EXTRA GAME / Delusion 5

それがなんなのかはわからない。
ただ快感がいつもとは同じようで違う。
なんだろうと思いながら、よがる実優に優しい言葉をかけ煽り、突き上げを激しくしていく。
「だ……きし…めてっ」
嬌声にまぎれるように聞こえてきた掠れた声。
甘えるような響きのそれに抱き起こして抱きしめてやる。
きつく抱きしめて下から突きあげれば、俺にもたれかかってきつく抱きしめ返された。
伝わってくる体温が、妙に暖かく感じる。
―――甘ったるい空気が漂っているような気がする。
湧き上がってくる吐射感と変な高揚感。
「いっちゃ……う……、ぁっ! あ…んっ!」
絶頂間際を知らせる声とともに抱きついてくる腕に力が込められた。
"そういうプレイ"だから、あくまで優しくいつもとは違うリードで実優が昇りつめるのを助ける。
「イッていいよ」
密着する身体。突き上げるたびに卑猥な音と肌がぶつかる音が響き渡っている。
俺自身そろそろ限界を感じながらタイミングを計っていると実優が顔を上げてうつろな目を向けてきた。
「いっしょ……に……イって?」
―――なんだろう。
やはり快感とは違うものがざわざわと胸の内でざわめいているのを感じる。
それと同時に覚えたのは違和感。
熱く俺のに絡みついてくる実優の中に持って行かれるのを感じながら、了承を示す。
「あぁ……わかった」
あとはただ絶頂へと向かうだけだ。
「っあ、ん……っああ」
切羽詰まったような喘ぎを聞きながらひと際激しく腰を動かし―――。
「……ッ」
ギュッと俺を締めつける膣内に自身が吐射感に大きく脈打つのを感じながら欲を吐きだそうとした瞬間。
「あ…っ。あ…っ、はっ……んんっ!! はなさ……ないで…っ」
喘ぎなのか叫びなのかわからない、甘く切なげな声が響いた。
「ずっと、はなさ、ないでっ……。いっしょ……に…い……てっ……!!!」
訪れる絶頂。
激しく収縮する中に、ゴム越しに白濁を注ぎこむ。
すべてを出しつくすように腰を動かし続けながら名も知らない高揚感が消えていくのを感じた。
そして残ったのは違和感に対する正体。
――――そういうこと、か。
俺にしがみつく実優の荒い息を首筋に感じながら胸の内で出たのは冷めたため息だった。
繋がったままの状態で実優を見下ろすと焦点があわない目でぼんやりとしている。
その目が俺を見つめ、しばらくしてわずかに見開いた。
俺を"俺"と認識したのか一瞬困惑した表情をした実優は顔を真っ赤にさせて俯く。
「大丈夫か」
立て続けにイキまくっていたせいか、いまだに膣内は余韻を残すように蠢いていた。
もう"プレイ"は終わったのだからいつもどおりに声をかける。
わずかに顔を上げて頷く実優に、「抜くぞ?」と告げて引き抜くと後処理のためにベッドを離れた。
着衣の乱れを整え、タオルをお湯でしぼりながら気だるさにため息がこぼれる。
ヤったあとのすっきり感よりもかったるいような、奥歯にものが詰まったような、微妙さを感じつつタオルを持ってベッドに戻る。
よほど疲れたのかぐったりと実優はベッドに寝ていた。
「おい」
声をひとつかけて身体を拭いてやる。
「あったかい……」
ほっとしたような実優の声が響く。
ついさっきまで乱れていた身体はまだ火照っているらしく赤みを帯びている。
俺が抱いたのはまぎれもなくこの身体で、この天然娘。
だが――――。
「………お前さ」
こいつはきっと、おそらく途中から勘違いしていたはずだ。
たぶん―――……元カレ?
「はい?」
いつもとは違って優しい言葉をかけたからかもしれない。
"好きだ"だとか言ったからか?
………―――だがまあ、俺には関係ない。
こいつがいまだに元カレを想っているのはわかっていること。
俺はそれに口出しする立場でもなければ、するつもりもない。
ただの、セフレなのだから。
「………なんでもない」
あほくさい自分の思考に何度目かのため息が出た。
「え? なんですか? 気になるんですけどっ!」
「……………実優はやっぱりエロかった、って確信したってだけだよ」
エロかったのは事実だ。
「……うーっ……。いいですよ、もー。エロくっていいもん。先生のほうが変態だし!」
ようやく余韻もさめてきたのか、頬を膨らませながら俺を睨んでくる実優。
この俺を元カレと混同したうえに変態呼ばわりするとは……こいつは本気で一度締めてやったほうがいいかもしれない。
考えそのままに、口角を上げて冷たい目線を送ってやる。
「ああ? お前、まだシたりないわけか? あー、そういやまだ残ってたな? 全身縛りのソフトSM」
「え、え? 嘘ですっ! なにも言ってませんー!!」
一気に青ざめて首を激しく横に振る実優を横目に白衣を脱いだ。
「ふんっ。ま、それは今度でいい。俺まだ仕事残ってるしな」
「今度って……」
実優は唖然として目を白黒させている。
ソフトSMくらいなら……こいつならイケそうだな。
そんなことを考えながら実優にタクシーで帰るように言い、その代金を渡す。
「ちゃんと宿題しろよ」
「……はぁい」
一応教師らしい一言を添え実優を残して先に保健室を後にした。
校舎内はがらんとしていて静まり返っている。
準備室への道を遠回りしながら歩き、煙草を取り出した。
一本口に咥えて火をつける。
構内禁煙だが誰もないんなら効力ゼロってことで構わないだろう。
紫煙をふかしながら―――あの天然娘の元カレという男がどんなやつなんだろうかと、ふと思った。
年上なのには間違いないだろうな。
大学生くらいだろうか―――……。
「……バカくせー」
どうでもいいことをしばらく考え込んでいたことに気づき、自嘲がもれる。
半分ほどになってしまった煙草を携帯灰皿にもみ消し煙を吐ききった。