ。





おまけ。おわり☆