HAPPY BAIRTHDAY!! 1

ポケットにいれてたケータイが振動してるのに気づいて取りだした。
メールが一件入ってて送信者は先生。
「……先生から?」
キー操作してたら七香ちゃんの声がして、顔を上げながら「うん」って頷く。
「ラブラブだねぇ〜」
なんて冷やかす七香ちゃんに首を振りながらメールを開く。
ただいまお昼休みの中庭。
七香ちゃんと羽純ちゃん、和くんと捺くんで昼食を食べるのが日課になってた。
今日は梅雨の日の晴れ間で、すごくいいお天気だったから中庭まで出てきてる。
「そういえば今日って先生の誕生日でしょ?」
「あのオッサンが七夕生まれなんて似合わねー」
七香ちゃんと捺くんが話してて。
「確かに七夕って感じじゃねーね」
「そうね、先生なら天の川無視して毎日会いに行きそうだものね」
続けて和くんが同意して、羽純ちゃんが締めて―――みんなは笑いだした。
「………」
今の会話先生聞いてたら絶対怒ってるな……、なんて密かに考えながら受信メールに目を通した。
『悪いが夕食、外でに変更していいか? 今日作ってくれる予定だった料理、明日ちゃんと食べるから。あと学校終わった頃迎えに行く』
今日は7月7日。七夕で、そして先生の誕生日。
だからケーキは昨日の夜作って、今日の夕食はいつもよりちょっとだけ御馳走にしようかなって思ってた。
材料も全部買いそろえて、学校終わったらすぐに帰ってお料理しようと思ってたんだけど。
「どうかしたのか?」
楽しみにしてたからちょっとだけ残念に思っちゃってたら顔に出てたのか、心配そうに和くんが訊いてくる。
相変わらず和くんは優しくって心配症だから、笑顔で首を横に振った。
「ううん、大丈夫。今日、先生が迎えに来てくれるんだって」
料理明日食べてくれるってちゃんと書いてるし、それに―――先生が迎えに来てくれるなんて初めてだからやっぱり嬉しくって自然と顔は綻ぶ。
「……ふーん」
「……へー」
「………」
和くんと捺くんがなんだかちょっと白けたような笑顔で、どうでも良さそうに頷いた。
「……あんたら、いい加減彼女作れば?」
「そうね、確かにいい加減ウザいわね?」
七香ちゃんが言って、羽純ちゃんまでもが珍しく直接的にそんなことを言っちゃう。
ムッとした和くんと捺くんは何か言いたそうにしたけど、結局黙ってパンを食べてた。
「実優ちゃん」
「うん?」
「素敵な、先生の誕生日になるといいね」
羽純ちゃんが微笑んでくれて、私も笑顔で大きく頷いた。





***





帰りのホームルームの最中に先生からメールが来て、もう学校近くで待ってるってことだった。
そのメール見たら、担任の夏木先生の話が長く感じてきちゃって、早く終わんないかなーってそわそわしちゃう。
上の空で夏木先生の話を聞いてたけど、学級委員がかけた号令にはいち早く反応してた。
急いで立ち上がってみんなと一緒に終礼の挨拶。
ようやく帰れる!
「じゃあ、先に行くね! バイバイ!」
七香ちゃんたちに手を振って、教室を出ようとしたら―――。
「橘さん」
夏木先生に呼びとめられた。
急いでるのに……、ってちょっとため息をつきながら振り返ると、小走りで夏木先生が近寄ってきた。
「ごめんなさいね、急いでるときに。あのこれ、松原先輩に渡してもらえるかな? 私と、吉見からって言ってもらえばわかるから」
そう差し出されたのは某ブランドの紙袋で、ちらっと見えた中にはラッピングされた箱が入ってるから誕生日プレゼントなんだと思う。
夏木先生が先生の後輩で、その恋人が先生のお友達って話は教えてもらってた。それにいま私が先生とちゃんと付き合ってる―――"婚約"してるっていうことも知ってる。
一応同棲してるから夏木先生と学校長には話をつけておかなきゃいけないって先生が言って、事情を説明しに来たのは4月の下旬のことだった。
そのときの夏木先生の表情は……忘れられないかも。
ものすっごく、ポカーンとしちゃって、確か『ロリ○ン』って呟いちゃって先生からものすごく睨まれてたもん。
「はい。ありがとうございます」
プレゼントを受け取りながら、先生のかわりにお礼を言うと、先生はもうひとつA4サイズの封筒を渡してきた。
「これも渡しておいて?」
「わかりました」
中はなんだろう、って思ったけど、早く先生のところに行きたかったから「それじゃ先生さようなら」って早口で言って頭を下げた。
先生の「さようなら」っていう言葉を聞きながら私は身をひるがえすと早歩きで校舎を出て、そして先生の車へと走っていった。